踊る前の心積もり
「これで俺の面目が保たれるっ」
「どこがよ」
注目の的過ぎてこの後の弁明が大変そうなんですけど。
焚き火に照らされた男女のカップルは既婚者未婚者含めて十組以上いる。でも、その中で明らかに注目を浴びてるのは私とアレンなのよね。
考えられる理由としては、リコリス家の末っ子のアレンがしきたりに則って婚約者を決めたこと。ただそれはアレンの見栄のせいで違うんだけれどさ。村の人たちはそれを知らないからね。
まー、しきたりって言うほど厳しいものじゃないんだけどさ。お兄さん二人に負けたくないっていうアレンの負けず嫌いが顔をのぞかせたのと、今まで付き合ってきた子達への当て付け程度の迷惑きわまりない事情があるだけなんだけどさ。
「……どうせ迷惑極まりねーよ…………」
どうやら口に出ていたようで、アレンがあからさまに落ち込む。
「俺だってなぁ、親父に言われなければなぁっ」
「アレンのお父さんに反抗するよりお兄さんと張り合いたい気持ちの方が小さかったなんて言わせないわよ」
「無いとは言わないけどさー。親父、兄貴たちが婚約して結婚してるから俺もそうだと思って母さんに話しちゃってんだよ」
「あらま」
そりゃ、仕方ないか。
アレンのお母さんは息子自慢が大好きな人だもんね。しかも人格形成失敗したのかと思っちゃうほどにポジティブな方へ思い込みが激しい。一度会ったことあるけどあれは怖かったわ。
アレンて一応騎士の家系だからか基本的に女性や目上の人には礼儀正しいから、お母さんに恥をかかせたくないんでしょうね。
「ていうかお母さんの事が考慮できるなら私の事も考えてよ」
「何を?」
「私という婦女子の名誉」
「え、だってニカだし。俺、ニカを女子なんて思ってねーもん」
「おっけー、アレン、私はここで降りるからあなたは一人で踊ってなさい」
失言に気づいたアレンはあわてふためいて謝ってくるけど許してなんかあげないしー。私は傷ついたんだからね。
「ニカ、アレンが可哀想じゃん。やめてやれよ」
あら、フィル。
「勝手に自爆したアレンが悪いわ」
「お前のその巧みな話術は誰譲りだよ……」
元々だけど、お母さんのお蔭で以前よりは洗練されたかしら。
「別に誰でも良いじゃない。で、フィルは何しに来たの。もうすぐ躍りが始まるから邪魔なんだけど」
「ひっでぇ。心配して声かけてやったのに。タレス殿の代わりに」
「お父さんの代わり?」
お父さんからの伝言ってことかしら。
「タレス殿が祈年の祭り舞の練習したことないのに踊れるのかってな」
「……大丈夫よ」
祈年の祭り舞いは、グレイシアの時に踊ったことがある。身体中が火照って、取り合った手から伝わる体温が胸の鼓動を速めたあの経験を、忘れたりはしない。どうやって舞うのか、今でも覚えてる。
「私、完璧主義なの。これくらい踊れて当然よ」
「練習参加してないのにそんな自信持てるのってお前くらいだよな」
アレンも呆れた体で言ってくるけど、本当の事だもの。私が踊れないと思ったら大間違い。
「まぁ、ニカが間違えても俺がフォローしてやるからなっ」
「アレンこそ、間違えたらフォローしてあげるわ」
「お前ら、仲良いなー」
良くないわよ。これのどこを見て仲が良いなんて言えるのかしら。ばっかじゃないの?
 




