10.5 ①
これは新しい年になり、まだ肌寒い季節のこと────
ランドルの森に住むゴブリン達は困っていた。年が明けてすぐに咲く花が、咲かないのだ。その花は、雪のように白く美しい花。いつもなら寒い季節に咲く花がこの季節になっても咲かず困り果てていた。早くしなければ婚姻の儀に間に合わなくなってしまう。このまま咲かなかったら諦めるしかなかった。
ゴブリン達が困り果てている中、とある三体のゴブリンはふと、あの人間のことを思い浮かべていた。その人間はとても小さく、弱そうに見えるのに体の中にある魔力は強い人間のことを。
人間とのやり取りはとても良いものだと思っている。あの小さい人間のお陰で大事な存在を助けてられたし、美味しい物も食べられ皆にも食べさすことが出来た。頼んでみたらもしかしたら……と三体のゴブリンは考えた。
たが、仲間の中には人間が嫌いな奴もいる。話したら自分達だけでなくその人間の所まで攻撃を仕掛けていくとう恐怖もある。だがもうあの人間に頼むしかないと考えた三体のゴブリンは仲間達に話す覚悟をし、小さい人間のことを仲間に話したのであった。
*
「フンフンフ~ン」
楽しいな~楽しいな~。お菓子作りは楽しいな~。ただいまクッキーの生地作り~。後はここに薄力粉を入れて混ぜていく~。
「お父さん、これでいい?」
「ん~、うん、いいだろう。ここからは俺がするからフミナは粉を振ってくれるかい?」
「うん!」
お父さんにボールを渡し、置いてある薄力粉を少しづつ入れていく。
今日はお店はお休みで「お菓子を作りたい」と言う私の一言で始まったお料理教室。まだ包丁や火元には触らしてくれないが、混ぜるなど簡単な作業なら許してくれた。
「そうそう、少しづつ入れて玉にならないように混ぜていく。ここ、大事なことだからな」
「はーい」
「……出来た!」
バッとノートを上げてお父さんに見せてくるトウヤ兄さん。全問正解の自信がある顔をしている。
「……ここ、違う」
「えっ! どこ!?」
「下から二番目。そこ適当にしただろ」
「うぐっ。だって……」
「だってじゃない。ちゃんとやれ」
「うぐぅ……」
「ほら文句言わないでちゃんとやる」
兄さん達はカウンターで勉強中。二階はキッチンがちょっと狭いからお店のキッチンを使っている。
「……よし、これでいいだろう。フミナ、二階から型抜き持ってきてくれ」
「はーい」
型抜き型抜き~。えっと確かキッチンの棚の中だったかな。
ルンルン気分で二階に上がって型抜きを見つけ、お父さんに持っていった。よし! ミッションコンプリート!
──コンコンコン
「あ、はーい!!」
あ、そうだ。あのポーション事件からノック音は続いていた。持ってきている人? にはあったことはないが……。まっ、危なくないから大丈夫! さーて今日は何があるなかー。扉を開けて……。
「……え?」
……えーと、これは。今、私の目の前にはゴブリンがいる。しかも三体。……おっふ、これ私死ぬ。
私がびっくりして固まっている中、ゴブリン達はアタフタしだし二体のゴブリンが一体のゴブリンの背中を押して私の前へ。押し出されたゴブリンは後を見てため息を一つし、私の顔を見て執事がするお辞儀をした。お、お辞儀!?
私もとっさにお辞儀をした。……ハッ! しまった! お辞儀されたからかいしちゃった! あれ、このやり取りどこかで……。
頭を上げてよく見てみると、なんか見覚えが……って。
「あ! もしかしてあの時の!?」
そうだ思い出した! 森で迷子になって道案内してくれたゴブリンさん達だ! あぁそっか、だから見覚えがあったんだ。えっ、じゃあもしかして……。
「ノックをして物を置いていたのは皆さん?」
その質問にゴブリンさんは首を縦に振った。おーそうだったのか、謎が解けてスッキリ。
私が満足している中、お辞儀したゴブリンさんがスッと手を出した。……どういうこと?
その手の意味が分からないままでいると、後にいたゴブリンさんの一体がドスドス音を立てる勢いで近付いて来た。そしてそのまま私の手を掴んで引っ張って行こうとした。ちょ待て待て待て!!
「おとうさぁぁぁぁん!!」
理由も分からずに連れて行こうとするからお父さん召喚!! 悲鳴みたいに呼んだものだから急いでこっちに来てくれた。ゴブリンさんも私の声に驚いて手を離して少し離れた。
「どうした!? って、おいおいおい」
お父さんはゴブリンさん達に驚いている。ゴブリンさん達もお父さんが来てアタフタしだした。後にいたゴブリンさんはびくびく震え、紳士ゴブリンさんは強引に連れて行こうとしたゴブリンさんの頭をグーで殴り(ゴンッ!! って音がした)、殴られたゴブリンさんは頭を撫でながら殴ったゴブリンさんを睨んでいる。
紳士ゴブリンさんは少し考えた後、その場に座り込み両手の平が見えるように地面に置いて頭を下げた。びくびくしていたゴブリンさんが紳士ゴブリンさんの右に、不機嫌なゴブリンさんは左に行き二体とも同じ姿勢に。……これは?
「……どうやら敵意は無いらしいな」
「そうなの?」
「あぁ。この森のモンスターは敵意がないとあんな風に動作で表してくれるんだ」
「そうなんだ」
「で、どうしてお父さんを呼んだのかな?」
「あ! あのね、急に腕を引っ張られたからびっくりして……。それにね、このゴブリンさん達のおかけでお薬出来たんだよ!」
「……ホゥ」
お父さんがスウッと目を細め、「頭を上げてくれ」とゴブリンさん達に言う。ゴブリンさん達は頭を上げ立ち上がった。
「まずは君たちに礼を言わなければならない。ありがとう。君たちのお陰で娘が森で迷子にならなかたった。そして息子の風邪を直すことが出来た」
お父さんがトウヤ兄さんとトウマ兄さんを呼ぶ。後から「「なーにー」」の声と共に兄さん達がやって来た。
「どーしたの?」
「何かあったの?」
「お前ら、彼らに礼を言っとけ。彼らのお陰で風邪が治ったんだ」
「「彼ら?」」
「ほら」
お父さんが横にずれ、兄さん達に見えるようにする。そこから覗き込んで外にいるゴブリンさん達に驚いている。
「ゴブリン!?」
「すっげぇー!! 本物だぁ!!」
まぁそういう反応だよね。滅多な事では森から出て来ないのが普通だからな。
「ほらお前ら」
「あ、うん」
「分かった」
「「薬草を分けてくれてありがとうございました」」
兄さん達がぺこりと頭を下げる。その言葉に照れだしたゴブリンさん達。……かわいいなおい。そんな厳つい顔で照れるって。
「で、何でゴブリンがいるの?」
「そう言えば……」
おっと、忘れるところだった。
「どうやらフミナに用があるらしい」
「私に?」
私に用があるのは確からしい。頭が取れるか位にブンブン縦に振ってる。
「……そうか。フミナ、準備をして彼らについて行きなさい」
「え、いいの?」
「あぁ、行っておいで。ただし、彼らから離れないようにすること。言うことを絶対に聞くこと。いいね?」
「うん! あ、でもクッキーが……」
「それならもう焼くだけだから大丈夫。さ、準備しておいで」
「……うん!」
やった、お父さんの許可が出た。やっぱり森の中だしリュックの方がいいかなぁ。
森に行くため何が必要なのかを考えながら二階に上がって行った。