お菓子とプレゼント
八月上旬。いつものように彼女は彰の元へ。
毎週何をすべきか悩むところだが、ゲームや映画など毎回彰が何かしらのものを用意している。
「今日は宿題でもしようか?」
「へ? 宿題なんてとっくに終わったけど」
彰の言葉に彼女は目を点にした。不良、と言っても一年の時はかなり真面目の方に入る彼女は宿題などはできるうちに終わらせてしまっていた。
だが、そんな予想をしていなかった彰は同じく目を点にする。
「え! 本当? じゃぁ、どうしようかぁ…」
「じゃぁ、一緒に料理しない?」
百合は大きな袋を掲げて彰に見せる。中には小麦粉やバター等の材料とお菓子の道具がいくつか入っていた。
わざわざここまでそれを持って来たことに感心する。もちろん、彰は異論等なく、すぐに了承した。
「何を作るの?」
「シュークリーム」
牛乳、生クリーム、バター、小麦粉…、様々な材料を並べて百合は明るく言った。本もなしに慣れた手つきで材料を量る様子から、おそらく何度もこれは作ってきたのだろう。
もしかして、百合のストレス発散って料理だったのかな?
いつもより顔を輝かせる彼女にふと思った。
毎日不良に絡まれながらも学校に登校することは、やはりストレスとなって溜まっていたはず。それを料理という趣味で何とかしていたのだと、読んだのだ。
彰は百合に言われ通りの手順で一緒にシューを作っていく。
オーブンに木地を入れてセットすると今度はクリーム作り。そんなこんなで片付けを入れたらかなりの時間がたった。
「ふう、もう二時半か」
「そろそろシューが焼けるから丁度三時過ぎに食べれるかもな」
にっこりと笑う。その姿がとても微笑ましくて、彰は知らぬうちに口元を緩めてしまう。
シューにクリームを入れて、しばらく冷やしている間、百合はケトルでお湯を沸かす。
ポットに買っておいた茶葉をいれ、沸いてから一分ほど置いたお湯を注ぐ。三分間蒸らしてカップに注ぐとテーブルに置いた。やっていることが妙に本格的で少しだけ堅苦しさを感じたが、優しく香る紅茶の香りがそれを和らげる。
冷蔵庫から冷えたシュークリームを取り出し三時半にやっと椅子に落ち着いた。
「できたね!」
「うん、上手く膨らんだ!」
ふっくらとしたシュークリームはとても美味しそうで彰は感嘆した。ここまで膨らむことは珍しい。そう百合が言うほど今回のシュークリームは上出来だった。
「じゃぁ、さっそくいただくか。紅茶も冷めちゃうし」
「うん」
二人は甘く、やわらかいお菓子に感動しながらじっくりとその時を味わった。
「じゃぁ、また来週」
「うん、あ……来週は俺の誕生日なんだ。ついでに祝ってよ」
「え!?」
初めて聞く新事実に百合は驚きを隠せない。彰は普通の態度で更に話を続ける。
「プレゼントとかはいいから、一緒にその日を過ごしてくれるだけで」
「………て言ってもなぁ」
「ん? 何が?」
別の日、百合はまたみりと紫央里の三人で遊んでいた。今回は自宅にご招待。あらかじめ作っておいたケーキを二人に出して他愛ない話をしていた。
「あのさ、男の人に何あげれば喜ぶ?」
「あ、もしかして財津先生?」
図星を指されて内心焦るが、顔には出さない。すると、今度はみりが口を開いた。
「うーん、無難なところならハンカチとか手帳とかだけど、もし親しい人なら百合ちゃんならケーキを作ってあげるのは?」
「あ、それいい!」
ケーキを頬張って美味しいもんっと力説する紫央里。誕生日というイベントにはぴったりだし、あまりお金もかからないことから、あっさりと二人の意見を受け入れることにした。