これは甘いでしょ
アーシアさんがお茶をいれてくれたので、せっかくだからアフタヌーンティーを楽しませてもらうことにする。
アーシアさんがいれてくれたお茶はダージリンティー。飲めないことはないけれど、甘党の私はストレートで飲むのは少し苦手。香りを楽しむ紅茶には、ミルクをだばだば入れられづらいもの。自分の家なら構わずやるけど。でも今回は、三段重ねのティースタンドに食べるのがもったいないくらいの可愛らしいプチケーキがあるから、ストレートのままでいいかな。
アーシアさんに紅茶を注いでもらって、さて口をつけようと思ったとき、ふとフィルの方を見てみた。確か、フィルもすっごい甘党だったよね。
「…………うわぁ」
うっわ、見なかった方がよかったかも。フィルってば紅茶の溶解度ギリギリを見極めながら砂糖を入れてる。さらにはちみつもわざわざ用意してもらったのか、とろとろと流し込んでる。あれってもはや、ダージリンの香りのするはちみつでは……?
「フィルレイン様、紅茶はお好きじゃありませんでしたか?」
「いや、嫌いじゃないけど。でも俺、甘党だからさ」
甘党が免罪符に聞こえるなんて、そう滅多にないと思う。なんだろう、普段なら甘党って言われても許せるのに、この今この瞬間だけは許しちゃいけない気がした。
だって! 私もミルクいれるの我慢してるのに、フィルだけ甘いの堪能するなんてずるいっ! こうなるんだったら、私も遠慮しないでミルクを頼めばよかったかしら……いや、待って。それはいけない。甘い飲み物ばかり飲んでると体に悪いわ。
「ニカちゃんも甘いのが良かった?」
「甘いの好きだけど、ケーキがあるからこのままで良いです」
ふふふ、とアーシアさんが笑う。
「お二人とも甘いのが好きなら、ヘンゼルの森っていうお店に行ったことある?」
ヘンゼルの森? それってあの有名な?
「巨大ホールケーキ食べきったら、通常サイズのホールケーキの無料券が貰えるところですよね?」
「そうそう。一度いってみると良いわよ。私も一度、メイド仲間と一緒に行ったんだけど三人がかりでも食べきれなかったの」
へー、そんなに大きいのか。エンティーカの町だと有名な焼き菓子店なのよね。年頃の女の子達に大人気のお店。何でも王都に姉妹店があるとか。一度行ってみたいのよねぇ。
「フィルー」
「待て、言うな。言うと俺も行きたくなるから」
甘党好きのフィルが拒否してる?
「良いじゃないの、今度行きましょうよ」
「行きたい……けど。俺ら、そんな金ない」
「お金がないのはフィルでしょ。私ちゃんと働いてるもの」
最近、刺繍の仕事の依頼が多くてね。アマリス村の女性陣が仕事口が増えたと大喜び。どうして急に増えたのか分からないけれど、まぁ、稼げるからいいや。
それに比べてフィルは私みたいな目ぼしい収入がないからね。時々畑の野菜を村人と交換するくらいだしね。研究成果もないから、貨幣としての収入がない。
「仕方ないなー。奢ってあげるよー」
「雇用主が雇用者に金だしてもらうのおかしくね?」
実質上の賃金のやり取りがないから良いんじゃないかしら。
だってフィルは私を雇うことを条件にあの屋敷を借りているわけで。家賃がわりに私を雇っている……ん?
「ちょっと待った、これって得してるのフィルだけじゃないの」
今まで深く考えないようにしてたけど、これおかしくない!? いくら役人対策したかったからって、お父さん大サービスしすぎじゃないの。家賃なし給料支払いなしって甘すぎるわ!
「フィル~、お父さんとの契約ってどうなってるの~?」
「お前の衣食住の保証」
「住はともかく衣食って私、自分で賄ってる気がするんだけど」
あ、そっぽ向いた。ずずず、と紅茶飲んでるけど、これは一度お父さんと話し合わないといけないかもね?




