根掘り葉掘り聞かないで
さて、どうやって収集をつけようか。
カリヤは人の話を最後までおとなしく聞いてくれそうもないし、フィル……というかルギィが教えてくれなかったから事の顛末を私も詳しくはわからないし。かといって、そう易々とルギィの情報を渡してたまるものですか。
すると再び、扉が開く音がした。全員がそちらに意識を向けると、執務室にいるはずのサリヤが立っていた。
「話は聞かせてもらったよ。僕を欺くとかいい度胸じゃないか」
うっわ、何あの黒い笑顔。サリヤって実は腹黒体質?
うぇー、これ私が弁解しようとしても話を聞いてもらえるかな……。
ひょこっともう一度アーシアさんの後ろから顔を出して、サリヤに向かって言う。
「全くの嘘じゃないわよ。魔力ないのも精霊が見えないのも本当よ」
「うーん、でも一番重要なことは教えてくれなかったじゃないか」
「そうね。だって私、確かにグレイシアと契約していた精霊は知っているわ。でも、彼があなたたちの言う精霊とは限らないじゃないの。だって私はその精霊が見えないわけなんだし」
「そんなのすぐ分かるじゃないか。グレイシアの精霊は一人しかいないんだからさ」
は?
え、何言ってるの。
「グレイシアは別に一人と契約していた訳じゃないわよ」
あ、サリヤ固まった。ていうか、カリヤも固まった。あれ? フィルも?
皆グレイシアを調べてる割には、精霊契約については知らない?
あらー、こんなことなら言わずに切り札としておいておくんだった。情報交換代がとれたかもしれないのに。
サリヤが慌てたように私に詰め寄ってこようとするのを、アーシアさんが間にはいって止める。それでも、そのおしゃべりな口は止まらない。
「ちょっと待ってちょっと待って、グレイシアって風と水の精霊だけと契約していたんじゃないの!? ていうか複数人と契約してる魔法使いなんて聞いたことないよ!? そもそも一人と契約するのにもすっごい魔力が必要なのにどれだけグレイシアって魔力保有量があったんだよ!? 本当に彼女人間!?」
確かにグレイシアの回りを四六時中うろついてたのはルギィだけど、他にも後三人いるのよね。
魔力の保有量に関しては、グレイシアの研究内容が、あれだしね。察してください。それに付け加えて言えば、魔力の質も関係してくるんだけどこれ言うとキリがないし、言うつもりもないし。
「……あの馬鹿何も言わなかったけど………というかあの屋敷にルギィ以外の精霊の気配なんて……」
うん、そうでしょうね。ルギィだけがあの場所に踏みとどまってるから。他の三人がどこにいるのか私も知らない。
「そもそもなんで小娘がそんなことを知っている。……ただの小娘ではないと思ったが、貴様何者だ。中央ですら把握していなかったことをどうして知っている」
……嫌だその質問。答えたくない、答えられない。
これに関してはお父さんから聞いたって言う言い訳が通用しないし、あの二人は私がルギィと意思疏通できてることも知らない。できれば当たり障りなく回避したいのだけれど……。
「ルギィに直接聞いたのか?」
……フィル、あなたねぇ……。
フィルのこの言葉にうなずくのも危険。彼、恐ろしいほどの勘を持ち合わせてるから、きっとルギィと後で口裏合わせても勘づかれる可能性の方が高い。
あーもー、崖っぷち? 三人から同じ質問されて、どう答えれば良いって言うのよ。しかもたちの悪いのが三人も。何これ詰んだ?
「三人とも落ち着きなさい。ニカちゃんが怖がってます」
そっと、アーシアさんがスカートを握りしめていた私の手を包む。知らず知らずのうちにアーシアさんのスカートを握りしめてたのね私。ごめんなさい、シワがついちゃったわ。
「ニカちゃん、大丈夫? 真っ青よ」
「……え?」
私、そんなに表情に出てる?
慌てて自分の頬に手を当てる。血の気が引いてるのか、手のひらが冷たく感じた。
確かに怖いと思ったわ。私の過去を問いだたされているようで。ボーカーフェイスもできないくらい追い詰められてるなんて実感がなかったから、気づかなかった。
フィルが心配そうにこちらを見てる。ごめんね、私はあなたに何も教えてあげられない。こんなにもルギィのために奔走してくれているのに、私はあなたに教えたくはないの。
「ごめん、ニカ。帰るか?」
「ちょっと待って、それは困るよ。カリヤの報告と合わせてキミの話も聞きたいんだけど」
「私も貴様が出向くといったのだからわざわざ来てやったんだぞ」
「また明日来る。今度は茶化さねーから大人しくしてろ」
「ちょっと」
「待て」
フィルが二人の制止を聞かずに、私の方へやって来て、よいしょと私を抱き上げる。いつの間にか力が抜けてて、私は抵抗もしないで大人しく従う。アーシアさんが私たちとマッキー兄弟の間に入って二人を遮る。
「サリヤ、カリヤ。貴方たちはつい先日、何を誓ったばかりなのかもうお忘れ? ニカちゃんも貴方たちが思いやるべきこの街の住民ではないの?」
「残念、アーシア。その子は隣のアマリス村の子だから関係な……」
「住民の枠から外れるのであれば、私たちもこの街に不要の人間ではないの? 貴方たちが無理矢理手に入れたその地位は誰のものですか」
アーシアさんの言葉に沈黙する二人。その間にフィルが私を抱えたまま、窓によっと足をかけた。……って、え。
まさか飛び降りるつもり?
「また明日来るから、お前ら頭冷やしておけよ」
ぐっとフィルが足に力を溜める。ポゥ……と淡い緑の光の粒子がフィルから漏れる。これは飛び降りると言うよりも……。
「じゃあな」
空へと飛び立つフィル。つい昨日も空中遊泳したばかりなんですけどぉぉお !?




