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ピースと関係

色を見て、形を見て、一つ一つ繋ぎ合わせていく。

地道な作業。

地味な時間。

ふとそれをやりながら百合は思った。



人生も同じなのかな?



一つ一つ、自分にあった道を探して、探して、探して。少しずつ合わせていく。



本当、地道だなぁ。



「百合? それ、そこにはまんない?」


「え! あ、本当だ」



言われた場所に綺麗にはまるピース。少しだけ満たされる欲望。



「半分くらいできたね! 流石に疲れたや」


「あ、ケーキ……食べるか?」



持って来たものをずっと冷蔵庫に入れたままのことを思い出して百合は立ち上がる。

出されたのは少し甘さを控えたレアチーズケーキ。綺麗に形取られたそれに彰は感動する。



「作ったの?」


「うん」



紅茶を用意しながら百合は照れ臭そうに頷いた。

その姿に隠れて笑んで、彼女の肩に手を延ばす。しかし、触れる寸前のとこで抑える。



「ありがとう。嬉しいよ」


「あんなこと言われたら用意しない訳にはいかないだろ!」



不細工な顔で紅茶を入れてケーキを切り分ける。綺麗に六等分にして、それを小皿に移した。



「誕生日、おめでとう」


「ありがとう」



しっかりと冷やしたケーキは口の中で味が広がって、程よい甘味を与える。下のピスケットのサクッとした歯ごたえとマッチしてとても美味しい。

これを普通に作れるのだからかなり菓子作りに長けているのだろう。



「美味しいよ、本当お菓子は得意だなぁ」


「何か、言い方むかつくなぁ。残り全部食べていいからな」


「………あー、もう一切れ百合が食べてよ」



ワンホールはとても食べれない。それは百合も理解しているため、仕方なくもう一切れ皿に移した。

彰はまだ残るケーキにラップを掛けて冷蔵庫に戻した。



「じゃぁ、一気にやるか!」


「うん、終わらせなきゃ」



途中だったバズルに向き合い、また睨めっこが始まった。






そして、二時間後。



「できたぁ」


「よっし!」



互いに達成感と感動で身を震わせた。1000ピースのパズルは綺麗に箱と同じ風景を描いている。

色鮮やかな色彩が醸し出す暖かな情景に百合は感嘆した。



「じゃぁ、これ早速飾っとくよ」


「うん」



奥の部屋から額を取り出してパズルをはめる。そして、光が当たる北側の壁の真ん中に上手い具合に飾られた。



「本当に今日中に終わるもんだね」


「まぁ、一日やってればね」



この言葉には苦笑。

気付けば時刻は既に六時。時間の早さに目をみはる。



「………なぁ」


「ん?」



外のまだ明るい空を眺めながら百合は小さく呟いた。彰はコップにアイスコーヒーを注いでいる。



「一つだけ聞いていい?」


「何?」



軽く目を細める。彰が近付いても顔を向けることはない。差し出されたコップをあえて無視して口を開いた。






「私と彰の関係って………何?」






普通の生徒と教師の関係を拒んだ。

だから、こうして百合はこの部屋にいる。

だから、本当の関係が分からない。



「教師と生徒じゃなくて、何?」


「――――…、」



突然の問いに言葉を失う。軽く伏せられた彼女の顔をじっと見つめながら、彰は自分でも血の気が引いていくのがわかった。



「えっと………」


「………わかんないよな。いーや、もう。気にしないで」



にっこりと百合は微笑んで彰の方を向いた。そしてコーヒーはもらわずに玄関に向かう。

彰は慌ててその後を追った。



「あのね、もう戻っていいよ」



靴を履いて、振り返った彼女はとても儚げな表情をしてきっぱりとその言葉を紡いだ。






「もう、特別じゃなくていい。教師と生徒に戻っていいよ」







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