読んで詠んで、よみまくれ
あっちでぱらぱら、こっちでぱらぱら。
私とフィルは今日も今日とてがさごそと本を読み続ける。時々、隠し部屋から本を持ち出しては、外でお茶をしながら読んだりもしている。部屋にこもり続けると、空気が悪くなるから。
そうして王都入りから四日目、私は最後の手記を手に取った。
「これで日記の類いは最後ね」
「収穫は?」
「分かってるのに聞かないでよ」
何もないことくらい、これまでの報告で気づきなさいよ。
とうとうマッキー兄弟の祖父母の代の日記にまで追い付いたのだけど、三十年周期で前回がグレイシアが生きていた頃……というよりグレイシアの存命したかもしれない年だということを考えると、祖父母さんは確実に封印をしているはず。この最後の手記に書かれていることが今までの記録の最後なんだろうけど、たぶん何も見つかりはしないのよね。だってサリヤが一度目を通しているのだし、今更目立ったことはきっとないわ。
今まで読んできた中にはルギィの特徴とか、確かに色々書かれてはあったけれど、封印のこと自体には触れられなかった。ただ、封印したとだけの一言とその日にち。あまりマメじゃなかったと思われる人も、封印の前後数日だけはきちんと書いてあった。
今までの記録から計算すると、この最後の代は若い頃に一度、老いてからも一度、行っているはず。最後に行われた日にちから後の記録が一番大事だけど、焦らないで順序よく読まないと見落とす情報もあるかもしれないから。
手に取った手記は黒い革製のカバーがついていた。表紙をめくってみれば、力強い男性的な文字でその日の徒然が綴られている。ページを捲るごとに、その内容は薄くなっていくけれど、時々思い出したかのように充実した一日を過ごしていたりする。そう思ったのも最初の十数ページだけで、後は日付に虫食いが始まった。手記の中央辺りで一度目の封印が行われたけれど、特記事項なし。
その後結婚。子が生まれる。魔力なしとの記載があった。それから長い間書き込まれることなく、子が生まれたとの記録の直後に、数年後二度目の封印が行われたことが書かれた。ここに特記事項もなし。
さらにページを捲るとこの封印の時にグレイシアに封印を頼んだことが書かれている。この日付は……
「ルギィと出会う前……?」
「何か見つけたかー?」
「あ、いや、何でもないわ」
地獄耳なのかなんなのか知らないけど、思わず呟いてしまった言葉をフィルが拾っちゃったみたいね。気を付けないと。
でも、ちょっと待って。私、この人に会ったことあるの? 手記には頼んだと過去形になってるわ。この日、私は何をしていた?
霞がかる記憶を掘り出そうにも、情報が少なすぎる。でも、ルギィと出会う前なのは確か。ルギィと出会ったのは国家資格をとる直前だったから……この年はまだ、グレイシアがアカデミーに通ってる頃よ。
アカデミー時代から私に目をつけていたということ?
「あら?」
日記の最後のページに、とても古い紙が挟まっていた。この手記に使われてる紙よりも古い。
白紙だったから、裏も確認してみる。魔方陣が書いてあった。
「何かしら」
こんな意味ありげに挟まれているってことは、何かあるのかもしれないわ。
魔法使いが他人の魔方陣を解読することはまずありえない。独特な解釈と意味合いを持つこともあるから全てを完璧に解読することが難しいし、そもそも解読しても意味がないときがあるからね。躍起になって解読したとしても、汎用性の高い常用魔法のときが多々あるから。
まぁ、それでも解読してみる価値はあるわね。サリヤも解読しているでしょうけど、もしかしたら解釈が違ったりするかもだし。
「えっと……」
紙を握って目を皿のようにして眺める。まずは全体から大雑把に魔法構造を把握。それから組み込まれた魔法式を呪文化して……。
ぼそぼそと解読しながら読み上げていく。声に出すってことは大切よ。頭の中のものを整理するのに一番なのよね。
「闇……の…幻実を……見よ……暗…きに……吸い込まれし…………我の…言の葉……紡ぎし…………意志……を…継ぐは……水…と風……に遊ぶ……朋友…の……認めし……盟友……炎の……獅子…の……永遠……を安らか…に……冀いて……汝を……誘う……………」
──闇の幻実を見よ。暗きに吸い込まれし我の言の葉。紡ぎし意志を継ぐは水と風に遊ぶ朋友の認めし盟友。炎の獅子の永遠を安らかに冀いて汝を誘う。
これ、幻術をかけるための魔方陣ね。最初から闇魔法であるのを強調してるし、しかも幻実なんて単語、幻術系以外に使わないわ。残りは幻術の内容。しかもこの組み込み方の形って。
「呪文詠唱発動型……!」
気づいたときにはグラッと視界が揺れる。あぁ、もう、どうして気づかなかったの私!
どくんっ。
体の奥底から何かが浮き上がる感覚。強制的に、何かを引きずり出される、感覚。
「ん……っ!」
心臓が、痛い。ただの幻術でしょう、どうして。
「ニカ!?」
本が落ちる音。私のものか、フィルのものか、分からない。
フッと痛みが消えた瞬間、意識が暗転した。




