一夜が明けて
一部表現を修正しました。
悪評、と言うものは瞬く間に広がる。それは命に関わるものであればあるほど、身近なものであればあるほどすぐに広がる。
このデスゲームにおいてPKの情報はまさにそれだった。
WEにはゲーム内専用SNSを持っていた。そうなれば一人が情報を発信すればすぐに拡散される。
かくして真琴の情報はPKとして全プレイヤーへと知られることになった。リーダー格だった男によって多少脚色されて。
真琴にとって不幸中の幸いだったのは自己紹介をしていなかったことによってプレイヤー名まで公開されなかったことだろう。
しかし、PKとなったという事実は変えられない。PKになることによるデメリットは主に2つ。まず、プレイヤーアイコンが赤表示となる。プレイヤーアイコンとは一定時間《2秒間》プレイヤーを見ることで頭上に表示される逆三角のアイコンの事である。通常は緑、他プレイヤーにダメージを与えた場合黄色、PKをすると赤へと変化する。これはそのプレイヤーがどんなプレイヤーかひと目でわかるように導入されているシステムだ。
2つ目のデメリットは、5つのエリアそれぞれの主要都市や一部の街へ侵入が禁止されることだ。つまり大きな街にはもう入れないという事だ。ただし、手錠アイテムをかけられて連行中は例外となっている。
事件から一夜が明け、真琴の情報が拡散され始めたころ真琴は始まりの町から離れ、初期状態ではぎりぎり倒せるかどうかというレベル帯の村まで来ていた。
真琴のレベルは現在8レベル。あの戦闘の後、道すがら見かけたモンスターをひたすら相手にし経験値を稼ぎながら移動してきた。なぜソロなのに無理をしたかというと、キャラクター育成に有利となるクエストを狙っての行動だった。しかし、本来ならば2レベルほど低いレベル帯の大きな街がありそちらで装備やレベルを上げてから進むべきなのだが、今の真琴は街へと入ることができない。ならば、ということでさらに先、いや最短ルートを逸れた村を目指したのだ。
理由はもう一つある。万が一ゆっくり進んでいると脇にそれたマイナーな村とはいえ、ほかのプレイヤーに追いつかれる可能性があるからだ。そうなってしまうと表立って行動することができない真琴は、村へ入りクエストを受けたり装備を整えることが困難になってしまう。それだけはなんとしても避けたかった。
真琴もWE内でのSNS機能を使用していた。なので自分の情報が拡散され始めていることにも気づいていた。真琴は、SNSを使用して昔の仲間と連絡をとり、協力をするために仲間を探していたのだが今となってはもうそれはかなわないだろう。
真琴は今現在の自分の置かれた状況を再確認し、小さくため息を吐く。日が昇ってきたため一般のNPCも家の中からでてきている。
さほど、ゆっくりしている時間はないだろう。
村に入ると視界の右上のHPバーのしたに「スペーロ村」と表示される。森に面したのどかな農村で店を営む民家以外の家が離れ離れに建っている。村の中央には大きめの用水路が流れ、そこを中心に田園風景が広がっている。
目的のクエスト依頼をだしているNPCは奥にある村長の一番大きな家から右の林道を少し入った小屋の中だ。真琴の足は迷わずに進んでいった。