改めまして
家に帰って、さっと水を浴びてから着替え、食事を摂るのも手間に思えて食べようとしなかったお父さんをお母さんといっしょに無理矢理食べさせる。その間、フィルたちには居間でお茶を出しておく。私もこの家の子だからとお母さんの指示に従ってパタパタとあちこち動いた。お母さんたらここぞとばかりにこき使うんだからー。まぁ、いいけれど。
そうしてようやくお父さんが改まった風体でフィルたちの前に姿を表す。うーん、やっぱりかっこいい。
お父さんはいつでもかっこいいけど、畑仕事とかで泥だらけになってもかっこいいけど、一番かっこいいのはやっぱりお風呂上がりでなんというか水も滴る良い男みたいな感じで、めちゃくちゃかっこよくて、
「……ニカ、大切な話をするから離れろ」
「えー」
「ははは、いいぞーいいぞー。ニカも年頃なわりにまだまだ俺に甘えてくるから、父親としては嬉しいもんだ」
ごろにゃん、とお父さんに引っ付いてたらフィルが不愉快そうな顔をする。これはアレね、普段、本性の私を見てるから違和感しかなくて気持ち悪いとか思ってるのでしょうね。だがしかし断る。私にはお父さん成分が足りないの!
「まぁ、そこのファザコン娘はおいておいてー」
サリヤ、何気にひどいわね。他人からファザコンとか言われるとさすがにむかつくよ。
「自己紹介は道中したしー、僕らの目的も話したしー、あと説明することって何があったっけ」
「状況説明が不十分だ」
「あ、そうだった。そのために来たんだった」
自己紹介は家に戻るまでの道すがらしてあった。まぁ、さすがにサリヤがお父さんの嫌っていた役人だと知ったときは怖かったけれど。お父さん、見たことないくらい殺気だって、フィルが今協力関係にあることを述べるまで一触即発の空気だったもの。お父さんの殺気に対抗しようとしたのはサリヤじゃなくてカリヤだけれど。
衝撃的だったのはその後のペルーダの話よね。お父さんもそんなことがあり得るのかと半信半疑だったし。
「えーと、僕らがどうして今協力関係になっているのかを先に話そうか」
「あぁ、お願いする」
そうしてサリヤは話し始める。
サリヤがエンティーカへ至る下りから、ペルーダの話。私がそれらしき精霊と一緒にいたこと。そして今のルギィの状態。フィルとカリヤの一致した行き先。そうして協力関係になったこと。
「それで協力することになった僕らは、まずもって時間が惜しい。それなのに空気の読めない王都の馬鹿貴族が夜会に僕をお呼びだ。それで、ついでならニカ・フラメルとフィルレインにも一緒に来てもらってこれからどうするかをじっくり考えようかなーっと思ったんですよー。そんなわけでタレス・フラメル、ニカ・フラメルとフィルレインをお借りしても?」
サリヤの軽いノリに目をしかめつつ、お父さんは慎重に応じる。
「フィルレイン殿を連れていくのは構わない。役にも立つだろう。だが、ニカは駄目だ。この子は魔力もないからルギィの姿も見えない。ニカの世話をあいつにこっそりと頼んではいたが、ニカからしてみれば、接点がないに等しい」
これには三人が驚いた顔をしたので、誰かが口を開く前に、私はパッと立ち上がった。
「お父さん! 見てみて! これ、フィルに作ってもらったのよ。これ持ってるから、ちょっと前からルギィともお話ししてるのよ」
にっこりと立ち上がって、薄荷色のペンダントを見せる。お父さんはしげしげと興味深そうにそれを見た。
「フィルレイン殿が?」
「え? あ、あぁ」
「そうか……ニカも話し相手ができて嬉しいか?」
「うん」
「……そうか。なら、ルギィを早く助けてあげなくてはな。でも、やっぱりお前は王都に行かせられん」
やっぱりそこにもどってしまう。どうして、そんなに頑なに王都を拒むの?確かにあそこは魔都だから私も近づきたくはないけれど、でもあの場所以上に知識が集まる場所も知らない。何か調べるなら、王都が一番手っ取り早い。
「どうして? 私も王都に行きたい」
「危ない橋を渡せられない」
「でもお父さん、私もルギィを助けるお手伝いがしたい」
ルギィが今苦しんでいるのが、グレイシアの時代に残してきたものでえるならば、私が本来背負うべきものだったはず。
誰にも言えないけれど、これは私が精算するべきこよ。




