メリーさんに……!? 6戦目
一年ぶりくらいに更新
なのに!話が!!進まない!!!
もしくは急展開!!!!!
ンガッ!!!!!!
結局あれから2時間くらいフリーズしていたらしく気付けば太陽が大分降りてきていた。流石のメリーさんも膝が痺れたらしく、温泉に行こうということで俺たちはのれんの前で別れた。俺はほぼ無意識の状態で服を脱ぎ適当に体を洗うとそのまま露天風呂に浸かった。
露天風呂の温度は暑くもないしぬるくもない絶妙な温度。それから外気に触れ適度に冷やされることで体温も調整され、早上がりの俺でも長く楽しめそうだ。
「はふぅ……」
湯が肌を包み込んでいき、じんわりと熱が伝わって来る。今日までに溜まった肉体の疲労が抜け落ちていくような感覚だ。俺はこれまでの疲労を口からも出すかのように息を漏らし、露天風呂から見える景色を眺めた。
オレンジ色に染まりつつある街並みや山がとても綺麗だ。ちょっと視線をずらすと海もオレンジ色に染まりとても幻想的だ。これを観れただけでも本当に来た甲斐がある。
綺麗だ。
とても綺麗なのだが。
どうも心を打たない。ていうか先ほどの出来事が頭の中でぐるぐる回りそっちにばかり意識がいってしまう。意識してそれを頭から追い出そうとしているのだが……ダメだ。もうくっきりと浮かび上がってきやがった。
思い浮かばれるのはメリーさんの笑み。それと柔らかい太ももの感触に甘い香り。どんどんと生々しい感触や匂いまでがリアルに思い出されていく。それだけで俺の顔はバーニングである。
おい、マジ俺何やってんだよ。ていうかどうなっちゃってるんだよ。
これってあれですか?完全に俺彼女に惚れ……ですかねぇ?!
いやいやいや。ないないないない。ないですわぁー。
いやほら、まず彼女人間じゃないし。
んでほら、恐れられる都市伝説様だし、魂食べるし。
見た目完全に犯罪ですし。
ほら思い出してみろよ。俺、彼女にどうされそうだったんですか?控えめに言って魂の一部を持ってかれるとこだったんすよ?それで最悪死ぬ可能性もあったわけだ。つまり殺人未遂ですよ。俺は殺されかけた被害者。
そして今日の旅館に入った時の周りの反応。俺は犯罪者でも見るような目で見られたんだぜ。一応父方の方の親戚ってことにしたけど、あいつらの目はまだ俺を疑ってたね、間違いない。ちょっと綺麗なお姉さんなんかには完全にゴミを見るような目で見られたしね!酷いことばかりだよ全くさぁ!
そして電話に出なければ不在着信の嵐。俺のスマホの充電の5分の2くらい持ってく100単位での着信攻撃。ネットでやったら完全にDDOS攻撃ってことで即タイーホだぞ。それを俺は個人のレベルで食らってんだからな。
ほら良く良く考えれば、だ。
俺はメリーさんから迷惑をかけられ困ることはあれど惚れる要素など皆無のはずだ。
たかだか、とんでもない美少女で、喜怒哀楽のはっきりしているところが素敵とか、笑顔が輝いてるとかあるかもしれないけど、その程度でなびくような俺じゃないからなぁ。
ーー本当に?
マジマジ、俺はそんな単純じゃないから。
ーー美少女だったら許されるって偉い人が言ってた。
んなの空想上だっての。いくら美少女だろうと頭にくるものはくるだろ。
ーー彼女は真っ直ぐな女性だ。
あぁ真っ直ぐだね。それが何か?
ーーあの笑顔は最高だったろ。
……。
「だぁあああああああああああ!!もうっ!!」
俺は顔を勢い良く湯船にぶつける。中々良い感じに水平にぶつけたらしく、顔が結構ヒリヒリする。
おい、俺。
なぜ俺を貶めようとする。
なんなんだよその誘導尋問はよぉ。あれか?これもメリーさんの隠されざる能力かなんかか?明らかに俺は冷静さを欠いているぞ。
俺は冷静じゃない。
だからこんなにもドキドキするしあの顔が忘れられない。ちょっとした出来事のはずなのにドンドン俺の中での思いは増大していく。ここまで冷静になれないのは、初めて営業でお客さんと対面した時以来だ。ただその時と決定的に違うのは胃を握りつぶされそうになる痛みがない。寧ろ程よく心地よいというかなんか胸がキューっと苦しくなる感じだ。同じ苦痛のはずなのに苦痛ではないし不快感もない。
ここまで来ると流石の俺でもわかる。
絶対にそうであるという確信もある。
自信を持ってこの気持ちがなんなのか言うことができる。
でもーー。
「言えない」
俺は右手を天にかざす。
橙色に染まった空が指の隙間から覗くことができる。
俺とてただのヘタレではない。
今までにお付き合いした女性が数人いるように、気になった人にならグイグイと行くぐらいの気概はある。だけどそれは同じ人間だからだ。ついでに言えば年齢も3つ以上離れた相手はいなかったし、高校生もそれ以下も相手にしなかった。あくまで求めるのは自分に近い人間だ。男の煩悩的には若い女性の方がいいって言うのはわかる。そりゃ自分が老いた時とか考えたらそりゃ彼女とか奥さんは若い方がいいに決まってる。でもそれは見た目だけだ。確かに相手の体は見ている。でも本質は見ていない。
年が近ければ本質が見えるのか?
そうとは限らない。でも、離れているよりも見えやすいだろう。
世代が違うだけで人は簡単に異質だと感じてしまう。俺よりも少し年上の世代が俺たちの趣味に驚くように、更にその年上の世代が最近の若いものはというように。ちょっとした時間の変化で人は違和感を覚えるものだ。それは俺も例外ではない。今の高校生の話題にはついていけないし、中学生なんかになれば異次元だ。そんな人たちを相手にするのは疲れる。いや楽しいは楽しいだろうけど色々努力が必要だろう。それが俺だけならまだいいが、相手も同様に俺に合わせるよう努力しなければ上手くいくことなんて絶対にない。
だからこそ自分と近い人たちならば趣味とかも合いやすいし、居心地がいい。何より必要以上に気を使う必要がないから楽だ。だから俺は付き合うならプラマイ3ぐらいを目安にしている。
さて、そこでメリーさんだが……彼女は推定30以上。見た目こそ麗しい美少女で年齢詐称もいいとこだが、中身は俺よりも歳上……いや中身も子供だな。
ま、まぁいい。とにかくどう考えても俺の求める近しい世代の人間ではない。ていうかそもそも人間ではない。そしてその人間ではないということが一番デカイ。
ただの異国出身なんです〜とかならなんら問題はない。いやまぁ色々面倒くさい手続きとかはあるだろうけどやろうと思えばやれるし今は国際婚も結構あるしな。ただ種族の違いというのはどうしようもない。例えばだが、猫と結婚てできるか?どうしようもなく好きでもそれってできないだろう?中にはする変わり者もいるかもしれないが一般的に考えてない。それは種の存続的な意味でも無理だ。仮に結婚したとしよう。色々なデカすぎる障害を乗り越えて晴れて結婚しました。ケモナーのあなたは大歓喜。伴侶の猫さんもどことなく嬉しそう。二人は多くの困難を乗り越えとても幸せな日々を過ごしていました。しかしある時……結婚生活から20年と経たずに奥さんに異変が現れる。健康的だった四肢は痩せ細り寝ていることが多くなりました。一方旦那のあなたはまだまだ元気です。そりゃそうだ。20で結婚したとしてあなたはまだ40になるかならないか。人間的には全然元気な年頃で少々お腹に肉がついたりしてだらしない体になったり、人によっては頭髪の心配が如実になっているぐらいだ。
でも猫は違う。猫の平均寿命は20歳いかないぐらいだ。つまり幸せな結婚生活にはたったの20年以下というタイムリミットがあったのだ。それから数日か数ヶ月後、奥さんは亡くなってしまいました。老衰死でした。現代医学においてもこれ以上の長生きはできないですし、何より元気で過ごせる程の医学力はありません。あなたは残り20年、最愛の奥さんを失いながらも生きなければならなくなったのです。
わかるだろうか?種族の違いというのはこういう悲劇を生むのだ。勿論同じ人間同士と言えど例外ではないというのは十分知っている。病気や事故で急死してしまうことだってあるだろうし、結局考えが合わず離婚なんてのもある。世の中何が起こるかわからない。でもそれは見える未来ってやつではない。わかりきっている未来なんかではない。不測の事態ってやつだ。そんなのに怯えてたら人間やってらんねぇし既にストレスで自殺でもしてるだろうよ。
しかし目の前に見えている問題。これは見える未来だ。
俺は人間。彼女は都市伝説。
彼女は今までのどんな奴よりも人間らしいし普通に触れる。何より可愛いしぶっちゃけ好みではある。きっと普通に一緒に何かをすれば楽しいだろうし愛おしいと感じて抱きしめることもできるだろう。
でも寿命はどうだろうか?
彼女は見た目こそ人だが都市伝説でありその寿命はよくわからない。というかとても長生きするだろうと思われる。現に彼女の見た目は15、6歳といったところだ。そこから肉体が成長も老いもしていないことから寿命という概念はないのかもしれない。
対して俺は人間だから精々後4、50年といったところだろう。元気に過ごしていれば60年くらいいけるかもしれない。でも、うちの家系のじいちゃん達は平均60ちょいくらいで亡くなってるから俺もそれぐらいで逝ってしまうことだろう。
もし仮に俺が彼女に好きだと伝え付き合うことになったら?それで上手くいって永遠の愛を誓ったとして歳をとり往生したら、その後彼女はどうなる?一人でそのまま彷徨うことになるのか?寿命がない、又は寿命が長すぎると片方はその悲しみを背負い続けることになる。まぁ1年もすれば別のいい相手が見つかるかもしれないが、それでも俺はそういう悲しみを無責任に押し付けたくない。
それに逆にメリーさんがなんか目的かなんかを達成しちゃって幽霊のように成仏っていうのも考えられる。そんな別れ俺は嫌だ。自分勝手だとは思うが俺は一人取り残されるなんていうのは嫌だ。
「……」
俺は無言で空を見続ける。
朱に染まった空には雲ひとつなくどこまでも続いている。時たまなんかの鳥が気持ちよさそうに飛んでいるのを見て羨ましいと思った。自由にこの空を気持ちよさそうに飛ぶ鳥が羨ましい。何も考えずに空を飛んでいるあの鳥達が羨ましい。そんな俺の思いを見透かしたのかのように鳥は俺の遥か頭上で旋回しじゃれあっている。
「見せ付けやがってからに」
本当何も考えず自分に素直になれたら、そんなことばかり頭に浮かんでくる。俺は深いため息を付きようやく腕を下ろしお湯に浸かる。外気に触れて冷えた腕にじんわりと熱が広がっていく。
「……?」
そこで俺はなんとなしに気配を感じ周りを見渡す。
当然どこにも人影は見当たらない。シャワーのとこに数人の男性が体や頭を洗っているくらいだ。別段ホモくさい奴がいるわけでもないし、完全に気のせいだろう。どうやらメリーさんのことで悩みすぎておかしくなっているようだ。
俺はそんな自分に苦笑をし再度空を見上げた。
やっぱり見上げた先の空を飛ぶ鳥達はとても気持ちよさそうだった。
◇◆◇◆◇
温泉から上がり部屋に戻るとメリーさんの姿はなかった。俺は内心ホッとする。遅かれ早かれ彼女はこの部屋に戻ってくるのだが、俺にも心の準備というか整理の時間が必要だ。
さっきまで温泉でゆっくりしてたじゃないかって?
わかってないな。部屋に戻った時にその対象がいるのといないのだと気持ちの持ちようが違う。やっぱり戻ってからも少しは考える時間ってのが欲しい。
そこ!ヘタレてるとか言うな!!これはデリケートな問題なのだ!!
俺は一人芝居をしながら、やっぱ少しのぼせてんな、と頭を冷やすべくテラスに出る。
「……」
ふむ。
やはりこの景色は素晴らしい。
露天風呂から見える景色も中々のものだったがこのテラスから見る景色も綺麗だ。時間もちょうど良かったのか沈む夕日が良く見える。夕日をバックに鳥のシルエットが何羽か見える。おそらくうみねことかかもめだろう。生憎鳥については全然詳しくないので断定はできないが。
普段から都会というごちゃごちゃとしたところに住んでいるせいか、こういった広大でゆとりのある景色というものは心に響くものがある。なんというかシンプルイズオールというか余計なものがなく、あるもので最大限の美しさを引き出しているというか、とにかく素晴らしいの一言に尽きる。東京なんて人は多いわ建物密集してるわ道路が広いわでうざい。いや便利というかミーハーな人には住みやすい土地なのだろうが、俺にはいまいち肌に合わない。特に満員電車は最悪だ。仕事上我慢して乗っているが、とても汗っかきだったり香水がキツかったり体臭がおおふだったりと災難が絶えない。やはり田舎生まれはゆとりを求めるものなのだろうか。田舎最高。
「綺麗……だな」
「そうだね」
唐突に右側から鈴の音のような声がした。不思議と落ち着いていた俺は特に驚くことなく、むしろそこに彼女がいるのが当たり前のような感覚で隣を見る。すると予想通りそこにはメリーさんがいた。
俺はポケーと吸い込まれるようにメリーさんの横顔を見つめる。湯上りだからだろう。僅かに湿った髪が数本の束となり少々の重さを感じさせながら風にたなびいている。さっきまでは金に輝いていた髪の毛は夕陽に照らされ紅く染まっている。表情も快活そうなものとは打って変わり、大人びていて、それで触れたら消えてしまいそうなそんな儚さを感じた。俺はたまらずメリーさんに手を伸ばす。そしてプニッとほっぺに指が埋まる。
「む、なによ……」
「……あ?あぁ、いや」
俺は自分で自分が何をしてるのか理解できず気の抜けた返事をしてしまう。ていうかマジで俺何やってんだ。途端に恥ずかしくなったのでメリーさんの頬を両手でつまんでにょーんと伸ばしたりして遊んでやった。めっちゃ柔らけぇな。
「はにふるのおぉー!」
「いやーお餅みたいで面白いなーて」
「はらひはほもひろふなひぃ!はなひへー!」
うがー!とメリーさんは腕を振り回し俺の手を振り払った。
「うぅ……あたしのモチ肌が……」
自分でモチ肌と言うか。まぁ実際モチ肌だったけどさ。
それにしても。
今のメリーさんはすっかりいつも通りのメリーさんだ。元気で騒がしくて表情がコロコロと変わって、そんな彼女の姿に俺はなんだろうね、こう安心した?だからだろうか。だからだろうね。俺はこうも惹かれているんだろう。俺が求めていた媚び諂っていない自然の自分を魅せてくれるそんな存在。
「あなた、たまによくわからない行動するわよね。まぁそこが面白くもあるんだけど……結構あたしにとっては人畜非道なことするのが玉に瑕よ」
「それはあれだ。小学生のガキとかがやる気になる子には意地悪しちゃうっていうあれだろ」
俺はなんとなしに、それはもう自然に口からそうでてしまった。その時の俺は特に他意なんて全くなかったんだよね。うん。言っちゃってから数秒してからやっちまったと思いましたよ。今盛大に後悔中ですよ!!!
メリーさんも今何言われたんだ?みたいな感じでフリーズしてるし。あらあら、なんか徐々に赤くなってますね。微妙に温度の低かったお湯に入れられたタコみたいな変化の仕方だ。おや、俺の頬てか顔も似た感じかな?ハハッ、今日はアツイナァ。
静寂が空間を支配する。
聞こえるのは静かな波の音。それとお互いの呼吸音といったところでしょうか。あっ、俺の唾を飲む音が嫌に響いたな。これ聞かれました?聞かれちゃった系ですかね。恥ずかちい。
どれくらい沈黙していたのだろうか。体感で言えば30分かもしくは1時間か。全然違うんだけどどっちにも取れるくらい長く感じた。そろそろ声出したいんだけど喉につっかえて出てこないそんなもどかしさを感じ始めた頃だった。
「失礼いたします。お客様、お夕食をお持ち致しました」
仲居さんがお盆に料理を乗せ持ってきた。正直ナイスタイミングと思った自分がいましたはい。お互いまだ微妙な雰囲気のままだが、それでも口を開くことはできるようになった。
「まぁ、まずは飯でも食おうか」
「そそそそそ、そうね!!」
俺とメリーさんは対面になるように座る。
「ごほん、そいじゃ手を合わせまして」
「「いただきます」」
二人してお行儀よく手をあわせていただきます。
食欲と微妙な雰囲気をに任せ目の前の茶碗蒸しを一口。すると俺の中に衝撃が走った!!!
「美味い……」
茶碗蒸しってこんなに美味いもんなのか……。俺のイメージだと茶碗蒸しって卵風味のプリンって感じだったんだけど、こいつぁ違う。口の中に広がるは濃厚な卵の風味……まぁこれは一緒か。それでいて固形物という概念を覆すかのようなさらりと広がっていく口溶け。それはさながら雪のよう……。薬物中毒者のように一口一口と口に運んでいると、気付けば容器は空になっていた。こいつぁやべぇよ。
茶碗蒸しが無くなってしまったことに軽く絶望しながらふとメリーさんを見る。するとどうだ。彼女も何かを口にしトローンとした目でうっとりしているではないか。
「ん……ふっ……あ……おいし……」
なんか一々エロいな。文字だけだったらなんか邪推してしまうぞ。
メリーさんは口から箸を抜き取ると次の料理に手をつけていた。
……真鯛かなあれは。箸を器用に使い綺麗に身を取るとまたそれを口にパクリ。そしてまたへにゃっとした顔になる。
うん。可愛い。なんかこれ見てるだけでここに連れてきてよかったって思う。可愛い(大事)。
でもさ、メリーさんて見た目完全に外国人なのよね。そんな彼女が俺よりも器用に扱えてるのはちょっと複雑だ。なんだろこの敗北感。
「えへへ。料理美味しいね!君も食べないとあたしが全部食べちゃうぞ!」
「え、あ、いや。俺も食べるし!」
今のメリーさんの不意の一撃にクラっときた俺氏ではあるが、こんな美味い料理全部食われてたまるか。俺だって食べるわ。
俺も負けじと次の料理に箸をつける。メリーさんも然り。
ただまぁなんだ。
メリーさんがこうして笑顔を見せてくれるのなら食べられちゃってもいいかな、なんて俺がいたのは内緒だ。
メリーさんVS俺 第四戦目
引き分け?