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3.5

「出来たぞ」


 ドン! と机に置かれたステーキは先ほどのディアラーの肉。


「おー! 美味そー!」

「結構デカかったから焼くのに時間が掛かってしまった」

「旨ければ何でも良い! それじゃあ、いっただっき「ちょっと待て」」


 手を合わせて食べようとしたガーゼントをブラドは止めた。ガーゼントは不服そうな顔をしてブラドを見た。


「何だよー、邪魔すんなよ」

「邪魔したのは悪いが、一つ聞きたい」


 ブラドは真剣な顔をし、ガーゼントの膝を見ていた。


「何故、娘がお前の膝の上で寝てる」


 ブラドが見つめる先には、ガーゼントに背中を預けて眠るフミナの姿。フミナの膝にはトラが丸まって寝ている。


「あー、悪い! フミ嬢と遊ぼうと思ってな。ちょっと遊んだだけで眠そうにしてたから、寝かしつけた」

「遊ぶのと寝かすのはいいが、手伝いが終わってからにしろ」

「ケチケチ言うなよ! 折角、久しぶりに会ったんだから許してくれ!」


 許してくれるように頼むガーゼント。だがその顔は笑っている。


「反省してるのか?」

「してるしてる!」

「……そんな顔して言うことか」


 ブラドは一つため息を漏らし、ふきんを濡らす。ガーゼントは、もう一度手を合わせステーキに齧り付く。


「娘に肉汁落とすなよ」

「そんなヘマはしねぇーよ!」


 一言、ブラドがガーゼントに注意して机を拭くためキッチンから出てきて机を拭いていく。ガーゼントは注意され、少し不機嫌になったがステーキを食べる。フミナに肉汁が落ちないようにしながら。





 ブラドは机を拭き終えキッチンに戻り、ガーゼントはステーキを食べ終え何を飲もうかと考えている時に思い出したように「そーいやー」と言葉を発する。


「お前に頼まれたやつ、ちょっとだが調べた」

「……本当に調べたのか?」

「まーな。ワシも気になってな」


 ガーゼントはブラドにジュースを注文し、ブラドはモモをジュースし、自分は自分で飲むコーヒーを用意していく。ガーゼントはそれを見ながら口を開く。


「王都では餓鬼が居なくなって探しているって話はねぇ。……が、噂が流れたな」

「噂?」


 ブラドは出来上がったモモジュースをガーゼントに渡し、コーヒーを一口。ガーゼントもモモジュースを飲む。


「あぁ。何でもとある貴族が没落した理由は、一人のメイドを捜すのに金を使い切ったって言う噂」

「何でまたそんな噂が?」

「そこまでは聞いてねぇ。……そこの旦那はそのメイドを妻にしたかったみてぇだけど結局、家の為に愛してもねぇ女を妻にしたが」

「メイドとの関係は続いた、か」

「そーゆーこった。メイドは旦那を愛してねぇのに毎日来る旦那に嫌気がさして辞めるつもりだったんだが……。旦那がメイドを監禁したんだと」

「……は?」

「ワシも聞いてそうなったわい。メイドは心身とも限界に来て、自分で命を絶とうとしたんだと」


 ガーゼントは、モモジュースを飲み干し「ケーキが食いたい」とブラドに伝える。


「相変わらず、甘い物好きだな」

「悪いか?」

「いいや」

「ついでにさっきのジュースも」

「了解」


 ブラドは一度奥に行き、作っておいたシフォンケーキを切りお皿に乗せ、生クリームを添えてカウンターまで戻る。フォークを準備し、ガーゼントの前に出す。モモジュースも作り、ガーゼントが机の上に置いていた空のコップに注ぐ。


「で、メイドはどうなった?」


 ブラドは話の続きをガーゼントに聞く。ガーゼントは口に含んでいたシフォンケーキを飲み込む。


「仕事仲間に助けられて一命を取り留めてた。メイドは助けてくれたそいつの家で世話になってたが、自分が身ごもっていることに気づいたんだと」


 ガーゼントはシフォンケーキを一口食べ、モモジュースを飲む。


「メイドは腹ん中の子があの旦那の子だと分かっていたみたいでこの子を旦那に渡していけないと思ったメイドは、世話になった仕事仲間に何も言わず去って行ったんだと」


 ガーゼントはシフォンケーキを食べ終え、残っていたモモジュースを飲み干した。


「プハー! 美味いな! このジュース」

「そう言ってもらえるとうれしいよ」

「ここのモモだろ?」

「あぁ。いいのが入ってたよ」

「やっぱりここのもんは美味い!」

「そうだな。……所で、旦那の方はどうなった?」


 ブラドはコーヒーを自分のコップに注ぎ、続きを聞いた。ガーゼントは「あー」と言いながら続きを話す。


「旦那はメイドが逃げたことに気づいて屋敷内をくまなく捜して居ないことが分かった途端、家に仕える者全員に言ったそうだ。“逃げたメイドを探し出せ”、と。ついでに誰が逃がしたも調べたんだと」

「見付けたのか?」

「いんや。屋敷に仕える者全員、旦那がしてたこと知ってたらしくて誰も言わなかっただと。後、どうやらその内の一人が妻に言ったらしく妻がキレて荷物まとめて屋敷から出ていったんやと。その翌日、使いの者に離婚届を屋敷に送ったんだと」

「旦那は?」

「その離婚届にサインして妻と離婚したんだと。妻と離婚したことで枷が外れてメイド探しに力と金を費やしただと。で、結局、それについていけなくなった使用人達は皆辞め、それでも諦めずにいろんなギルドに依頼して探し出そうとしだんだと。そのせいで金を使い果たして、没落貴族のなっかまいりー」

「……凄いな、その噂」

「ほんまにな。まぁ、これはあくまで噂だから関係ないやろう」


 ガーゼントは噂を話し終えるとフミナの頬を指で軽く突く。


「うーん! やっぱ餓鬼はこれくらい弾力があった方がえぇのぉ」

「おいこら。娘で遊ぶな」

「えぇやないかい! ちょっとくらい!」

「それで起きたらどうする? 後、娘をそのままにしたくない。ベッドに連れてくから渡せ」

「イヤや! ワシの癒しを取るなや!」

「誰の癒しだコラ。俺の癒しだ返せ。そしてお前はさっさとギルドへ行け」

「イヤやイヤや! 今のギルドに帰りとぉない! ここで癒やされるんや!」


 ブラドは厨房から出てきてガーゼントと口喧嘩をしている中、店の扉が開いた。

 

「ただいま」

「たっだいま~」


 学校に行っていたトウマとトウヤが帰ってきたのだ。ブラドは二人に顔を向けて「お帰り」と言葉をかけた。


「今日は昼までだったんだな」

「うん。急に会議が入ったみたいでお昼までになったんだ」

「メシは?」

「食べた!」


「久しぶりやなー、お前ら」

「お久しぶりです。ガーゼントさん」

「久しぶり! おっさん!」

「トウヤ」

「ガッハッハッ! 良いって良いって!」

「いつ帰って来たんですか?」

「ん? お前らが帰ってくる少し前だ」


「ホント、久しぶりに帰ってきたわね」


 トウマとトウヤの後に入ってきた人物が呆れた顔でガーゼントに言葉をかけた。ガーゼントが声がする方を見る。そこには、首が隠れるくらいの長さの白い髪、肌は白く薄く化粧をし、紫色の眼。トウマとトウヤと同じ制服である長袖のポロシャツに黒い長ズボンで少し汚れた白い靴を履いている。


「あー、お久しぶりですね。坊」

「坊って呼ばないで!!」

「……すいません、ハガリ嬢」


 そう呼び直しをすると彼、ハガリ・ワングは嬉しそうに「よろしい」とガーゼントを褒め、隣に座った。ハガリはギルト【グラオヴォルフ】のマスターの息子である。


「いらっしゃい」

「こんにちは~」

「久しぶりだね」

「そうなの! ブラドさんに逢えなくて寂しかった~!」

「俺も逢いに来てくれなくて寂しかったな」

「まぁ! そんなこと言ってくれるのブラドさんだけ!」


 ハガリは手を頬に当ててうっとりした顔でブラドを見た。


「フフッ、そうかい?」

「……父さん、無理に合わせなくていいよ」

「トウマ! なんてこと言うの!」

「いやお前楽しんでるだろ」

「失礼な! これでも本気で言ってるの!」

「はいはい」

「ちょっと!」


 トウヤとハガリが口喧嘩を始めた頃、トウマはガーゼントの膝をジッと見つめていた。


「……何でフミナはガーゼントさんの膝の上で寝てるの?」


 トウマの一言によって口喧嘩がピタリとやみ、バッとガーゼントの方を見た。そこにはぐっすり眠っているフミナの姿。トラは起き、フミナの膝から隣の席に跳び乗りそこでひとのび。


「あーこれ。眠そうにしてたから寝かし付けた!」

「で、このままにしておけないからベッドに連れて行きたいが」

「イヤや! 渡さん!」

「と言って渡してくれないんだ」


 ガーゼントは首を左右に振り、フミナをぎゅっと抱きしめる。ハガリは目を輝けせ、鞄から鉛筆と紙を取り出してフミナの寝顔を書こうとしていた。それに気づいたトウヤが止めに入る。


「書くな!」

「良いじゃない! こんなチャンスめったにないんだから!」

「お前が書いたらなんか減るから止めろ!」

「なにが減るのよ!」

「二人共、落ち着いて」

「トウマ手伝え!」

「えぇー、やだ」

「おい!」


 トウヤとハガリの攻防戦に巻き込まれたトウマ、フミナを預かろうとするブラドだが渡さないガーゼント。店内が騒がしくなる中、フミナの呻き声で静かになる。フミナが少し目を開けて辺りを見渡し、ブラドを見た。


「……おー、しゃん」

「どうした?」


 ブラドは少しかがみ、フミナが見やすいようにする。フミナは「おーしゃん、おーしゃん」と呼びながら両手を伸ばし、抱っこをせがんだ。ブラドはそれに応えるようにフミナを抱っこする。フミナは抱っこされて満足し、微笑みながら眠りに付いた。


「アーン、ワシの癒しがー」

「寝ぼけたフウちゃんもか~わ~い~い~」


 ガーゼントは泣く泣くフミナをブラドに渡し、ハガリは鉛筆と紙を構えフミナの寝顔を書いていく。


「わめくな。ごめんね、ハガリちゃん。フミナを部屋へ連れて行くから少し待っててくれるかい? 後書いて奴、出来たら見せてくれないかい?」

「は~い! 待ってま~す! お客さんが来たら呼びま~す。書けたら真っ先に持ってきます!」

「ありがとう」

「俺達も一緒に行く」

「着替えないと」

「あぁ、そうだな」


 ブラドとトウマ、トウヤは、二階に上がって行く。その後ろをトラがついて行く。



 二階に上がった三人と一匹は、それぞれで別れた。ブラドはフミナを連れて部屋に向かいトラはそれについて行き、トウマとトウヤは着替えるために部屋に戻って行く。

 フミナを連れて来たブラドはベッドにフミナを寝かし掛け布団を掛ける。トラは布団の上に乗る中、ブラドはフミナの額にキスをし「おやすみ」と言葉をかける。


「フミナのこと、よろしく」


 ブラドがトラにそう言うとトラは「ニャー」と一鳴き。ブラドは微笑みながらトラを撫で部屋を出て行った。

 トラはブラドを見届け、フミナを見つめる。フミナは幸せそうな顔で眠っている。トラはフミナの頬を一度舐め、肩の辺りで丸くなりそのまま眠りに付いた。



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