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ポーションと毒消しが無くなって一週間経った。いやー、今日も平和ですなー。
「ガッハッハ!! 手伝いが出来るフミ嬢はいい子じゃの~」
「エヘヘッ」
今はお客さんもあまりいないからガーゼントさんの膝の上で休憩中(強制)。兄さん達は学校。
「フミ嬢、オススメは何かな~?」
「うーと……、ぜんぶ!」
「ガッハッハ! そーかそーか、全部か」
「うん! おとうさんのつくるものはみーんなおいしいんだよ!」
いやこれがホントなのよ。王都で店だせるんじゃないか位で。
「ガッハッハ! よかったじゃねぇかブラド」
「……うっせ」
ニヤニヤした顔で話掛けたガーゼントさんに興味なさそうに返すお父さん、……これは照れてるな。こーゆーのはあまり顔に出ないお父さんだけど何となく分かるようになってきた。
「フミナ。悪いが二階からタオルを持ってきてくれ」
「うん! わかった」
ガーゼントさんの膝から降り、二階に上がりに行く。……後からワーワー言ってるがスルーで。
お父さんにタオルを渡しキッチンから出ようとしたら、トラさんが私の足元を通り過ぎ裏口の前で止まった。
「どうしたの?」
聞いても返事は帰ってこず、ジーっと裏口を見つめている。気になって近づいたら、コンコンコン、とノック音。これは……。バッと振り返ってお父さんを見るが、お客さんの相手をしていて気付いていない。……どーしましょー。少し経ってまた、コンコンコン、とノック音。うーむ、トラさんが警戒態勢で無いから大丈夫……なのかな?
「はーい」
ここは返事をして出方を見る。少ししてコン、と一回、間が空いてコンコンと二回。……うーむ。トラさんを見るとその場に座り込んで私を見つめてきた。もしや。
「あけてもだいじょうぶ?」
「ニャー」
よし! 返事が返って来たら大丈夫!! 「開けますよー」と一声かけてから扉に手を掛け開けてみた。
「……あれ?」
だーれもいない。外に出て確認して見るが誰もいない。……戻ろ。
戻ろうと振り返ると、扉の近くに一週間前に無くなっていた籠があった。……籠から出るくらい山盛りになんか入ってるんだが。それとその上になんか乗ってる。
籠の上に乗ってたのは、何かのツルで作った帽子。しかも森に入った時に被っていた麦わら帽子にそっくり。さて、籠の中身は……。
「リンゴ?」
リンゴが沢山。赤や緑の定番のものから金と銀と色とりどり。うわ青とかあるし、美味しいのかな? ……とりあえず中に入れよう。
籠を持とうと力を入れるが、上がらない。重たい……、どーしましょー。うんうん悩んでいると、籠が独りでに浮いた。
「トラさん」
「ウニャーン」
「ありがとう」
トラさんが魔法を使って籠を持って行ってくれた。私も後を追いかけ中に入った。
「おとうさーん」
「ん、どうした?」
「なんかあったー」
ゆらゆら揺れる籠をお父さんに渡してもらう。お父さんもびっくりしている。
「どうしたんだこれ?」
「うらぐちにあった」
「そうか。他には何かあったか?」
「このぼうし」
「見せてくれるか?」
はい、と渡した帽子をくまなく見てお礼を言って返してくれた。
「さて、このリンゴどうしようか」
「いろわけ?」
「そうだな。色分けして何にするか考えようか」
「うん!」
籠に入っているリンゴを分けていく。
「赤と緑は普通でもウマイし、金と銀はジャムにするとウマイみたいだし、……青?」
へぇ、金と銀も美味しいしだ。クリスマスツリーに飾るのをイメージにしてたから食べられないのかと思った。あ、青で困ってる。
「青……って食えるのか?」
「わかんない」
「そうだな、これはほりゅ「青だって!!」」
ガタッと音を立ててこっちに近づいくる。あの人は……果物屋さんのおばさんだ。
「おばさん?」
「アンタ! それ見せておくれ!」
「あ、はい」
おばさんが興奮気味にお父さんから青いリンゴを貰い、「……綺麗な青だね」と一言。
「間違いない! これはハッピーリンゴだよ!」
「なんじゃと」
おばさんの言葉に驚いたのはガーゼントさん。リンゴをおばさんから貰いじっくり観察、リンゴを力強く拭いた。
「ちょっと何やってるのよ!」
おばさんが怒ってリンゴを取り上げた。
「いやすまん。ホントに本物かと思っての」
「これは本物だよ!! 間違いなく!! 傷が付いたらどうすんのさ!」
「す、すまん」
……おばさんの興奮度がハンパねぇ。
「そんなに珍しいリンゴなんですか?」
「珍しいも何も何年かに数個しか獲れない特別なリンゴさ! 食べると幸せになれるって言い伝えがあるんだよ!」
「そうなんですか」
幸せかぁ……。私は今が幸せだからいらないなぁ。あっ、そうだ!
「おとうさん、そのリンゴきろう?」
「え、」
「ちょ、フミ嬢」
お父さんとガーゼントさんはびっくりしている。おばさんなんて驚愕してるよ。
「な、何を言ってるだい!! フミちゃん!」
「だって、たべたらしあわせになるんでしょう?」
「そ、そう言われてるよ」
「じゃあ、ひとりであわせになるより、みんなでしあわせのほうがいいでしょう?」
その言葉を聞いたおばさんは、顔を下に向け肩をプルプルさせ出した。……なんか不味い事でも言ったかな? 少しした後、おばさんに呼ばれ近付いたらガシッと肩を掴まれ抱き締められた。
「フエ!!」
「アンタって子は、なんていい子なんだい! そんなこと言ってくれるなんて!」
おばさんに力いっぱい抱き締められました。く、苦しい。おばさんの隣ではガーゼントさんが目を手で隠して鼻をすする音。なぜそこで感動!? お父さんはお店に来るお姉様の人がみたら倒れそうな甘ーい顔になってるし!
「フミ嬢。グズッ、なんていい子に育ったんじゃ」
「それはいい考えだ。さすが俺の子」
「マスター! この子頂戴!」
「あげません」
……あのー、そろそろ助けて下さい。
「くる、いち」
「あら! 私ったら! ごめんよフミちゃん」
「プハァ」
あーおばさんの胸の中で死ぬかと思った。
おばさんの胸から脱出して綺麗に切られたハッピーリンゴをみんなで美味しく頂きました。意外と美味しかった。残りのリンゴはパイにしてお店に出したり、ジャムにしたり……。数日で籠いっぱいにあったリンゴは無くなっていた。
ヤガラシ先生にお世話になったから、お礼にジャムとポーションと毒消し代のお金を払おうとしたのだが……。「久しぶりに良い経験が出来たらからいいんじゃよ」と言って、お金は受け取ってくれなかった。
殻の籠を返すのはダメだと思ったから中にパイを入れて置いておいたら、籠は無くなっていた。数日後、また薬草が入って籠が返って来たから作っては返し、果物がお礼として返ってきたり。果物だけが入って返って来たら、それを使った食べ物で返したりしていた。
そんなことを続けていたら新しい年になり、熱い季節がすぐそこまで迫ってきていた。