祈年の祭り舞い
トントトンと太鼓の音。シャララランと鈴の音。ピィーと笛の音。キィ……と弦の音。
村とは言えども楽器がない訳じゃないから、いくつもの楽器が奏者の手で奏でられる。楽器の音が一度区切れると、私とアレンは焚き火の前で一礼した。そして村人の合唱の中、焚き火の周りをぐるりと回るように舞い出す。
他の男女も同じように舞う。一定間隔をあけて、くるくる回る。
「いのれや いのれ むぎのいろ」
「こがねの ひかりの ゆめの なか」
「みずとかぜに めぐまれて」
「おおきく せのび そらのいろ」
「おまえが ほしい ははのいろ」
「あなたが ほしい ちちのいろ」
「むぎと そらと せいれいの」
「ゆたかに みのる しゅくふくの」
「アマリスのはなに ねがいをこめて」
アマリス村に伝わる古い童謡。
今年の稔りを祈って謳う。
水と風の雄大さを表す布が、二人一緒に持って回る度に大きく風をはらむ。熱風が布を上に巻き上げる。
これで相手がアレンじゃなくてお父さんだったらなー、と考えないことはない。え、そんなんだからファザコンとか言われるって? 知らないわ、私は私の願望に忠実だもの。
「……お前、本当に何でもこなすよな」
「学べるものは何でも学ぶのよ。それから自分にとって合理的なものじゃないのは放っておけば良いの。身に付けて無駄なことはないのだし」
「全部独力?」
「分からない時は人に聞くわよ」
躍りながらアレンが恨めしそうに私の方を見てくる。まぁ、恨めしい気持ちもわかるわ。アレンは学校に行ってるから色々なことを知ってる。それは当然のこと。でも私は自分一人では知り得ないことも知っている。本を読むことだけでは出来ないようなことも完璧にこなしてしまう。面白くないでしょうね。
身長は少しだけアレンの方が高いけれど、そう変わりはないからほとんど同じ目線。背伸びをしたら自然と目線が交わせられる高さ。
少しだけ風が吹いて、熱風に煽られた私の君が上へと舞い上がる。風で髪が持ち上げれたその感覚に眉をひそめると、恨めしそうな感じとはちょっとだけ雰囲気が変わって、アレンが不満げな顔をした。
「ニカさー、笑わねーの? 祭りなのにつまんなさそうな顔ばっかりで、気が滅入るんだけど」
「そうかしら」
「そうだ」
「許してよ。私、無理矢理つれてこられて不機嫌なんだから、それくらい」
アレンの不満より私の不満の方が大きいんだから、文句言わないでよ。
そうやってぶつぶつと言い合いながら躍り続けて、やっと曲が終わる。ずっと話しっぱなしだったけど、私もアレンも一度も躍りを間違えたりはしなかった。
村長さんが進み出て、焚き火から火を拝借して松明の杖を作る。その横に籠一杯に花を詰めた村長さんの奥さんも並んだ。
老夫婦のしわくちゃの顔を松明が照らして、顔の陰影をさらに深くする。
「これより、祈年の祭りにあやかって結ばれる者達への祝福の儀を授ける。まず一組目」
村長に名前を呼ばれた男女カップルが前に進み出る。村長さんから、男性には花の冠、女性には花の首飾りを授けられるだけの簡単な儀式。これを受けるだけで村人公認の恋人になれる。婚約する人はもちろん、どんなに頑固な親が結婚に反対していても、この儀式をしてしまえば折れるしかない愛の逃避行の場。
十人十色のカップルを見送って、いよいよ最年少で一番最後に残った私とアレンの番が回ってきた。
「アレン・リコリス、ニカ・フラメル、前へ」
ゆっくりとした動作で、淡々と前へ進み出る。ああ、もうやけくそよ。
アレンが膝をついたので私も膝をつく。頭を垂れて、花が置かれるのを待つ。
ちらりと視線をやると村長がアレンに花冠を置くところだった。さあ、次は私の番。
村長さんが奥さんの籠からさいごの一つの花飾りを取り出す。そして、私の首にかけようとしたその時。
「その儀式待ったああああああああああ‼」
大音声で響いたその声の主を辿ると、そこにはなんだか妙に不細工な表情をした仮面野郎がいて。
もっと驚くべきことにその仮面野郎はこれでもかというくらいキラッキラッでジャラッジャラッなアクセサリーを身につけた白タキシードを身にまとっていて。
「……何この茶番」
思わず呟いた私と同じくらいアレンも変な顔してるけど、とりあえず何をやってるんだろうね、あのバカフィルは。




