プールと偶然
友達ができた。
学校に通える。
そして、大切な人ができた。
「彰?」
ずっと見つめてくる彼の目を逸らさずに見つめる。何故か心臓が破裂しそうに大きく鳴って、呼吸を苦しくする。普通ならこんなに近くに来ることのない、彼。触れることもできない存在。
だからなのか、それとも別の理由か、彼女は今、すごく緊張していた。
「………ま、いーや。今はまだ」
意味不明な台詞に百合は首を傾げる。
一体何がしたかったのか、彼女が知ることはなく時間が過ぎた。
「じゃ、また来週」
「同じ曜日でいいんだよね?」
「うん」
家まで送ってもらい、彼女は彰と別れる。
その瞬間どっと疲れを感じた。普通の疲れとは違い、極度の緊張からでる疲れだ。
顔……熱い。
彰に感じる感情が未だに理解できずに、彼女はそのまま眠りについた。
「百合ちゃぁん!」
「おそぉい!しお!」
「おはよ、しおちゃん」
夏休み。
早速三人は遊びに出ていた。暑い日にはぴったりの屋外プール。
水着持参で向かった。有料プールのため、広さも遊具も十二分にそろっている。
「よっしゃ!遊ぶぞぉ!」
「はりきりすぎ」
「なぁによ、ノリ悪いなぁ!みぃは!」
百合は二人の会話を聞きながら笑う。
「とりあえず早く水着に着替えよ?」
「「そーだね」」
流石に家族連れや恋人同士、友達達などでかなりの人が賑やかにしているが、それでもこのプールは大きい。
三人とも水着に着替えて一番ノーマルな所から入り始めた。
「きゃぁ!冷たい!」
「百合ちゃんの水着可愛い!何処で買ったの?」
「えっと、去年の秋くらいに…デパートで安くなってたから」
照れる百合は淡いピンク色の水着を着こなしていた。元々色白の彼女はかなり違和感がなく、みりが可愛いと言うのも頷けるくらいだ。
「残念!その姿財津先生に見せれば悩殺だったのに」
「あぁ、イケるねぇ」
未だにそのネタで茶化す二人にうんざりするどころか、百合は顔を赤くして否定した。
「だ、だから違うって」
「またまたぁ、顔が赤いよ?」
にまにまと紫央里は更に問い詰める。
「もう、は、早く泳ぐよ!」
慌てながら百合はプールに潜る。そのまま勢いに任せて突き進んだ。
プロポーションのよい女性の身体が横を通り過ぎる。それを横目で無意識に追った。
いいなぁ、あの胸。
変態臭い考えを持った瞬間、人にぶつかった。
「っ、はぁ、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ」
水の中から顔を出して謝ると、相手も一緒に頭を下げた。
そして、互いの見覚えのある顔に硬直する。
「「………」」
愛想笑いのまま見つめ合う二人。
それをやっと追いついたみりと紫央里が見つけた。
「あれ?財津先生!」
「あー!他の先生もいる!」
そう、ぶつかった相手は彰だった。
な、何でこんな所にいるのぉ!
「教師の親睦会?」
「それでプールなの?珍しいね」
事情を説明されて二人は突っ込む。
「まぁ、でも若手だけの親睦会だからな」
「青木先生が言う?それぇ」
「あはは!」
確かにここにいる先生は全て二十代の教師だ。
体育教師の青木先生や国語教師の栗田先生、美術教師の福井先生、そして数学教師の財津先生。
「お前等は三人だけか?」
「うん、そうだよ」
「そうですよ、でしょう?」
「あはは、すみません」
賑やかな会話を百合は遠目に眺める。同じように彰もあまり話には入っていかなかった。
「じゃぁ、先生」
「また会うかもだけど」
やっと話は終わり、互いに擦れ違う。
結局二人は何も話すことはなく、別れた。