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うちのメリーさん!  作者: kei
1/9

メリーさんですか? 一戦目

この作品を見ていただきありがとうございます!

少しでも退屈な時間が楽しい!と思えるような作品にできていたらいいなと……

まだまだ稚拙な分・表現ですがなにとぞご容赦を!!

何か気になることなどありましたらコメントお願いします。

挿絵(By みてみん)


「あ~……ダルっ」


 季節は夏。


 鬱陶しいくらいに強い日差しが肌をつく今日この頃。額から噴き出る汗をハンカチで拭いながら俺は今日も外回りである。

 何故こんなにもくそ暑い中外回りなんてしなきゃならんのか。会社様は俺に死ねとでも言っているのだろうか。俺は就職先の希望で事務職を選んだはずで、この会社を選んだのも冷房や暖房のきいた部屋でカタカタとPCに打ち込む作業がしたかったからなのだが、現実は自分が望んでいたものとは全く別のものを提供してくるのだ。いやまぁ、初めの1年くらいは事務でしたよ?だけど、気付いたら同期の営業の奴らは抜けていき、営業のスタッフが絶対的に少なくなってしまったのだ。そこでプレゼンや会議などでそこそこ優秀だった俺が上司に「お前才能あるから営業やってみろ。うん?拒否権?あるけれど……まだ若いんだし社会経験だと思ってやってみなさい、ね?」と有無も言わせず俺は営業に回されてしまったのだ。

 確かに俺はまだまだ若い。今は経験が必要な時期なのだろう。だがしかし、人権はあってしかるべきだと思うのだ。別に社員の中で一番若い俺じゃなくて、先輩にでもやらせればいいのだ。先輩の方が明らかにプレゼンだって会議だってうまいし、コミュ力も高い。即戦力としては申し分ないはずだ。

 にも関わらず俺にその災禍が降りかかってくるということはおそらく先輩たちからの推薦という名の”押し付け“されたとみて間違いないだろう。

 こういうのをなんて言うのだろう。パワハラ、パワハラかこれは。

 結局一番若いやつの希望とかは無視されうまみのないところだけ押し付けられてしまうのだ。本当社会ってくそだと思うわ。

 最近の若者は頑張りが足りないだとかこらえ性がないだとか散々言うけどさ、自分たちは好き放題やっといて嫌な部分は俺たちに押し付けて、尚且つそれで伸びなかったら文句を言われる始末。ふざけんなよって思う。

 これでまだ給料が高かったなら俺はここまで文句をぐちぐち言うような人間にはならなかったと思う。だがしかし、ここの事務と営業の給料はさほど変わらないのだ。一応インセンティブとして営業成績によって給料が上がることはある。が、ノルマが5件以上に対しそのラインはどこに設定されいるのかもわからないくらい超厳しいからまずそのインセンティブがつくことがない。一時なにくそ!と思い鬼の如く駆けずり回り驚異の13件を叩き上げた月でさえ給料が上がることはなかった。つまりインセンティブによっての給料プラスなどあってないようなものなのだ。


 わかるだろうか。

 ひたすら取引先やお客様に頭を必死に下げ、面倒くさいビジネストークを重ね、神経質に相手の顔を伺い、時には休日に取引先に呼ばれ休日を潰し、終電を逃し漫喫で仮眠をとりそのまま出社して……そんなことを繰り返しても給料は事務と一緒なのだ。

 今こうして汗水垂らして気分悪くなりながらも給料は変わらない、待遇も変わらない。やってられるだろうか?こんなんで耐えろという方が無理だ。何とか我慢に我慢を重ね、「きっと昇給がある」なんて希望を抱き必死こいて馬車馬の如く1年働いたのに、インセンティブはなく昇給すらもない。正に地獄とはこのことだ。

 

 そんなわけで俺はようやくこのクソな会社を退職することに決めた。例のよっては退職届を出したときは酷かった。

 やれ自分勝手だ、お前は軟弱だ、こらえ性がない、キレやすい、向上心がない、社会に貢献する気はないのか、お前のような奴はどこにも雇ってもらえないぞ、絶対に後悔するぞ、バカだクソだ等の罵詈雑言、そしてしめはやっぱり「最近の若いやつは」だ。

 まぁどれも納得のいくものはなかったが、人の尊厳を踏みにじるような発言に関しては訴えてもいいんじゃないだろうか。てか会社自体訴えても良さそうな気がするな。サービスみなし残業休日出勤に関しても手当つかなかったし。

 しかし何と言っても。


「面倒だ」


 これに尽きる。

 確かに徹底的に戦ってやってもいいが自分の貴重な時間をもう何秒たりとも会社に使いたくない。というか会社のことで無駄な思考時間と労力を費やしたくない。泣き寝入りと言えばその通りなのかもしれないが正直疲れた。


 というわけでこのクソったれな毎日とも今日でおさらばだ。

 一応最後だし一番でかい案件を成功させてやって今はその帰りである。とはいえまだお昼過ぎだし時間はバカみたいにあるので漫喫によるところだ。

 おいおい仕事中にいいのかと思われるだろうが、この案件さえ成功させてしまえば会社の利益は右肩上がり間違いなしだし、その他の案件をできてもできなくても大した変化はない。俺としては非常に不本意ではあるが一応世話になった会社だったので、こうして会社が欲しがってたとこの取引を成功させてやった。まぁこれは一種の復讐でもある。自分で言うのもなんだが、こんな優秀な人材がこうして辞めるのはお前らのせいなんだぞってな。会社に戻った時のあいつらの顔が今から楽しみで仕方ない。



◇◆◇



「ただいま」


 俺はリスポーン地点である安アパートに帰ってきた。

 別に家であるここに誰かいるというわけではないが習慣として身に付いたものは中々なくなるわけではなく、自然に言葉が出てしまうのだ。一人暮らしはじめたての時は「おかえり」が聞こえないことに違和感を覚えたものだが、今では返ってこないのが普通だと適応してしまった。実に寂しい適応の仕方である


 俺は仕事用のカバンをベッドの上に放り投げると冷蔵庫の中から缶チューハイを取り出し早々に晩酌を始める。因みに俺はお酒はそんなに強くない。てか寧ろ弱いくらいだ。なんてったって生ビール一杯で顔が赤くなり、二杯目が飲み終わる頃には頭に鈍痛が走るくらいだ。生まれてこの方お酒で気持ち良く酔えたためしなどない。百害あって一利なし、それが俺にとってのお酒の認識だ。

 そんなお酒だが、飲みの場は好きである。勿論友人限定だが。それにたまに無性に飲みたくなることがあるので一利なしは言いすぎかもしれない。


 今日だってあいつらの顔を思い出すと笑いがこみ上げてきてそれを肴に一杯やりたい気分なので、きっと嫌いではないのだろう。

 まぁ決まって飲んだ後は調子は悪いので体的には有害だが。


 俺はチューハイを飲みながらスマホ片手に転職サイトを見る。

 一応貯金だけはあるので1年くらいは働かなくても大丈夫だが、ブランクが開けばあくほど社会人復帰に苦労するので、最近はこうして帰ってからは転職サイトとにらめっこする日々が続いている。求人だけならそこそこ沢山あるのだが、そこからどういった会社なのか、どういう制度があるのか、残業代は出るのか、みなし残業はないか等条件を当てはめていくと中々これといったところは見つからない。前回の就職の際にはそれを見極められなかっただけにこうして苦労する羽目になったので今回は妥協せずしっかりと見極めていきたいのだ。


「ん~っ……あぁー。やっぱ面接いかないとどんなもんかわかんないなぁ。取りあえずあたりを付けてる会社に面接だけでも受けに行くかな」


 どれくらい時間が経ったのか、俺は背中を大きく反らし凝り固まった筋肉を解す。背骨や首の骨をパキパキと鳴らしながら時計を見れば既に午後9時。どうやら2時間ほど見続けていたようだ。そりゃ腰も首も痛くなりますわ。

 俺は転職サイトの「お気に入り」に登録した会社の中で特に気になる会社をピックアップし紙にメモしておく。PCは確かに便利だが、やはり紙にメモするのが一番目につくししっくり来る。職場でもスマホにメモするわけにもいかないし、今まで何かあれば紙にメモすることが常だったため習慣化しているのだろう。


 一通りメモし終えた俺は一旦風呂にでも入ってさっぱりするか、と立ち上がる――その時だった。


『~♪』


 軽快な音楽が流れる。

 音源は俺のスマホだ。

 これは俺の好きなロックバンドの曲だ。着信音に設定している。

 これが流れているということは電話が掛かっているということになるのだが。


「ふむ、()会社の連中か?もう辞めたんだから関わり合いたくないんだけど」


 俺は深いため息を付スマホを手に取る。

 大方今日本当に退職してしまっていいのか等の、引き留めか何かだろう。そりゃ営業がいなくなればなるほど会社としては困るわけだし、その負債は元先輩たちに降りかかるわけだからしつこくもなるだろう。だがしかし、俺は何と言われようと戻る気はさらさらない。その為にも最後デカいの当ててやったんだからな。


 電話に出たら開口一番に「戻る気はありません」の一言で終わらせてやる。

 

 俺はそう意気込んでスマホを見る。


「……非通知?」


 ふむ。

 ちょっと肩すかしをくらった気分だ。

 一応まだ社長や上司、先輩たちの電話番号は登録したままなので、その内の誰かから電話が掛かってきたら表示される。だが画面を見てみれば非通知である。

 非通知と言えば友達の悪戯かもしくは変なとこの架空請求とかの電話だろう。普段ならば出る気などみじんもないのだが、この日は通勤最後の日である。社員の誰かが非通知でかけてくるという可能性もなきにしもあらず。仮に架空請求とかだったとしても適当にはぐらかせばいいやという軽い気持ちで通話ボタンをタッチする。


「はい、もしもし」

 

 相手が誰であるかわからない以上先に名乗りはしない。

 これ、大事。


 さて、相手は誰で何を言ってくるのか。

 俺は耳を凝らし相手の出方を待つ。


『もしもしあたしメリー。今○○駅にいるの』

「んん?」


 おや?

 おやおやおや?

 何て?あたしメリー?

 はて、俺の知り合いにメリーなんていう外国人はいただろうか。「愛利依」という日本人の可能性もあるがそんな覚えやすそうなやつを俺が忘れるはずもないし。

 いやでもこいつ○○駅つったよな。

 ○○駅って言えば俺の最寄駅でアパートから徒歩20分のとこだ。わざわざ知らない相手がこんなこと唐突に言うわけもないし、誰かの知り合いか。声の感じからして若い女性って感じだし、妹という線もあるだろう。


「いやあの、どなたで――」


 プツッ。ツーツーツー。


 取りあえずどこの誰なのか、それを聞こうと質問の最中に電話が切れた。


 ふむ。一体なんだったのだろうか。

 若干、言葉の最中に電話をぶつ切りされたことに不快感を感じた。誰かの関係者だって言うんなら本人か、または知り合いの誰かから連絡があるだろう。ていうかあって然るべきだろう。


 俺は特に気にしないことにし、再度風呂に向かおうとスマホをテーブルの上に置こうとした時、再度軽快な音楽が流れる。音源はやはり俺のスマホだ。


 何と間の悪い。

 俺は軽く舌打ちをしスマホの画面を確認する。するとどこにはやはり非通知の3文字。きっとさっきのメリーさんとやらがきちんと事情を説明してくれるのだろう。

 俺はすぐさま通話ボタンをタッチして耳に当てる。


「もしもし、さっきの方ですよね。申し訳ないのですが、私はあなたのことを知りません。間違い電話かなにかではないですか?もしくは誰かの妹さんですか?」


 俺は先制攻撃とばかりに言葉をまくし立てる。

 軽くドヤ顔の俺氏。

 これでさっきのやつじゃなかったらとんでもなく恥ずかしいが。


『……もしもしあたしメリー。今あなたの家から500m離れたローソンにいるの。からあげ君の新作があるわ』


 は?


 おいおいおい、俺の質問は無視ですかスルーですか。

 てか何だよからあげ君の新作って。あれだろ柚子胡椒味だろ?知ってるよ。俺はローソンユーザーだからな。だてに毎日帰りによってねぇっつの。


 ていうかちょっと声が可愛いくて聞き続けていたいと思えるほどには耳に心地いいとはいえ、失礼すぎないか。いやまぁ俺も名乗ってないし、2本目の電話で開幕ぺちゃくりましたよ。しかし、それはまだ許される範囲だと思う。ほら今の世の中って詐欺とか横行してるし、自衛として掛けてきた相手のことを知ろうとするのは至極当然のことだ。


 だが、このメリーって人はどうだ?

 急に電話掛けてきたと思ったら自分の居場所を報告してくるわ話聞かないわ非通知だわ。これって非常識だと思うの。確かに急激な情報技術の発展で低年齢でもスマホやPCを触れる世の中故に常識のないものが多いのも事実だが、それでもなんかおかしい。


 アレか?メンヘラかメンヘラ。

 俺メンヘラ女にどっかで目をつけられちゃったのか?!

 何、じゃあ俺刺されちゃうの?

 

 私はあなたのことずっと見てきたのにあなたは私を見てくれない、だから私だけを見てもらうために刺しちゃうねみたいにやられちゃうんか?

 確かに死体なら視線を固定できるわな。もう君以外視線に入らないってのもできるだろうよ。でも俺はそんなごめんなんですが。


 俺ってば独占欲は強い方だし、彼女がいれば彼女には俺だけを見て欲しいってのはある。多分他の男と話してるのを見れば嫉妬しちゃうし心配になる。だからといってそんな危険な行動はしたくないですし、自制できる。できなきゃ今頃犯罪者だ。

 よって相手が同じように自分を思ってくれるのは嬉しい。だけどそれをサイコな思考に走っちゃって行動に移すような女というのはお断りだ。しかもこの電話の相手に俺は心当たりのこの字もない。全く面識のないであろう女に恋慕とか何かしらプラスの感情を持つことはできない。


 なので。


「あ、自分メンヘラお断りなんで」

『……は?メンヘラ……?』


ブツッ。ツーツーツー。


「また切れた」


 俺は顔をしかめる。

 一体何なんだこの女は。

 

 一応最後の方で俺の言葉に反応していたので全く聞き耳持たんというわけではないのだろう。


「しかし参った」


 メンヘラかぁ。メンヘラはなぁ。

 最高に可愛くてもメンヘラだったら俺のストライクゾーンからは大きく外れる。ていうか外れすぎて大気圏外いきだ。もしかするとブラックホールもしくは宇宙の果ていきである。つまり可能性は微塵もない。全くの「0」だ。

 いやさ、仮におkしたとしてもよ?互いに普通よりは明らかに濃い時間を過ごしていくわけでしょ。てことは互いにいいところだけじゃなくて悪いところも見えてくるわけだ。更に言えば、人って限りなく悩む生き物だから、そういったことを相談するのも恋人になるわけだ。普通の子でも「うわめんどくさ」って思うものがあるっていうのにそれがメンヘラとなれば「あたし前リスカしたんだ」とか「この前自殺する夢見たの!!最高にハイだったわ」とか病んでる発言をされ続けるんでしょ。


 そんなん俺の精神状態がストレスでマッハだわ。可愛い可愛くない以前に人として見れないわ。下世話な話になるが、きっと肉体的欲求はあると思う。俺も男ですしそりゃ妄想だってするし息子が大惨事的なこともある。なので俺がメンヘラに靡く……ことは絶対ないが、付き合うことになるとしたらそういった肉体関係からというのがありえる。勿論俺は自制できる男ですし考えれる人間なのでそういうことになるこは素面ではまずない。万が一間違いがあるとすればお酒が入ったりして冷静な判断ができていないという時ぐらいだろうな。


 ん?ちょっと待て。

 それなら今の俺の状態は危ないのではないだろうか?


 ほれ、缶チューハイ一本とはいえ飲んじゃってるわけですよ自分。

 アルコール入っちゃってるわ。全身に酒成分がめぐってる気がするわ。ヤバくない?


 あ、いやでも冷静……ではないな動揺はしているが、しっかりと物事考えれてるから大丈夫……なのか?

 でも心配は心配だしな。


 俺はテーブルにあるチューハイを見る。


「ん?」


 よくよく見るといつも普段飲んでるものとは違うものだ。

 色合いが似ているが別の酒だ。


 ふと嫌な予感がし缶をクルッと回転しアルコール度数を見てみる。


”8%“


 おうふ。

 俺普段飲んでるやつ3%なのよね。でも今日に限って5%も高いやつ飲んでたみたいだわ。どおりでなんか頭痛がするわ、いつも以上に動揺してるわけだ。

 これは間違いなく間違いが起こってもおかしくありませんね。


「てか何か変なテンションなってるな……。ぬるめのシャワーでも浴びて気持ちをリセットしようそうしよう」


 誰に言い訳するでもなく自分にいい聞かせ、俺はシャワーを浴びることにした。




◇◆◇



「思いのほか風呂場カラオケ大会が長引いてしまった」


 お酒が入っているせいだろうか。

 風呂場にいたら何故か気分が上がり一人カラオケ大会が始まってしまった。

 着信音にしているバンドの曲を数十曲、それからミュージカルまで。一人何役もやりハードな感じからふんわり柔らかい感じまで幅広くだ。そんなんやってたわけですから風呂場に1時間以上はいたはずだ。途中から熱くなってきたので冷水を頭から浴びたりして体温調整していたのでのぼせることなく快適かつ開放的な気分で過ごすことができた。


 いや~至福の時だったわ。

 まぁこれ後で音が全部漏れてるってことに赤っ恥かくことになるのは言わずもがな。しかしこの至福の時間があったということを俺は一生忘れることはないだろう。


 すいません。

 嘘つきました。

 既に頭が冷え冴えわたっているため壮絶な恥ずかしさに赤面中であります。

 末代までの恥です。こんなんもうアパートから出られないわ。絶対隣の人笑ってるよ……。


 俺は羞恥により真っ赤になった顔で何気なくスマホを持ち画面を起こす。


「……ふぁー」


 そこには「非通知」による不在のお知らせがずらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……………と並んでいた。必死にスクロールしていくが中々最後までいかない。


 何とか最後までスクロールし終わったのでどれくらいの不在件数があったか数を数える……気にはならなかったので、ざっとだが100件以上はあるようだった。


 なんだよこれ。

 始めの方は1分間隔だったが、直近のほうだと数十秒間隔で掛けてきたようだ。


 ヤバい、ヤバすぎる。

 これもう警察行った方がいいのでは……。

 

 珍しく身の危険を感じた。


 が、アルコールの勢いが弱まり、頭が冴えわたっている今、さっきの電話の内容を頭の中に思い浮かべる。


『もしもしあたしメリー。今○○駅にいるの』

『もしもしあたしメリー。今あなたの家から500m離れたローソンにいるの』


 間違いなくこいつの距離は縮まっていると。


 いやまぁそこまではさっきも気付いてたしわかっていた。

 だからメンヘラ女がこの場所に近付いてきているという恐怖を抱いたり抱かなかったりしていたのだが、ここで俺は今にしてようやく、共通点があることに気付いた。


 こいつ……『メリー』さんは必ず開口すぐに自分のことをメリーと言うのだ。

 そして『メリー』さんにまつわる都市伝説があることを俺は思い出したのだ!!


 ……。

 ……。

 ……。


 いや、あのね?お酒は言ってるとそんなことも気にならなかったりしてですね、はい。まぁあの今更なんですけどね。お願いだからこいつ頭悪いな的な蔑んだ眼で見ないでください。なんでも……はしないですけどなんでも許してください。


 とにかく、俺がかわいそうな奴かどうかはひとまず置いといて、今重要なのは俺が遭遇している異変?はどうも『メリーさんの電話』に酷似している。ていうか「あたしメリー。『地名』にいるのー」てまんまそれとしか思えない。都市伝説はあくまで噂でしかないというのが俺の見解だったのだが、まさか本当に実在するとは思わなんだ。


 さて、これがあの『メリーさんの電話』だとするのならば対処法があったはずだ。

 というわけで俺はPCを立ち上げgo○gleをダブルクリックし、『都市伝説 メリーさん』と入力、検索する。そこで検索結果の一番上に来るのはみんな大好きwikipedia先生だ。早速ソレをクリックする俺氏。


 ~青年?ウィキ鑑賞中~


「ふむ、なるほどなるほど。さてこれらの対策役に立つだろうか……。いやあのウィキ先生のことだ。うまくいくに決まってる」


 はっきり言って、俺の中ではメリーさんであると決めつけてしまいたい自分とただの模倣犯による悪質な悪戯であるという都市伝説を否定する自分がいる。比率で言えば半々。強いて言うなら若干否定派の方に天秤が傾いている。

 いやだってそうでしょ。世の中そんな摩訶不思議ぃなことって早々ないもんだ。しかもこれがマジだとするなら全国のオタが歓喜してブヒブヒ言うこと間違いなしだぞ。言うて俺もオタはオタだがブヒブヒ言う系じゃないし……いやまぁうん……好きですよ?ファンタジーとかくっさいラノベ系とか。でも○○ちゃんマジ天使というレベルには達していないので比較的ライトなオタクなはずだ。グッズとかも集めたりする気ないしさ。


 と話がズレたな。

 つまりはだな、いくらウィキ先生といえどそこに書いてあることが本当かどうかなんてのはわからんということ。たいていの現実的なことに関しては万能もいいとこなのだが、あくまでこの『メリーさん』は眉唾ものでしかない。


 よって、だ。

 俺はウィキ先生が本当に万能であるというのを証明しようと思う。

 ウィキ先生は常に正しいということを証明するために、俺は記載されていた『対処法』とされているものを試そうと思うのだ。

 ただの模倣犯なら電話に出て後ろ振り向いたって瞬間移動なんてできやしないし、もし本物だったとしても助かるか助からないかの二択しかない。俺個人としてはまだ死にたくないので助かる方にかけたい。だから少しでも可能性のある『対処法』を実践するしかない。


 因みにさっきから意図的に無視しているがスマホはまだなり続けている。

 表記は非通知だ。

 十中八九『メリーさん』だろう。


 おそらくこの電話に出れば『メリーさん』が本物か模倣犯かわかる。

 なんとなくだが、出ればきっと「あなたの後ろにいるの」と言ってきそうな気がする。3段階目にしてもうかと思うかもしれないが、何百件と無視しているため向こう側が我慢できずにそうしそうな気がするのだ。多分きっとおそらくこのメリーさんはせっかちさんだ。


 俺は軽く深呼吸をする。


 そして覚悟を決め、未だになり続けるスマホの通話ボタンをタッチし耳に当てた。


『酷い!ずっとかけてるのに無視するなんて酷い!!れでぃーの電話にはさっさと出るべきだわ!!女の子の扱いがなってないわよ!!!一体何回あなたに電話かけてると思ってるの?!これで198回目よ?!わかる?!こ○亀の巻数と同じだけかけてるのよ!!40年の歴史と同じだけの回数よわかる?!重いわ!!とてつもなく重いのよ!!あなたはそれだけの時間と回数を無駄にしたのよ?!!たいむいずまねー、時は金なりよ!!時間は無限じゃないの!有限なのっ!!やんごとなき理由があってならまだしも、あなた134回目以降の着信は意図的に無視してたでしょ!!あたしの勘がそう言ってるわ!!多分めんどくさっとか思ってたんでしょ!!あたしみたいな美少女の電話がめんどくさいってなによ!!ひじょーしきよひじょーしき!!そうそう!あと何よ!メンヘラって!!勝手に人のことメンヘラ呼ばわりしないでよっ!!あたしは至ってのーまるよのーまる!自傷癖なんかないし病んでないもん!!ただ人間の生気が欲しいだけで普通だもん!!しかもお断りって、まるであたしが告白する前に撃沈した哀れな女みたいじゃないっ!!あたしはふられてないもん!!美少女だから告白される側だもん!!貰い手一杯だもん!!前秋葉原でバイトしてたらメリーちゃん天使て言われたし、メリーたんちゅっちゅとか言わるもん!!メリーたんマジ嫁てなるもん!!……ちょっと気持ち悪かったけど……でも決していきなりふられるよーな哀れな女じゃないもん!!モテモテだもんねっ!!でも勘違いしないでよねっ!あたしは別にあなたのことなんか好きじゃないんだからね!!ついでに強い女だからさっきのメンヘラ徒然で傷ついたりしてないんだからねっ!!ちょっとグサッと来て道の片隅で膝を抱えて涙流しただけなんだからねっ!!涙じゃなかった、汗よ汗!!なんか目から汗が流れちゃったのよ!!多分今日は暑いからだわっ!!熱帯夜というやつかしら?!!兎に角っ!!!傷ついて根に持ってるわけなんて微塵も欠片もミジンコ程にもないけど、お詫びとして今すぐ振り返りなさいっ!!もしもしぃ!!あたし!!メリー!!今!!あなたの!!後ろに!!いるのっ!!!!!ゲホッゴホゴホッ!おぇっ……はぁ……はぁ……はぁ……』


 電話に出だ瞬間、耳がおかしくなるんじゃないかという大音量。あまりの衝撃に俺はスマホを耳から離すことができずそのまま耳を劈かれてしまった。

 

 これ鼓膜破れたんじゃねぇの?と割と心配になるほどの大音量だ。


 当のメリーさんはというと一気に言葉をまくし立てたためか、苦しそうにえずき、荒々しい呼吸音が聞こえる。


 ふむ。

 あまりに一気に来たので全部は理解できなかったが……こいつ本当にメリーさんなのだろうか。

 いやね、メリーさんて物静かに起こるタイプな感じだと思ってたのよ。都市伝説的な感じでいけばなんだけどさ。そんでこいつも前2回は非常に物静かな感じでいかにも本物っぽい感じの話し方だった。だが、今のこいつはどうだろう。感情を思った以上に大爆発させていた。しかもこ○亀知ってるし、秋葉でバイトしたとか言ってるし、なんか妙に人間臭い。しかも俺のメンヘラ発言でかなりの精神的ダメージを負ったらしく根に持っているようだ。


 しかし、まだこいつが人間であると決まったわけではない。

 ほら、よく創作物で人間味のありすぎる怪異とかよくあるじゃん。あの可能性だって十分にあるわけで、仮にそうだとしたら、油断して後ろを振り向いて昇天なんてのもありえる。


 そこで俺はこいつが本物のメリーさんであると仮定し、早速例の対処法を試してみることにした。


 対処法その①


 俺は背中を壁に向ける。

 背中と俺の間は15cm程。壁にぴったりくっつけないのがみそだ。

 ついでに一応準備しといたヘルメットを着用し、ズボンに雑誌を差し込み腹をガード。これで準備は完了だ。後はメリーさんの言うとおり振り向けばいいだけ。


「よし、わかった。じゃあ振り向くぞ」

『え?あ、えぇ!さぁ早く振り向きなさい!!それがあなたの最後よっ!!』


 一応俺はメリーさんに声をかける。

 するとメリーさんは一瞬はてなマークでも浮かんでそうな間抜けな返事をするがすぐに強気な彼女に変貌。俺に振り向くことを促してきた。


 俺は軽く深呼吸する。


 やっぱりなんだかんだで緊張する。

 もし失敗すれば俺の命はない。

 通常ならワンチャンあったかもしれないけど、今のメリーさんご立腹だもん。確実にぶちころがされるだろう。そう思うとやはり緊張するもので。

 

 だが、俺にはウィキ先生の対処法が正しいということを証明しなければならない使命があるのだ!

 ウィキ先生は怪異についても万能であるということをこの俺が全世界に示していかねばならないのだ!これは非常に重要な任務であり、唯一できる恩返しでもある。決して藁にもすがる思いで利用するなどという低俗で自分勝手な理由ではないゾ!!


 さて、無意味な言い訳はこの辺にしておいてさっさと振り返ろう。

 

 俺は3,2,1とカウントをしゼロと心で言った瞬間に勢いよく振り向いた。

 するとそこには――!!


「あはは!やっと振り向いたわね!これであなたの人生はしゅーりょーよ!!さぁ素直にぶちころがされなさい!!」

「……」


 俺は声の主を見て絶句した。

 そこには確かに女の子がいた。


 輝くような金髪ロング。

 勝気そうなネコ目に大空のような蒼い瞳。

 しみ一つ見当たらない真っ白で瑞々しい肌。

 何から何まである意味完璧な美少女がそこいはいた。

 

 俺は今まで美女とか美少女と呼ばれる人たちを見てきたことはある。そりゃ社会人やってれば色んな人との交流がるからそういった人たちとの出合う可能性だって上がる。だが、この少女は今まで見てきたそれとは全くの異次元に存在するようなそんな美少女だったのだ。欠点があるとすれば貧相な胸くらいで、でもそれもこの少女の魅力を引き立てる武器にすらなっているように感じるため、欠点と言っていいのかは非常に微妙なとこである。


 まぁ俺はあるかないかで言ったらある方がいいんですけどね。


 じゃなくて、兎に角この少女は間違いなく本物の美少女だった。

 自分で美少女って言ってただけはある。

 確かにこれなら貰い手は数多だろうし、こんな子が秋葉でバイトしてたらそりゃ天使やら嫁やら言われますわ。俺でさえ一瞬ぺろぺろという言葉が出てくるんだもの。


 こんな子が俺のことを付け狙っていたというメリーさんだとは……いささか信じられない。もしかしたら手の込んだドッキリで、人間観察モニ○リングなんじゃねぇの?と思ったりもしたのだが、今のメリーさんを見てしまえば、彼女が本物のメリーさんで明らかに人間とは別なんだなと認識してしまう。だって――。


「お前そこからどうやって俺ころがすの?」

「は?そんなのこのバールのようなもので脳天かち割るに、決まって……え?」 


 確かにメリーさんの手にはどう考えてもバールとしか思えないL字の鈍器が握られており、そんなもので俺の頭を殴られたら昇天間違いなしだ。そんなことは彼女の姿を見た瞬間に理解したさ。


 俺が言ってるのはもっと別。

 そんな胸から下が壁に(・・・・・・・)埋もれてる(・・・・・)のにどうやって俺に危害を加えるのかそれが聞きたかったのだ。


 そしてメリーさんも俺が何を言わんとしたのか理解したようで、おそるおそる視線を自身の下半身に向けていた。


「……」


 メリーさんはどうやら現実が受け入れられないのか、何度もぱちくりと瞬きをし、視線を俺と壁に埋もれている自身の下半身を行き来させていた。その動作がたっぷり1分ほど繰り返された時、ようやくメリーさんは自分がおまぬけなことをしたのに気が付いたようだ。


「あの……あなたもしかしてだけど、もしかしてだけど~……壁際で振り向いちゃったんじゃ……」


 ほほう。ははあん。は~なるほど。

 この反応どうやらウィキ先生の対処法は正しかったと証明してしまったということでFA?


「もちろん!」


 俺は飛び切りいい笑顔で言ってやった。今回は初回特典サービスということでサムズアップ付きだ。俺にしては大奮発だぞ。


 するとメリーさんはどうだろう。

 ポカーンとした顔で俺を見た後、プルプルと震えだし、勝気そうな瞳に涙を溜めて叫んだ。


「嘘よぉぉぉぉぉお!!!!うわああああああああああああああん!!!」


 メリーさんVS俺 第一戦目(二戦目があるとは言ってない)

 勝者 俺

読んでいただきありがとうございます!


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