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血濡れの歌姫

ギルドクエスト・・・その名の通りギルドを通して受注できるクエスト。各町にギルドの建物がありA町で受注してB町で報告してもクエストクリアとなるクエスト。

真琴は驚いていた。パーティを組んだあと次の街を目指す中でギルドクエストを受けていた。その中で危惧していたレベル上げが大幅に遅くなる事やアイテムの消耗が多くなることがほぼなかったからだ。むしろ安全性だけがあがり、1人でやっていたのが馬鹿らしくなってもいた。

理由として男2人と女1人がリアルでも知り合いらしくフルダイブVRには初挑戦らしいが息ぴったりの連携でモンスターを倒せていたからだ。


「よーし、そろそろ全員分のアイテム集まったか?」

「私は13個持ってるわよ」

「俺7」

「……9」

「あ、僕は10個です」

「俺が6個だからあと5個か。あと少しだな!」


会話こそ少ないもののまずまずの滑り出しと言えるだろう。もう少し慣れれば自然と会話も増え、いいチームに慣れそうな気がしていた。だからこそ安心していたのかもしれない。


「もういいだろ」

「そうだな」

「始めちゃうの?」


そんな会話が聞こえたのは真琴が再度エンカウントしたモンスターを倒し終わった時だった。


「なんの話……」


言葉は最後まで続かなかった。真琴の背後から衝撃が襲う。VR独特の現実に比べて抑えめな痛覚が体に走る。腹部を見ると槍の穂先が生えていた。裂傷のアイコンがつきHPは見る見るうちに減っていく。

真琴は後ろに槍をもったまま居るであろう男に回し蹴りを放つ。果たして真琴の回し蹴りは上手く当たったようで男は槍を離して後ろによろめいていた。腹部に刺さっていた槍を素早く抜き、男とは逆の方へと投げ捨てる。裂傷のアイコンも同時に消失したようだがHPは3/5ほど無くなっていた。


「何してんだ!そっちはお前ら2人でやるんだろうが!さっさと殺せ!!」


リーダー格であった男が叫ぶ。それと同時に右方向から矢が向かってくる。木で隠れ姿は見えないが恐らくリアルで友達だと言っていた女だろう。


(あぁ、そういう事か)


矢を避けつつハンドガンの銃口を女の方へ向け鉛玉を放つ。

鉛玉が当たり女が前へと倒れ込む。ずっと後方支援をしていたため衝撃に慣れていないようだった。女を狙い撃ちし女のHPを1/3ほど削ったところで、衝撃から立ち直り、アイテム欄を操作していた男が真琴へと走って来る。


「テメェ……!」


武器を槍からショートソードへと変え、真琴へと斬り掛かる。


「さっさと死ねやオラァ!」

「っ!」


既のところでショートソードを躱し、前へと体勢が崩れた男の腹にカウンターとして蹴りを入れ、更に鉛玉を放つ。


「うげっ!」


この時既に真琴は正気ではなかった。いや正気で居られるはずがなかった。


真琴はこうなることを考えていなかった。いや、全くではないがその疑念はほぼ消えていた。プレイヤーキルをしてレベルを上げ、お金を稼ごうとする人がいる可能性を。少なからず信じていたのだ。誰も知り合いがいないこの世界で、少ないながらも時間を共にした仲間だと。それを裏切られてしまった。


真琴は酷く冷静だった。どう行動すれば倒せられるか、殺す事が出来るのかそれだけしか考えていなかった。まるでモンスターを攻略するように。


真琴は銃口を何が起こったのかわからない様子で地面に倒れている男の頭へと照準をあわせる。頭、心臓はWEでは弱点とされ、ダメージが1.2倍とされているからだ。

3度引き金をひきハンドガンから鉛玉が放たれる。それは無慈悲に男のHPを空にした。男は驚愕の表情をして「そんなバカな……」と小さく呟き、ポリゴン片となって砕け散った。


朋花ともかァ!なにしてる!?はやくしろ!!」


リーダー格の男が女に向かって叫ぶ。向こうは向こうでもう1人の女に苦戦しているようだった。


「……よくもたかを!!」


そこまで怯み動けずにいた女がリーダー格の男の声により立ち上がり、こちらへと向かってくる。自分の武器が弓なことを忘れているようだ。


真琴はハンドガンを装填リロードし、一直線に向かってくる女の弱点へと照準をあわせ、引き金を2度ひいた。鉛玉は狙い通り頭、心臓にそれぞれ1発ずつ命中し、女のHPゲージをも空にした。


「あっ……この、人殺し」


それだけ言うと女もさっきの男と同様にポリゴン片となって消えてゆく。


「朋花まで……くそっ!?」


リーダー格の男はこのまま不利だと判断したのか、それとも自分の命惜しさからか、はたまた両方か。どちらにせよもう1人の女性プレイヤーとの戦闘をやめ、もと来た道、つまり最初の村のほうへと逃げていった。

真琴は男の背中へと照準をあわせる。が、曲がりくねった森路では木が上手く遮蔽物となっていた。真琴に男を追う気力は残っていなかった。

男が見えなくなると残った女性プレイヤーへとその銃口を向ける。


「私を撃つの?」

「・・・」


沈黙の時間が流れる。

しばらくして真琴は銃を下ろし、その女性に背を向け歩き出す。次の街へと。


「セプラ、ここでの私の名前」


真琴は一瞬立ち止まったが、振り返らずそのまま歩き出した。

そこからしばらく歩いた時真琴はいつの間にか歌っていた。リアルで過去自分が作った歌を。その瞳には涙があった。



それから暫くしてギルドのプレイヤー交流掲示板に一つの貼り紙が貼られる。

『血濡れの歌姫・・・森に現れたプレイヤーキラー。森エリアにて突然パーティメンバー2名を殺害したあと歌いながらその場より消えた模様。要注意人物。追加情報求む。

使用武器:ハンドガン 性別:女性? 外見:小柄で細身』

この時点で装備は全員初期装備。リーダー格の男はロングソード、貴は槍→ショートソード、朋花→弓、謎の女性→?、真琴→ハンドガン


なぜ銃があるのに弓もあるの?となりそうだが、弓は毒矢、麻痺矢などにすることが可能であり、銃より威力が高め、そしてアシスト付きの設定となっている。ちなみに銃にアシストはなし。そのため遠距離がいいけど初心者の人は好んで使う。

簡単に言うと弓は初心者向け、銃は上級者向け。

運営によってどの武器もそれなりに使えるようにバランス調整されている。


真琴・・・現実では人気のないボカロP。コンテンツ量にわり埋もれているためほぼ無名。活動歴は2年。現在は受験勉強のため1年ほど前より活動休止していた。

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