全快しました
ぱっちりとまぶたを開けると、清々しい朝陽が私の目を焼いた。よく寝たからかな、すごく気分が良い。
ばちぱちとまばたきして、気分がスッキリしているのを再確認。これなら今日の移動は問題ないわね。
ベッドの上でうだうだしていると、アーシアさんが入ってきた。もう身支度が終わってる。早起きね。
「ニカちゃん起きられる?」
「うん」
「熱は下がったみたいだけど、気分はどう?」
「平気」
「そう」
アーシアさんがにっこりと笑って、それから思い出したように手に持っていたお椀を差し出してくれる。
「野菜のスープ。食欲あるならどうぞ」
受けとると、スープはまだ温かい。火傷するほど熱くはないから、ちょうど良い。スプーンも受け取ってせっせっとスープを運ぶ。
にんじんと玉ねぎとトマトの鶏出汁のスープ。こってりしながらも、トマトがさっぱりと酸味を聞かせてくれる。ことことと時間をかけて煮込まれたのか、玉ねぎは透明になるどころか溶けてさえいて、ニンジンの形も最初の原形がどんな風だったのか分からないくらいに丸くなってる。トマトは直前にいれたのか、形がまだ残ってた。
野菜たっぷりのスープでお腹を満たすと、アーシアさんがお皿を受け取って部屋を出ていった。その間に私も身支度しないと。
ベッドから出て、荷物を漁る。適当にブラウスとスカートを引っ張り出して着る。それからブラシで軽く髪を整えて、と。
水差しから水を洗面器に移して、顔も洗う。よし、これで完璧。鏡をみて顔色も確認。うん、好調ね。
部屋を出て、皆はどこにいるのかと彷徨いていると、全員が食堂にいた。
食後の軽いお茶の時間っぽい。
「あれっ。もう起きて平気なの?」
最初に気づいたのはサリヤ。それからカリヤとフィルもこちらを振り向く。アーシアさんは微笑んだ。
「お騒がせしました」
ペコリとお辞儀をすれば、フィルとカリヤがちょっと驚いたような反応をする。
「ニカが殊勝だ……」
「貴様でも非を認めることがあるのか……」
ねぇ、あなたたち、私をなんだと思ってるの。ちょっとその反応酷くない?
つんっとそっぽ向けば、フィルが慌てて私の機嫌とりを始めるし。
「冗談だって! メイドさんから食欲あるし熱も下がってるからいつも通りって聞いてたから、ちょっと頭を下げられたのが意外っていうか」
「それ、フォローになってないわよ」
半眼で睨んでやれば、フィルはあははははと乾いた笑みを浮かべる始末。まぁ、いいけどね。それからサリヤの方を向いて。
「これからの日程は?」
「んー? 取り敢えず、どんどん進むよ。向こうで一息つきたいからねー」
全員うなずいて、さて早速とばかりに出立の準備をそれぞれ取りかかる。アーシアさんはさっとテーブルの上を片付けるし、カリヤは外へ出て馬の世話をしに行く。私もアーシアさんと借りた部屋の片付けをしようと部屋へ戻る。フィルも男部屋の方の荷物を片付けるために私と一緒に。サリヤは一人でのんきにお茶の続き。……っておい。
「サリヤ、ほっといていいの?」
「気にするな。今日の間はほっといてやれ」
フィルがそういうので、まぁ、ほっとく。
口数少なく部屋の前まで来る。男部屋と女部屋は隣同士。手前が男部屋なんだけど、フィルは部屋へと入る前に私を呼び止めた。
「ニカ」
「なあに」
振り向くと、フィルの真剣な瞳と視線がぶつかる。あら? なんでそんな険しい顔をしているの。
「昨日、お前の部屋にいたやつは誰だ」
昨日?
「アーシアさん以外に誰もいないわよ」
「いや、いた。全身黒ずくめの男が」
なにそのいかにも怪しそうな変態。そんな奴が入ってきたの?
「戸締まり悪いわねぇ、この部屋」
「茶化すなって」
「だって、私知らないもの。格好がいかに怪しくても、部屋を間違えただけかもしれないじゃない。何も荒らされた形跡もないし、考えすぎよ」
「そうかぁ……?」
フィルが納得いかなさそうに首を捻るけど、私だって心当たりがないんだもの。仕方ないじゃない。
「すごくヤバイ感じの気配だったから、何もされてないってことはないはずなんだけど」
「そんなに疑うなら荷物を整理するときに無くなったものがないか確認するわよ。ていうか、サリヤは何か言ってた? 同じ魔法使いなら気配くらい察してるでしょう」
「サリヤはべろんべろんに酔ってたからなぁ」
「酒盛りでもしたの?」
「あー……カリヤの頼んだジョッキとサリヤの飲み物が間違っててなー……」
あらまー。あ、もしかしてサリヤが動かなかったのって二日酔いだったから? 見た目的に普通っぽかったけど。
これ以上私もフィルも互いに追求しなかったから、話はそこで終わって、荷物を片付けるために、それぞれの部屋へと入った。




