詩謳いのジョージ
次に視界が開けたとき、それはどこかの酒場だった。
これは……
「こっちをごらん」
反射的に振り替えると、酒場のテーブルと椅子が窮屈そうに客と酒と料理で埋もれるなかに、一段高い舞台があった。そこにジョージが腰かけている。
「俺はここでまず、音楽を奏でた」
あら。私のことを真っ直ぐに見て、説明してくる。これは記憶を覗くって言うよりも、記憶を作ってるのかしら。
綺麗な歌声でリュートを弾きながら歌うジョージ。でも、何かしら違和感。なんだろう、この歌。
「俺の奏でる音楽は夢を見せると評判になった」
その言葉でピンとくる。この歌、呪文だわ。古い古い、詠唱式の魔法。
声に魔力をのせられる人は、現代ではほとんどいない。なぜなら、現象として魔力に方向性を持たせるには視覚化するのが一番早いから。魔方陣を作っておいて、初同時にキーワードを口にする程度ならよくあるんだけど、ここまでしっかりとした呪文詠唱でのみの発動は難しいわ。
私がここに来たきっかけの魔方陣だって呪文詠唱型とか言いつつも、魔方陣の読み取りがあってこそだから。
「さぁ、ここで一人のヒロインの登場だ」
ジョージは歌いながら、ついっと出入り口を指差した。
「助けて!」
叫び声と共に燃え盛る炎のような赤い癖っ毛の女の子が転がり込んでくる。
「これが俺と彼女の出会い」
歌うようにジョージは言うと、女の子の手をとる。
「俺は事情を聴いたんだ。そうしたら女の子は滅ぼされたはずの火蜥蜴の一族だった」
ひとかげ……?
「知らない? 赤い髪をした炎の魔獣を操る一族だ。魔獣を操る一族は忌み嫌われる。彼女の一族もそうで、滅んだと見せかけて山奥に隠れ住んでいたようだった」
私たちには伝わらない、伝わっていない記憶。魔獣の存在ですら不確かだったのに、それを操る人達がいたなんて。
「俺は気まぐれで助けて上げた。詩謳いのジョージは自由気ままに旅をして己の魔法を高めることしか興味がなかったからね」
ジョージが女の子に近づいて、パチンと指をならす。それだけで女の子の赤髪は枯れ葉の色に染まった。
「女の子の髪を幻術で隠して、俺たちは逃げた。どうやら火蜥蜴の女の子は、魔獣を憎む奴等に追われていたようだった」
女の子の手をとって酒場から飛び出すジョージ。追いかける前に、景色が通りすぎていく。飛び込んでくる情景に頭が痛くなる。
「俺たちは奴等を撒きながら各地を転々とした。時には派手な襲撃を受けたりもした。まぁ、その度に返り討ちにしてやったけどね」
屋台で買い食いをしたり、広場で歌ったり、時には奴等とやらに寝込みを襲われたり。凄まじい勢いで月日が過ぎる。目が、頭が、この情報量に耐えられなくて、吐き気がしてくる。
「やがて、奴等の気配が感じられなくなった頃、やっと俺たちは火蜥蜴の里へ行ってみた」
目まぐるしい時間の群れが通りさって、やっと視界が固定される。これは、どこかの山村……だった場所?
辺りは焼けて、家も木々も無惨な姿。大地は煤で黒く染まり、焼き焦げた匂いこそしないけれど、この荒れ方はつい最近、ここで何かが起きたってことを伺わせて。……なんて惨いの。
「火蜥蜴の里。もとは美しい緑萌ゆる、山間の里。この光景は、どういうことか」
故郷に帰ってきた女の子は呆然としてる。その隣でジョージが静かにこの光景を見つめてる。
言葉もなく見つめていると、視界の端に何かが映った。




