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 今、お昼を過ぎたぐらいです。朝の時はまばらだったけど、お昼を食べに足を運ぶ人が増え、繁盛している。お昼はガッツリ食べられようにと量が多いという理由でがたいが良い人が多い。それと、もう一つ────。


「着てくれよ~、フミちゃん」

「一回! 一回だけでいいから!」

「……ヤ!」


 おじさんが私に見せてくる服、黒のワンピースにスカートの裾に白のフリルが付いている服。これを私に着せたいというのがもう一つ理由。

 まだ幼い私に可愛い服を着させてあげたい、可愛く着飾った姿を見たい、という考えがあるみたいで。でも、私が着ないから皆さん必死です。

 お父さんに助けを求めて顔を向けたが、


「なんで着たくないんだ?」


 お父さん、それ今聴きますか? ほら、皆さん一斉に私を見るし。


「……ここでいわにゃいとだめ?」

「そうだなー。ここで言わないと皆納得しないと思うぞ」


 そうだよねー。言わないと納得しないよねー。


「着ない訳でもあるのかいフミちゃん?」

「教えてくれよ~」


 ……ここで言わないと意地でも聞き出そうとするだろうなぁ。よし、覚悟を決めよう。

 一度、深呼吸をし周りを見渡した。皆さんはつばを飲む。


「……おとーさゃんやにーしゃんたちとおしょろいがいいから……でしゅ」


 うわー、恥ずかしい! 言ってみたけど恥ずかしい!

 私は急いでお父さんの所まで行き、足にしがみついて隠れた。絶対に顔真っ赤だよ。今、誰の顔も見れない。赤みが引いたら出ていこ。

 理由が子どもじみたことだけど、これも立派な理由の一つ。もう一つは、自分が着たくないという理由だから伏せておこう。


「ガッハッハ! 可愛い理由じゃないか」


 そんな言葉が聞こえて顔をそちらに向けると扉の前に一人のお客さん。例えるなら、柴犬。焦げ茶色の毛並みで頭には耳が立っていて瞼の外側から吊り上がった三角形の黒い眼で左眼には切られた跡がある。胸には胸当てをし、ダボダボのズボンを履き、靴ははかず、二本足で立っていた。


「ガーゼントさゃん!」

「元気にしてたか、フミ嬢」


 私はその人の前まで走って行く。お客さんの名前はガーゼント、獣族だ。

 獣族とは、姿は獣で人間になった種族。とても高い能力を持っていると聞いている。ガーゼントさんは犬の獣族でこの街に住んでいる。

 ガーゼントさんはギルド【グラオヴォルフ】に所属していて依頼を受けて一ヶ月ぐらい街にいなかったから会うのが久しぶりだ。


「うん! げんき!」

「そーかそーか!」


 ガーゼントさんは私の頭を豪快に撫でる。頭の上にもふもふの手が!


「いつ帰ってきたんだ?」

「ん? ついさっきだ」

「ギルドには行ってきたのか?」

「腹ごしらえが先だ!」

「おいおい」


 そんな答えが返ってきたからお客さん達が笑い出している間にガーゼントさんはカウンター席に座り、手に持っていた肉の塊を机の上に置いた。


「これ焼いてくれ!」

「……何の肉だよ?」

「帰り道でディアラー見つけてさ。旨そうだったから狩った!」


 ガーゼントさんが嬉しそうに机の上に置いた肉を見ながら言った。

 ディアラーとは、鹿みたいな姿で黄緑色で白い斑点模様の毛に被われて、頭には薄い灰色の立派な角が生えたモンスターのこと。


「ほー、なかなかいい肉だな」

「だろう! うまく焼いてくれな!」

「はいはい」


 お父さんが料理をしようと準備をしている中、食事を終えたお客さん達が席を立とうとしていた。


「ご馳走さん!」

「今日も旨かったよ!」

「ありがとうございます」


 お客さん達は料金をトラさんの横に置いてある籠に入れていく。トラさんはカウンターの隅に専用の座布団があり、そこがいつもの場所。忙しい時はいつもこんな感じ。


「ありがとうごじゃいました!」


 私は頭を下げながら皆さんを送り出す。「また来るよ!」などと声をかけ帰って行った。お客さん達が帰った後、食器を片付けいく。


「いやー、久しぶりにここのメシが食える!」


 ガーゼントさんが嬉しそうに言う。お父さんの作る料理って美味しいだよなぁ。

 食器が片付いて、机を拭こうとした時、ガーゼントさんが手招きをしていた。何だろう? 私はガーゼントさんに近づいく。近づいたら抱き上げられて膝の上に座らせた。


「まだつくえふけてにぁい!」

「いーじゃねーか! 後で拭いたら! そ・れ・よ・り、フミ嬢にお土産だ!」


 そう言いながら鞄の中を漁り、何かを取り出した。


「わー、かわいい!」

「フフーン、今日のはできが良いぞー!」


 鞄から出したのはうさぎのリュック。白を基調にお尻と耳と頭の部分に灰色になっている。以外と大きいな。


「ありがとう、ガーゼントさゃん!」

「良いって、良いって! 次はどんなのが欲しいかなぁ?」


 私にリクエストを聴いてくるガーゼントさん。実はガーゼントさん、手芸が趣味なのだ。……手芸が趣味なのだ。ここ、大事なので二回言いましたよー。このうさぎリュックも私が使っている黒猫鞄もガーゼントさんが作った物。人は見た目だけで判断しちゃあ、いけないんだなぁ。


「うーとねー。ふちゅうのかばんがほちい!」

「なんだ、動物はもう良いのか? 折角、トラ吉の鞄、作っているけどなぁ」

「え! ほちい!」


 ハッ、しまった。トラさんの鞄と聞いてとっさに本音が。うわ、ガーゼントさんニヤニヤしてる。


「ガッハッハ! 素直でよろしい!」

「むー」


 私がむくれていると、眠っていたトラさんが私達の近くまで寄ってきた。


「お! 久しぶりだな、トラ吉!」


 ガーゼントさんがトラさんを撫でようと手をのばすが、トラさんはそれを避け私の膝の上に乗った。


「おいおい、そんなに嫌かこの呼び方」

「またぱんち、きちゃうよ?」

「ガッハッハ! あれは強烈だっな」


 実はガーゼントさん、トラさんの猫パンチの最初に受けた人。ガーゼントさんのおでこには跡が付いて、一週間ぐらいとれなかったらしい。そこから、名前を呼んでは猫パンチの攻防戦が続いてたけど、今はトラさんが折れ、呼ばれても無視している。


「トラしゃん、もふもふ」

「なぬ! フミ嬢、ワシの方が触り心地良いぞ!」


 トラさんを触りながら言うと、ガーゼントさんが腕を私とトラさんの間に割り込ましてきた。おぉ、久しぶりのガーゼントさんの触り心地を堪能しようではないか。


「さりゃさりゃ!」

「もふもふじゃなくて?」

「ガーゼントさゃんは、さりゃさりゃなの!」


 ガーゼントさんの腕はサラサラだった。おー、中々のサラサラ感、これもこれで良いな。

 ガーゼントさんの腕とトラさんで遊んでいたら眠気が襲ってくる。それに私が居るところって、膝の上の温もりと背中からの温もりがあるから、とっても眠い。私は手で押さえながらあくびを出し、目をこする。


「眠いか?」

「……うん」

「そうか。じゃあ、寝ちまえ」

「まだ、おわってにゃいよ」

「そんなことは気にすんな。餓鬼は寝ることも仕事の一つ! 今は寝ーな」


 そう言うと、ガーゼントさんは私のお腹辺りに手を置いてゆっくり軽くトン、トンとたたく。あー、もう無理。まだやることいっぱいあるのに。でも、体は正直で瞼を閉じ、意識が遠のいていく。


「おやすみなしゃい。ガーゼントしゃん、トラしゃん」

「おう。お休み」

「ニャー」


 一人と一匹の温かさを感じながら私は眠りに付いた。

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