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 お腹辺りが暖かいなぁ。何だろうこれ、と思い手を伸ばす。このもふもふ感、どこかで触ったような……。

 あっ、もふもふが離れていく。手を伸ばしてもスルリと避けられてしまい捕まらない。すると、頬に生温かくてザラザラした感覚がした。その正体を知るために目を開ける。


「トラ、しゃん?」

「ニャー」


 目の前にトラさんがいた。……これは夢? 何でトラさんがここに? 私今まで何をしてたっけ? そんなことを考えていると、またトラさんに頬を舐められ「ニャー」と鳴いて頭をすりすりしてきた。


「もふもふ~」


 このもふもふ感は、間違いなく本物だ。……よし、大分頭が冴えてきた。確か私は、ガーゼントさんの膝の上に乗せられて、その後に私の膝の上でトラさんが乗ってきて……。


「ねちゃった?」

「ニャー」


 そうだ、寝ちゃったんだ。お父さんがここまで連れて来たのかな? お礼言わないと。

 そういえば、今何時だろう。体を起こして時計を見る。


「さんじ……はん」


 ふむ、そんな時間か。まだお手伝い出来るな。私がベッドから出て部屋から出て行く。トラさんも後ろから付いてくる。




 階段を下りてお店に戻ると、女の人の声がした。


「ブラドさん、今度一緒に食事に行きませんか?」

「ちょっと! 私が先よ!」

「あの! 実は最近、料理を始めたんでんです! 良かったら食べに来て下さい!」

「あんた何家に誘ってんのよ!」

「それ反則じゃない!」


 おぉー、やってるやってる。お姉様方が頑張ってお父さんを誘っていらっしゃる。毎日よくやるねー。


「皆さん。誘って頂くのは有り難いですが、この通りお店が忙しくて……」


 出ました、お父さんの困った顔。この顔するとほとんどのお姉様方は


「そんなことないです!」

「私、いつも逢いに行きます!」

「私も! 私も!」


 ……お父さんの困った顔は最強だよなぁ。この顔すると、ほとんどのお姉様方はお誘いをせずに毎日お店に通うようになる。これが計画的なのかはわからないけど。


「ありがとうございます。皆さんと逢えるのを楽しみにしています」


 そう言いながらお父さんは微笑んだ。……気のせいかな、お父さんから黒いオーラが。お父さんがここで捕まっているから、兄さん達も捕まっているだろうなぁ。


「おとーさゃん」


 声を掛けるとお父さんは振り返り私と目線を合わせるためにかがみ、優しく微笑んだ。その顔を皆さんに見せてあげてよ。


「おはよう。よく眠れたかい?」

「あい!」

「そうか」


 お父さんは私の頭を優しく撫で、髪を整える。


「あんがとー」

「いいや」

「おてつだい、しゅる!」

「そうだなぁ」


 お父さんは少し考え、立ち上がりフキンを私に渡す。


「これで机を拭いてくれるかい?」

「あい!」


 フキンを貰った私は、キッチンから出る。キッチンを出て空いている机に行こうとした時、


「あっ」


 足に何か当たり、体が浮いた。やばい! こける! 目をつむって衝撃に備える。……あれ? 痛くない?

 目を開けて見ると、目の前は床。なんか、体が軽く感じる。っというか、


「ういてりゅー!」


 すっご! 凄いよ! 私今浮いてるよ! 私がはしゃいでる中、急いで近寄ってくる二つの足音。……ハッ、しまった! 浮いていることに感動して今の状態を忘れてた。

 私の体がゆっくりと床から離れていき、目の前にはトウマ兄さんとトウヤ兄さんの心配な表情。心配させてしまったなぁ。浮いていた体は、ゆっくりと降ろされ足が床についた時には魔法が切れその場に立っていた。トウヤ兄さんに肩を掴まれた。


「怪我ない!? 痛いところは!?」

「にゃーい」

「本当かい?」

「うん!!」


 兄さん達に心配される中、足元から「ニャー」という声が。下を見るとトラさんがいた。トラさんは私の顔をジッと見て周りを一週して「ニャー」と一鳴き。

 私はトウヤ兄さんに手をのけて貰い、体を屈めトラさんを撫でた。


「トラしゃんが、たしゅけてくれたの?」

「ニャー」

「あんがとー」


 ただの猫ではないとは思っていたが、魔法が使えるなんて! トラさん、あなた一体何者!? まぁファンタジー世界だしありなんだね。

 そんなことを考えいるとトウヤ兄さんがトラさんを捕まえて力一杯抱きしめた。トラさんの「ン゛、ニ゛ャャ」の声は、……うん聞かなかったことにしょう。


「トラ~、お前って奴は~」

「ウ゛ウ゛ウ゛ン」


 あーあ、トラさんが潰されていく。トウヤ兄さんは感動のあまりちょっと涙目になってるし、私は私でいつの間にかトウマ兄さんの腕の中だし。


「よかった。怪我がなくて」


 転けそうになっただけでそんなに心配しなくてもいいのに。あぁでも、まだ小さいから打ち所によっては大惨事になってたかも。……今考えると怖いな。


「お客様」


 おっと、自分のことを考えていて忘れてた。お父さんが私をこかそうとした人に声をかけている。どんな人だろうと思いそっちに向こうとしたのだが。


「フミナは見なくていいよ」


 そう言われトウマ兄さんに顔を戻された。目の前はトウマ兄さんの胸しか見えない、さらに耳をふさがれ何も聞こえなくなってしまった。耳を塞いでいるのは多分、トウヤ兄さんだろう。そんなに見せたくないのか。一体何をしているんだろう?


 実は前にも何度か同じように私に怪我をさせようとしたお姉様がいた。その時も見せない、聞かせないという姿勢。お父さんがそのお姉様とお話して帰って貰う、という流れでいるのだと思うけど……。そういえば最近、そのお姉様方見ないな。何でだろう?

 お姉様方のことを考えてもしょうがない。……もう良いかな。


「もーいーきゃい?」


 こういう時は聞いてみるとのが一番。すると耳にあてていた手が離れて、トウマ兄さんの胸の中から解放された。


「「もーいーよ」」


 急に明るくなったので目がチカチカする。瞬きをしてピントを合わしていく。


「どうした?」

「めがチカチカー」


 少ししてピントが合ってきた。目が慣れ、周りを見渡してみる。なんかお姉様方顔真っ青にしている。お父さん、出て行ったお姉様方に何をしたのやら。


「フミナ、あちらのお客様の注文を聞いてくれるかい?」

「あい!」


 お父さんに言われた通りにテーブル席にいたお客様(お姉様)の所に行く。


「ごちゅうもん、おうかぎぁいます!」

「え、えぇ」


 青ざめているお姉様から注文を受け、お父さんに伝える。うん、私今手伝いが出来てるぞ。やった感が半端ねぇ。こうゆうの前世ではやったことが無かったから楽しいぞ。……そしてお父さんと兄さん達の暖かい目線が。あー、トウヤ兄さん目がうるうるしてるよ。


 私がお店の手伝いをしている中、お店の扉が開いた。……そろそろドワベル付けようよ。前に付いてたのは壊したらしく、買いに行く時間がないとかでそのまま放置。放置でいいのか。


「いらっちゃいませ!」

「フウちゃ~ん!!」

「うわっぷ」


 私に飛び込んできてそのまま抱きしめられる。あぁ、こんなことをするのは家族を除いて一人。


「ハガリ、しゃん」

「あ~。やっぱりか~わ~い~い。お肌もっちもち! いいわ~」


 ハガリさんは、頬を私にすりすりしてくる。いやーんハガリさんのお肌すべすべー。なんでこんなにすべすべなの! どんなの使ったらそうなるの!


「こらフウちゃん、“さん”じゃないでしょう?」

「あっ、ごめんなしゃい。ハガリちゃん」

「は~い。よく出来ました」


 言い直したら、ハガリちゃんはうれしそうにして私の頭を撫でる。

 ハガリちゃんは兄さん達と同じ歳で暇になったらいつも遊びに来てくれる。私にとってはオネエさんみたいな人。


「離れろ」


 その言葉の後にペシッ!!、と音がして「イッタ~イ!!」と言うハガリちゃんの声。力が緩んだ隙にハガリちゃんから引き剥がされる。


「何すんのよ!!」

「それはこっちの台詞だ!! いつまでくっついてる気だ!!」

「いいじゃない! アンタはいつでも出来るんだから、これくらい許しなさい!!」


 叩かれた所を撫でながらハガリちゃんはトウヤ兄さんに文句を言い、兄さんも言葉を返していく。そのまま喧嘩になりそうな勢いで。……これは止めた方が良いのでは? 私は私を引き離したトウマ兄さんを見る。トウマ兄さんも気づいたみたいだけど、呆れ顔をするだけ。


 兄さん、諦めてるな。でもそろそろと止めないとお父さんがキレそうなので、止めに入ろうとしたら後ろの方からイスの引く音がして「あの!」と声をかけられた。おぉ、勇者がいたよ。そっちを見ると、手には袋に入ったクッキー。あれは多分、手作りかな。それを持って、そのまま勇者(お姉様)が近づいて来てズイッと前に出した。


「こ、これ! 良かったら食べてください!!」


 ……ふむ、どうやらお姉様はハガリちゃん派みたいだ。え? なんでそんなこと言うのかって、そらゃお姉様がハガリちゃんにクッキーを渡そうとしているからだよ。


「あら? ワタシに?」

「は、はい!!」

「でもワタシ、そーゆーのは……」

「し、知ってます! 受け取らないのは。でも、どうか!」


 頭を下げたまま、ハガリちゃんに頼み込むお姉様。それを見て苦笑しているハガリちゃん。ハガリちゃんはオネエだが、見た目イケメンで中身もイケメンなオネエ(イケオネエ)であるから人気があるのだ。


「……ハァ。分かったわ」


 お姉様はパアと顔が明るくなり、御礼をいってお店を出て行った。


「甘いな」

「仕方ないでしょ。彼処までされたら受け取らないと可哀想でしょ」

「受け取らないって決めてるなら取るなよ。大丈夫か? そのクッキー?」


 なんだ、そのクッキーには何か入っているよ感は。まぁ巷では、惚れ薬成るものが入っている物もあるみたいだが。


「大丈夫でしょう」

「軽いねぇ」

「だってワタシが食べるわけじゃないし」

「ハァ?」

「ワタシ、こーゆータイプのお菓子苦手なのよねー。まー誰かに押しつけるわ。そ・れ・よ・り」


 え? 食べないの? 押し付けるって、その人、逝か……お腹壊さない?


「ジャーン! ブラドさんみてみて!」


 ハガリちゃんが鞄から取り出したのは1枚の紙。何か書いてある。


「もう出来たの?」

「はい! 今日のは出来がいいですよ~」


 ハガリちゃんから受け取った紙をお父さんが見る。「へぇ、これは」ともらし、それに反応した兄さん達が見に行った。なんだろう、イヤな予感が。


「あれなーに?」

「フフーン、あれわねー」


 お父さんから返して貰った紙を見せて貰う。


「これって……」

「そう、フウちゃんの寝顔で~す!」


 ちょっ、いつの間に!! しかもクオリティーが半端ねぇ! 私の顔今真っ赤だ、絶対に!


「はずかちいよー」

「だいじょーぶ! フウちゃんは可愛いから絵にできる!!」

「いやー!」

「おいハガリ」


 ハガリちゃんに声を掛けたのはトウヤ兄さん。その顔は真顔だ。


「何よー」

「この絵くれ」


 ……いやいやいや、そんな真顔て言うことじゃない。


「良いわよ~。一つ六十ガルミね」

「それくれるんじゃないの!? てか金とんの!?」

「あら、当たり前でしょ。このオリジナルをあげるとでも? これを写したのならあげるわよ。時間がかかるけどね。お金は紙代とワタシの労働力代ね」

「紙代は分かるけど、労働力代って……」

「写すのって疲れるもよ~」

「オリジナルはどうすんだよ?」

「ワタシのコレクションの一つとしてだいじーに保管しとくの」


 ハガリちゃんがどや顔で話して、トウマ兄さんが「六十か……」ともらし悩んでいるのはスルー。そしてなぜが来ていたお姉様方も買う人が続出し、それだったらと持ってきていた絵をお披露目会が始まったお昼であった。






────夜

 今日も一日頑張ったな私、えらいえらい。……うん、自分で自分を褒めるってなんか痛い。

 夜の営業も終わり、お風呂に入ったからめちゃくちゃ眠たいです。ちなみに夜の営業の時は顔を出すぐらいで手伝いをさせてくれない。まぁ、そこは仕方ない。トラさんも閉店の時に自分の寝床に帰って行った。お風呂は兄さん達とはいったよ。……え? 恥じらい? フッ、そんな物、とうの昔に捨てたさ。髪も乾かしたし後は寝るだけ。さすが幼児体系、お風呂から出た時からおねむです。


「もう少しでベッドだからな」

「……あい」


 今はお父さんに抱えられ自分の部屋へ移動中。あー、お父さんの暖かみと歩く揺れでどんどん眠気がー。


「ほら着いたぞ」


 ベッドに寝かされトウマ兄さんに布団を掛けてくれた。


「今日もお疲れさん」

「フミナは頑張り屋さんだな」

「えらいぞ~」


 誰かに頭を撫でられてる。この感覚は、トウヤ兄さんかな。あー、眠たすぎて頭が働かない。あ、なんか額に当たった。今度は両頬に。


「おやすみ」

「「おやすみフミナ」」

「……おやちゅみなしゃい、おとーしゃん、にーしゃん」


 言葉を返せたが眠気に負け、すぐに夢の中。




 寝息を立てるフミナを見た三人は満足した顔をし、部屋から出て行った。


 


 

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