どうしてほしいの?
ルギィが作っている封印堰が仮にペルーダを封じているとして、ここで一つ疑問が残る。
ルギィはグレイシアにどうしてほしかったの?
ルギィはグレイシアと契約した。でもフィルの話を聞く限り、ルギィは今まで炎と大地に馴染むパートナーと組んで封印を続けてきていた。
でも、グレイシアの魔力の性質は水。封印を手伝うのには厳しい。
「フィルはグレイシアの属性知ってる?」
「知らないけど、ルギィがグレイシアに封印させようとしていたなら炎とか大地とかじゃねーの?」
「よく考えなさい。グレイシアはそのルギィと契約してたのよ。精霊の契約の基本は魔力の親和性が大きく関わってくるわ」
そこまで言えばフィルも気づいたようで、眉をひそめた。必ずしも親和性が高くなければならないわけではないけど、単純に考えて精霊との契約は親和性が高い方がしやすい。フィルにグレイシアの性質を気づかせるにはこの言い回しが一番良い。
「グレイシアの性質は水か風……?」
そう。グレイシアは典型的な陰型の性質を持っていた。突出していたのは水だけれど、風との親和性も高かった。まぁ、グレイシアと契約していた精霊をその枠に押し込めることはできないけれど。親和性が高くなくても他の属性の精霊と交わしていたからね。魔力の研究をしていれば属性の変換なんてちょろいちょろい。
それでもグレイシアのもともとの属性は水。ルギィと同じ系統なのに、今までのような封印をやらせるのには無茶ではないかしら。だって三十年も保たせる必要のある術よ? 全身全霊でやらないと。
「ルギィはグレイシアに何をさせたかったのかしら」
「ルギィに直接聞きたいけど、こりゃ無理だろうなぁ」
「でも、このままじゃいけないでしょう?」
「仕方ない。グレイシアが何かこの件について残してないか調べるか」
残念ながら、調べても出てこないと思われます。だって私だって知らなかったんだから、グレイシアが残してるはずないわよ。
どうやってこれを説明しよう。無駄骨を折らせたくないしなぁ。
一人でぐるぐる考えていると、不意にフィルが言った。
「なぁ、ルギィさっき待ってるものがあるとか言ってなかったか?」
「待ってるもの?」
あー、そういえばそんなことも言っていたような。
「よく覚えていたわね」
「それくらいはな。俺との会話だし」
ルギィが待ってるもの、待ってるもの……。何かあるかしら……。
うーん、と二人で首を捻らせるけれど、全く分からない。ルギィはいったい何を待っているの。
「ニカ、なんか思い付く?」
「全然」
「俺も。やっぱり家捜しコースかぁ?」
うん、だからそれをやっても意味がないのだけれど。こんな時にまで隠し事をするルギィにはほとほと困ったものだわ。私も大概人のこと言えないけれど。
私たちに何をして欲しいの。グレイシアに何をして欲しかったの。
言葉にしてくれないと、伝わるものも伝わらないわ。
カリヤもサリヤもルギィに会いたがってる。いっそ、ルギィに会わせて反応を見る手もあるけど、それはなんか嫌なのよねぇ。
「ねぇ、フィル」
「なんだ?」
「いっそのことマッキー兄弟と手を組まない?」
「どうしたんだ急に」
フィルが驚いた顔をする。そうよね、あれだけ嫌ってたんだもの私。いまさらだわ。
「ルギィがあてにならない以上、情報をかき集めないと。この件については、少なくとも私たちよりも彼らの方がよっぽど知ってる」
真剣な面持ちでうなずくフィルは、私の言葉に否定しない。言葉を咀嚼するようにして、フィルは重たげに口を開く。
「情報を共有させてもらうのは良い。だけど、あいつらはただじゃ情報を教えてくれないだろう。俺たちも情報を提供しなくちゃならないぞ」
「分かってる」
「今日みたいに黙ったままじゃ駄目なんだ」
「大丈夫。心配しないで」
ありがとう、フィル。私なんかを心配してくれて。
幾度となく思っていること。私はあなたに何も言えないのに、深入りしないでどうにかしようとしてくれる。
フィルは生来のお人好しね。




