アマリス村を出発!
ルギィもなかなか難航しないで説得できたからちょっと衝撃的だった。こんな楽に行くなんてね。
さっと王都行きように荷物をまとめて馬車に乗り込むと、サリヤが呆れたように呟いた。
「グレイシアが規格外な魔法使いってのはよく知られてる事実だけど、その実態に触れていくとなんかもやってするなぁ……ほんとに人間なの?彼女」
「それ、あの屋敷にある研究見てるとすごくそう思うぞ」
サリヤの独り言に、フィルが答えた。二人ともひどいわね。グレイしアを人外のように話すとか。あなた達の目の前にいる人間は、人外になんか見えないでしょう。普通の女の子よ。ま、言わないけど。
サリヤがうーん、と唸ってそのまま言葉を続ける。
「そのことなんだけど、精霊の見えなかったニカ・フラメルが精霊見えてる件、どういうことなの? 気配察知くらいはできても、精霊石使ってでも波長を合わせるのって無理じゃなかったっけ」
「グレイシアの研究から失敬したとだけ言っておく。協力関係だからと言ってこれは必要な情報じゃないから詳しいことは言わねーぞ」
「ちぇ。フィルレインって思ったよりも口堅いなー」
馬車がゆっくりとガタゴト車輪を鳴らしながら動き出すと、今度は私が口を開く。そうそう、忘れるところだった。
「これ、返しておくわ」
首から下げてるペンダントのうち、赤い方をサリヤに渡す。カリヤから預かっていた精霊石。さっきの会話で思い出した。
「あー、これカリヤの……って、もーだれー、封印魔法かけてんのー。こんなんじゃ感知できっこないじゃん」
フィルが視線をそらした。あ、なに、スルーする方向で行くの?
でもサリヤは魔法を解呪した時に気づいたのか、じーっとフィルを見てる。
「昨日思ったけど、フィルレインも結構人外っぽいよね。飛行魔法とか初めて見たー」
「お、おう」
「それならこれくらいの魔法なんて簡単だよねー」
「…………」
「僕らをはなっから欺こうとしたとか腹立つなぁ」
言葉に反して黒い笑み。やっぱりサリヤって本来はこう、腹黒系な人種なのかしら?めっちゃ黒そうな雰囲気を醸し出しているんだけど
フィルが無言のまま視線をそらし続けると、観念したかのようにサリヤも一つため息をついた。
「ま、いいけど」
サリヤはそう言って、御者のカリヤに背後からペンダントを渡す。
「カリヤもこれ大切なんだから持っとかないと」
「ああ。すまない」
カリヤは見向きもしないでペンダントを受けとる。ま、馬車操ってる最中によそ見されても困るからね。
「そういえばアーシアさんて魔力持ってるの?」
「どうしてー?」
「トットちゃんが見えてたから」
よくよく考えてみたら門番さんもだけど。あれってどういう仕組みなんだろ。
「あー。アーシアは魔力持ってないよ。トットの体、あれってアーシア特製のぬいぐるみなんだよ。トットはあまり本性に戻らないんだ」
本性に戻らないの? ぬいぐるみのままだと不便そうなのに。
「本性にもどったら女の子に抱きついてもその反応が見れないからつまらないんだって」
「ゲスだな」
思わず遠い目をしたサリヤに向かって、フィルがジト目になって言う。まー、私は気にしないけど。
だって、それよりもトットちゃんのあの感触! アーシアさんのお手製なら、私も作って貰いたいなぁ。抱き心地良さそうだもの。
「全く、あんな中身のやつに使われてるアーシアのぬいぐるみがかわいそうだよ」
ボソッと付け足したサリヤの言葉はなかなかに切実そうね。
 




