メリーさんと旅行する 5戦目
今回は前回よりも早く上げれました。
「うぅぅ……酷い……酷いよぉ……あんまりな仕打ちだよぉ」
「うん、正直スマンかったと思ってる」
あれから1分と経たず乗り換え駅に着いた俺とメリーさん。メリーさんは減速していく電車に対して「削れちゃうぅううう!!」とか叫びながら必死に電車にしがみつき駅のホームに接触しないように頑張っていた。で、乗り換えの駅が東京駅なもんだから人が来るわ来るわ。メリーさんは人の雪崩に飲み込まれボサボサになった金髪をさらにわちゃくちゃさせ、碧眼をめちゃくちゃ潤ませ、まるで捨て犬のように俺を見つめながらヘルプミーと叫ぶもんだから、流石にいたたまれなくなってメリーさんを捕まえ新幹線の中に押し込んだ。
因みに俺は今回かなり贅沢にやると決めていたので、新幹線の席は指定席でしかも二席確保していた。というのも隣に知らない人を乗せたくなかったという心の狭い考えからでなのだが。んで、丁度メリーさんが居るから新幹線のチケットを渡し隣に座らせたのだ。今はこうして発車までの待機時間でメリーさんを宥めているとこだ。
「うぅ……一応半実体化であなた以外にあたしの姿が見られることは無いとは言え……ないとは言え……大勢の人の前でぱ、ぱん……下着を露出させるなんて……本当にお嫁にいけないよぉお……」
お嫁にいけないよぉはお前の口癖なのか?だとしたらとんでもなく恐ろしい女だな、おい。何がなんでも精気を貰える相手を囲おうとするその浅ましい精神に俺は敬服するね……まぁ冗談だけど。
「ていうかなんで新幹線なのぉ?」
「なんでも何も旅行の途中だからだ。それに」
それにいくら何でも今回はちょっとやりすぎたなって思ったからなぁ。推定30歳オーバーのお姉さんだが、見た目も中身も……まぁ接している感じ少女って感じだし。そんな少女に命綱なしの超スリル満点ジェットコースターを味わせてしまったからな。流石の俺でも罪悪感を感じた。しかもただの少女じゃなくて美少女だからな。長髪で金髪碧眼なお姫様然とした美少女。それこそ漫画やアニメ小説の中にしか存在しないんじゃないかっていうくらいの未確認生命体だ。そんな美少女が!涙目で!上目遣いできたらどうかね!諸君!!耐えられるかね?いくら相手が自分の命、もとい魂を狙う恐ろしい相手だとしてもそんな風に見られたら耐えられるというのかね?!俺には無理だったね!流石に自分の命はやれないけど、せめて憧れがあったであろう熱海の旅館に連れて行ってやるくらいには思っちゃうもんね!仕方ないね(レ)。
「それにマジで悪かったなって思ったからな。お前も連れて行ってやるよってわけ」
「……えっと、どこ、に?」
メリーさんは未だ涙を浮かべたままの潤んだ瞳で俺を下から見上げ小首を傾げた。
おう、やめろや。俺の萌え度をこれ以上上げるんじゃあない。
「熱海だよ熱海。熱海の旅館。そこに5泊する予定。ほら、前なんか熱海の旅館がどうのこうのって言ってたじゃん?だから詫びの印としてお前も連れてってやるって言ってんの」
俺はできるだけ内心の動揺を悟られないようにぶっきらぼうに答えた。ていうかちょっと早口だったかもしれない。いやそもそも額の汗とか背中の汗がバレてる可能性も……幸いなことに脇汗はかいてないからセーフか。
俺はドキドキしながら興味なさげにメリーさんを見る。メリーさんははぇ?と頭にクエスチョンマークを浮かべている。いや、何の比喩表現とかではなくてマジで頭の上にはてなが出てる。これもアレか、メリーさんの特殊能力の一つなのだろう。俺は深く考えないことにした。ついでにさっきまでのドキドキは何処へやら。すっかり平常心に戻ったぜ。
「え?あの……うぇえええ……ほ、本当に熱海に、行くの?」
「あぁ行くよ。またまた幸運なことに二人旅行プランで予約してるからな」
因みにペア旅行プランにした理由は至極単純、それしかやってなかったからだ。少し期間を開ければソロ旅行プランもあるのだが、今行きたいと思ったんだ、今しかないんだよ。ついでにペアとはなっているがキャンペーン中ということでソロ料金の1.5倍くらいの値段というとてつもなくリーズナブルな値段だったので思い切ってペアにした次第だ。
まぁ、ペア旅行キャンペーンなんてやってるんだから、旅館ていうか熱海にはカップルが沢山いるんだろうなとか、その中俺がぼっちで旅館にいるのはちょっと寂しいなとか、悔しいビクンビクンとはちっとも思っていなかったし感じてもいない。ただほんの少し勇気はいるなとは思っていた。
なので今更一人増えたところで何も問題はない。更に言えばメリーさんの見た目年齢さえ気にしなければ俺は堂々とペア旅行者として熱海にむかえるのでバッチこいである。決してメリーさんが来るであろうななどと不埒な考えは一切ない。マジでないからな。
「まぁ深い意味は特にないから安心して楽しんでーー」
そこで俺が話がこじれないようにあらかじめ伝えておこうと言葉をかけているとメリーさんは目を輝かせ俺の腕にしがみついてきた。
「やったぁああ!熱海だぁ!!じゃ◯んとかネットで見てすごく、すごーく憧れがあったのに何故か熱海の人には電話がかけられなくて全然行くことができなくて悶々としてたあの熱海に行けるなんて!!しかも旅館!5日間もっ!!すごい、すごいよ!」
「お、おう」
メリーさんはとんでもなく喜び、俺の腕にすりついてきた。
あの、なんか腕に柔らかいナニカが当たって気持ちがいいんですけどどどどどどどど。ていうかなんか柑橘系のさっぱりしつつもどこか甘い匂いが漂ってきてててててててててててててててててt……。
「あの、ね?あたし本当に嬉しいんだよ……ちょっとあなたには怖い目にも合わされてきて『あ、この人ちょっと危ない人かも』なんて心配にもなったけど……でもね?」
おうおう、好き放題言ってくれやがりましてからに。君の今の言葉で俺の理性がマックスですわ。恐ろしい奴め。こうして人から理性を奪い魂を奪うというのかこの悪魔わ。いや、小悪魔だな。悪魔だったら最後の最後で俺の理性が戻るようなことは言わんだろ。ま、まだまだ修行不足というやつですかな?はっはっはっはっはーー。
「少しだけ優しくて……そのいい人だなって」
メリーさんは涙とは別の潤んだ瞳で俺を見つめてきた。
そしてーー。
「ありがとうっ」
その瞬間、俺の世界はスパークした。というより爆発した。
メリーさんは笑顔だった。
その笑顔は今まで見たどの笑顔よりも綺麗で可愛くて輝かしくて、そしてとても心地が良かった。どれくらいの威力があったかというと、核爆弾くらいの威力はあったと思う。いや、スーパーノヴァ……ビックバン辺りくらいかもしれない。でも冗談抜きで俺は人生で初めての大きな衝撃を受けた。それは不快なものだとかじゃなくて、どこか心温まる気持ちのいいものだった。
はっきり言ってその後のことはあまりよく覚えていない。新幹線が熱海に着きメリーさんに腕を引っ張られるまで魂が抜けていた。時間にして一時間もの間俺はポカーンとしていたようだった。そしてメリーさんに手を引かれたその左手はとても熱くて溶けてしまいそうだった。
俺はその後旅館に着くまでメリーさんの顔をまともに見られなかった。
何でって?
言わせんな。
◇◆◇
「うわああああ……!!」
メリーさんは部屋に着くと一目散に窓へと向かっていった。まだ空は明るくく夕日や夜景を見るにはまだまだ早い時間だ。しかしそれでも太陽が煌々と照らしている時にはその時の魅力がある。俺もメリーさんに遅ればせながら窓へ向かい外を眺める。
「……おぉ」
思わず声が漏れてしまった。
なんと表現したらいいものか、そう月並みなセリフだが、海に大量の宝石でも散りばめたかの如く光り輝いていた。静かな波に水面は揺れ、様々な角度から太陽光を反射し絶えずに変化する宝石たち。俺はその光景に目を離すことができなかった。
この旅館に入ってから、女将さんやその他お客さんには「ロリコンか?こいつ」や「警察に連絡した方がいいのかしら」などなど。大変不名誉な言葉が周りから聞こえてきて地味に心へのダメージを蓄積させていた俺だったが、この光景はそんなことは些細なことだと頭から消失させる程度には美しきかった。
「ねぇ」
「ん」
どれくらいそうしていただろうか、メリーさんが話しかけてくる。チラリと横を見ると思いの外至近距離にメリーさんの顔があり一瞬ドキッとするが得意のポーカーフェイスで短く返事をする。
……おいおい、そんな真っ直ぐ俺の目を見てくるんじゃない。目をそらしてしまいたいのだが、何故かこの両の眼はメリーさんの碧眼をロックし話すことができない。クッ……!新手の能力か何かか!!俺の体が言うことを効かん!あぁあぁあぁ、そんなに俺を見ないでくれ。俺の顔に何か付いてるのか?ハッ!?新幹線の中で変な体勢を取ってたしそれで顔にゴミが付いたか変なかたが付いているのかもしれない……そう言えば旅館の人たち俺のことジロジロ見てたしもしかしたらもしかするかもしれないぞ!ダメだ!気になる!今すぐ顔に手を当てて異常がないか確かめたい!だけど体が動かないゾ!アレか!パラライズでも食らったのか!おのれメリーさんめ!!瞳を合わせた相手を麻痺させる魔眼でも持っているとでもいうのか!!だとしたら、俺はなんてやつに目をつけられたんだ!!このままだとぽっくりやられるゾ!動け俺の体!さぁ今こそ真の力をーー
「あたしをここに連れてきてくれて本当に、本当にありがとうねっ!」
うびゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
メリーさんはまたも新幹線で見せたスペシャルヘブンリースマイルを俺に見せつけてきた。一度は事前に受けたものとは言えその破壊力は微塵も衰えてはいなかった。いや寧ろ更に凶悪になっていると言えるだろう。
具体的に言うと、潮風が彼女の綺麗な金髪を優しく撫でたことによる絶妙ななびき加減、宝石が煌めく海がバックに見え、それが彼女の魅力を数倍に引き上げている。大袈裟な表現と言われるかもしれないが、御伽噺に出てくるお姫様のように俺には見えた。
ちな俺童貞ではないが、純情少年に戻ったのかのような深い衝撃を受けた。今度こそは意識を飛ばすということはなかったが……寧ろさっきのように気をどこかにやらない自分が憎い。
だってさ……どどど、どうすればいいんだよ!
メリーさんちょっと可愛すぎだろ!ちょっとじゃないわ!ボケェ!モストだよモスト!最上級だ!!あぁぁぁぁあああああぁぁあ、やめて!これ以上その笑みを俺に向けないで!溶けちゃう、溶けちゃうから!!
やばいやばいやばいって!
ねぇ、俺どうしちゃったの?本当に大丈夫か?!お前童貞じゃないんだからこの程度のことで照れてどうすんだよ!あぁもう、顔が茹で上がったみたいに熱いし、これ絶対耳まで真っ赤じゃん。かっこ悪いよ俺ぇ!
俺の心の動揺など知らんとばかりにメリーさんは俺に笑みを浮かべこちらを見ている。その瞳には軽蔑だったり嘲笑の色は見られない。ただどこまでも優しい瞳だった。思えば俺はこの優しい瞳というのを数年見たことがなかった。最後に見たのは実家を出る際の母の瞳くらいだろう。それと全く同じではないが、メリーさんの瞳にはその優しさしかなかった。
だからなのかもしれない。
ここ数年で見てきたものは笑顔とは言えない笑顔ばかりだった。必ずそこには何かしらの打算があって笑顔の裏にはそいつの思惑が見え隠れしていた。数人の女性と付き合った時も似たような感じだ。あいつらは俺の金だけを見て寄ってくる。ブラック企業で収入も労働に見合うものとは言えなかったが、普通に金はあったし。だから俺みたいな普段は仕事に振り回され相手を拘束することはない、が金はある奴。これをATMとみなして近寄ってくる奴の多いこと多いこと。
初めの方こそはそんな女を見分けることができずいいように扱われたが、その後からは大体わかるようになってきた。
あいつらの目は濁っている。
あいつらの瞳は俺を見ることはないんだ。自惚れではないが俺はそこそこの顔立ちで身長も低すぎない程度、体も日頃の仕事と筋トレで引き締められた体。んで、彼女に使える金。これだけで女は寄ってくる。ただ金があるだけだったら、相当な金がないとダメだろうが、俺の場合は中途半端にそこそこな身なりのせいでそういう奴らが寄ってくる。そしてそいつらは俺がそこそこで金があるから世間には悪いようには見えないしちょっとしたステータスになってしまうのだろう。
だから俺はあいつらにとって自分を惹き立たせる道具であって一人の男ではないのだ。いや、ね。一応世間一般で言う男女の営みとやらもそいつらで経験はしたさ。だけど、なんというか凄い惨めな気持ちになったんだ。それこそ風俗で金を払ってやってるような感じだろうか。
俺は数人の女性と付き合い、色々見てみたが結局は同じやつしかいなかった。誰一人として俺を視なかった。だから俺はある時からピタッと女性とお付き合いすることを辞めた。俺は俺を視てくれる人がよかったのにそんな人がいなかったからだ。それなら高い金まで出して一緒に居たくないし、風俗にでも行く方が幾分も安上がりだ。
でも、メリーさんは違った。
メリーさんの目には確かに俺が映っている。
だからだろう、俺はこんなにも衝撃を受け、ガラにもなくときめきをーー。
「ってんなわけあるかぁあああああ!!!!」
「え?ちょっと?!!」
俺はメリーさんから顔を背けると窓のさんに額を思い切りぶつけた。突然の俺の暴挙にメリーさんは目を丸くし悲鳴を上げている。
「いってぇええええ!!!」
「あ、あたりまえでしょ!!ひっ!ちょっと血出てる!あわわわ……えっとティッシュティッシュ!!」
ぐおおお。
なんつう激痛だ。
思わず頭が割れると思ったぜ。
でもそのおかげでこうして正気を保てたってわけだ。
メリーさん、なんて恐ろしい子っ……!
無意識か意識的か……どちらにしろチャームを放ち俺の正気を奪おうとしてくるとは。やはり相手は都市伝説。人の魂を食い物にする恐ろしい存在。気を許せばそれすなわち己の死ゾ。
なんていう、またしても俺の心の葛藤などメリーさんは知らんとばかりに俺の額にティッシュを押し当て「大丈夫?!」と涙目で声をかけてくれる。しかもそこにはやっぱりどこか見えるはずの打算は何一つ見受けられない。ただ純粋にある一点の感情だけ。
またも俺はそんなメリーさんの存在に頭がクラクラとしてくるが、額の痛みに集中し雑念を追い払う。
相手は都市伝説。相手は都市伝説。相手は都市伝説。
念仏のように心の中で唱え平静になるよう心を落ち着ける。
確かに目の前に居るのは世界一の美少女だ。だが、都市伝説だ。あくまでも人間ではないし、何より見た目が問題だ。俺との年齢差でどう見ても少し歳の離れた妹にしか見えない。しかし金髪で碧眼で可愛らしいドレスを優雅に着こなし、なおかつありがとうも言えるし、人の心配もできるし、こうして傷の手当もしてくれる……あれ?なんか今までのどんな女よりもまともというか、うん心がときーーじゃなくて!!
「ねぇ大丈夫?まだ痛い?血は止まってるようだけど……そうだ!」
メリーさんは俺の心の(ry、俺の額にティッシュを当てたまま、やや強引に肩を掴み引っ張った。俺は突然の出来事になすすべなく引き寄せられ彼女に倒れこんでしまった。
「んしょっと」
彼女の可愛らしい掛け声とともに俺の頭が微調整されていく。
あの……これってもしかして……。
「やん。もう動かないでっ。くすぐったいから……んふふ、よしよし……痛いの痛いの飛んでいけ〜」
「はがっ……!!」
俺はメリーさんに頭をナデナデされていた。それだけでも恥ずかしさというかその他もろもろ感情の整理が追いつかないのだが、あろうことか、俺はメリーさんに膝枕をしていた。
ただでさえさっきからのことでパンクしそうになっていた頭が完全にショートし思考を放棄した。俺は変なうめき声を上げ、メリーさんのどこか甘い匂いのする柔らかな太ももにの頭を乗せ頭を撫でられ続けた。あっ口からなんか出てる感じが……。
「あっ、魂が出てきちゃってる……えいっ!危ない危ない。この辺にも幽霊とかいるから簡単に魂なんか出しちゃメッ、だよ」
俺があまりの衝撃に口から出た魂をメリーさんは危なげなく、かつ優しげな手つきで捉えると俺の中に戻してくれた。
いや、あの、あなた俺の魂を狙ってたんじゃ……。
俺は真っ赤になった顔でメリーさんの顔を除き見る。するとメリーさんは俺の視線に気付いたのか、またあの優しい笑顔を俺に向けてくれた。
あぁ……もういいや。ちょっと考えるの、やめよ。
こんな怒涛の連続攻撃、耐えられるわけないだろ。お前、MP999のテンションマックスマダ◯テを4回食らったんだぞ?しかも俺プレイヤーキャラ側な!オーバーキルもいいとこだわ。
俺は今度こそ本当に考えることを辞めた。そしてそのまま彼女の柔らかな太ももの上で頭を撫でられ続けたのだった。
メリーさんVS俺 第三戦目
勝者 メリーさん
読んでくれてありがとうございます!
感想などありましたら是非お願いいたします!
6話か7話にはラノベ風の表紙を載せれたらな、と描いてます。
稚拙な絵ですが少しでもイメージを補足できればなと思っています。