眠たい朝食
「それで? 二人して夢中になって読んでいたの?」
「流石に深夜になる前には呼び戻しましたよ」
朝食の席でサリヤに言われて、私もフィルも眠たい目を擦りながら言い訳をする。
「だって、続きが気になってしょうがないんだもの」
「研究の内容も頭使うから、なかなか集中が切れなくてさ」
「だからといって部屋に持ち込んで徹夜するなんて馬鹿じゃないのか……」
カリヤにまで呆れられたように言われると、なんかむかつくわね。
「それで? 成果は?」
「まだまだ、序の口もいいところよ」
そう簡単にあの蔵書量から手がかりが見つかるもんですか。
「あ、でも、二代目の人の経歴は分かったわ。初代の人にルギィの召喚方法と封印の仕方を確かに学んでいたみたいね。毎日一言二言、日記をつけていたけれど、その中に確かに、封印を施したとだけは書いてあった」
でもその方法までは分からなかった。サリヤも分かっていない素振りだったから、他の日記を読んでもそう対して変わらないと思う。つまり、日記には詳細が書かれていないということね。
「俺はひたすら今、属性の研究について読んでる。でも、あらかた知られている事実ばっかりだったな。正直、何でこんな内容があっちの部屋に隠されているのか不思議だ」
理由なく置いてあるのか、はたまた何かしらの意図があっての事か。やっぱり全体像が掴めないと分からないわねぇ。
「まぁ、そんな簡単には分からないよねー、というか、僕も全部読んだけど時間がかかりすぎる」
でしょうねー。まぁ、読めるだけ読んでおこうってつもりだから。読んだ中に手がかりが一つもないならどうしようもないんだけれど、それもまた予想の範疇だから。
具体的な手立てを考えなくてはならないけど、その方法を考えるにしても情報が足りないわけだしね。
朝食の席でつらつらと話す。徹夜で読んでいたせいか、今にもまぶたが落ちそう。グレイシアの時は、三日くらい完徹とか余裕だったんだけどなぁ……。
うとうとしていると、アーシアさんがとんとん、と肩をつついてくれる。
「もう食べないの?」
「んー……」
眠くて思わずスプーンを置いてしまう。
「仮眠とりましょう。いいですよね、サリヤ」
「いいよー」
「あー、じゃすまん。俺もー」
「はいはい」
サリヤの苦笑に追い出されるようにして、席を立つ。フィルが私の手を引っ張って、部屋へと導いてくれるから、ほとんど目を閉じてても歩けるかなぁ……
「おいニカ、さすがに歩きながら寝るな」
「うー」
「お前本当に十五才かよ」
「なにそれ、幼児化してるとでも言いたいの?」
「口は達者だな」
失礼ね。
でも眠気には勝てないです、眠いです。
「ほら、ついたぞ」
「わぁいベットー」
私の部屋にまでつれてきてくれたので、ぽふんっとベットに飛び乗る。
あぁ……睡魔がぁ…………
「俺、向こうにいるからなー。起きたら起こしてくれ」
「ふぁーい」
部屋同士を繋ぐ扉から出ていくフィルの気配を見送って、枕に顔を埋める。あ、靴を脱がなくちゃ。
もぞもぞと靴を脱いでから、改めて枕を求めてベットに転がる。
やっぱり徹夜なんてするんじゃなかったかな……とりあえず寝て……
「起きたらもう一度日記を……」
うとうとと予定を立てる。
そういえば。
「ルギィが足りないものを見つけてって……」
そんなようなこと、言っていた気がする。
ルギィが言っていた足りないものってなんだろう。それが分かれば、ルギィの望みもわかるのかしら。
彼がグレイシアに何を望んでいたのか、彼が今私たちに何を望んでいるのか。過去の因果もまとめて私が精算しなくてはいけないのならば、私は自分を無力だと思ってはいけないの。
魔力も何もなくても、この記憶はある。グレイシアのときに培った知識と、なおも飽きなく読み続けた研究資料。これだけでも私の力になるわ。
おまけに私は一人じゃない。フィルがいるわ。きっと、どうにかなる気がするの。
 




