他を当たってください
「話が済んだら俺の話も聞いてくれよっ」
あら、アレン。まだいたの。
「おー、そういや、ニカに用事があるんだっけか」
「そうだよ」
アレンはソファから立ち上がってこっちを睨んでる。放置してたのが悪かったのかしら?
「ニカ、お前に頼み事がある!」
「はい?」
突然の頼み事とは何? 私にできることなら良いんだけれど、あんまり無茶はできないわよ?
「このとーりだっ!」
パンッて手を合わせてくるけど、ちょっと待って。
「頼み事するのは良いけれど、用件言いなさいよ。それからじゃないと頷けないわ」
「何も言わずに頷いてくれよっ」
「だって、できる事とできない事があるわ」
頼まれ事を万が一、失敗でもしたら嫌だもの。まぁそんな事、私に限ってないでしょうけど。そうじゃなくても内容分からずに頷けないわよねぇ。
そもそも、こんな頼み方をしてきている時点でろくでもなさそう。何も言わずに、って事後承諾で済ませる気満々じゃないの。
「私に頼み事するなんて相当厄介な事なんじゃないの?」
「うっ」
図星か。えー、もー、やめてよー。厄介事はこりごりなのにぃ。
「他に当たりなさいな」
「お前しかもう頼める奴いないんだよ」
「だから何が用事なの」
「……」
目を背けない!
全く、そんなんで頼み事が通るとでも思ってるのかしら。人に物を頼むような態度じゃないでしょう。
「アレン、私は貴方の友人であるとは思ってないわ。もちろん家族や恋人というわけでもないし」
「え」
…………ちょっと待って、フィル。今の声は何。何に驚いたのかは知らないけれど、今は余計な事を言わないでよ、お願いだから。
なので今は無視。
「それでもなお頼み事をするならきちんと順序立てて説明なさい。それが嫌なら別の人に頼みなさい」
きっぱりと言ってやる。きつかったかな、とか思ったけどまいっか。どうせ普段いちゃもん付けて突っかかってくるの向こうだし。その度に返り討ちに遭わせてやったけどさ。
アレンはそわそわと忙しなく目を左右に揺らす。早く言った方が楽になるかもよ?
「え……とな、ニカ」
「はい」
しばらくはもごもごと口元を動かしていたアレンだったけれど、やがて意を決したように顔を上げだ。
「お、おおお俺と一緒に祈年の祭り舞を踊ってくれっ!!」
……あはは、アレン、それ、
「却下」
「一言っ!?」
冗談じゃない。ぴしゃりと断れば、アレンは慌てたように言い足して。
「今年! 今年だけでいいから! もうお前しか一緒に踊ってくれる奴いねぇんだよっ」
「嫌よ、なんで私が貴方と踊らなきゃいけないのよ。私にだって相手を選ぶ権利はあるわ」
「だからこうして、頼みに来てるんじゃねーかっ」
本当に無いわー。何かと思ったら祈年の祭り舞のお誘いとは。というか今年ももうそんな季節なのね。まぁ、私の誕生日近くにあるから念頭には置いておいたけどさ。
「祈年の祭り舞って?」
「祈年の祭りで奉納される踊りのことよ。それが祈年の祭り舞なんだけど、ただの舞じゃないのよねー……」
フィルが不思議そうに聞いてきたので、色々省いて説明する。
まあ、ぶっちゃけ、大したこと無いんだけどさ。祈年の祭りは豊作を祝って何組もの男女が踊りを奉納する。そしてまた同時に男女が子宝に恵まれるための儀式が行われる。つまり。
「そんな新妻や婚約者だらけの場所に行きたくないわよ」
「でもでもでも、俺、今年は出なくちゃならなくって……!」
「あぁそうか。まぁ、アレンのところだしね」
予想通りというか何というか。
「どういうことだ?」
あー、フィルは知らないのか。
「アレンの家、リコリス家っていうのだけれど、聞いたことない?」
「リコリス……。あ、騎士団の?」
そうそう、それよそれ。
やっぱり有名ねぇ、アレンの家。というか、アレンの一族が、かしら?
でも、その事にアレンは不満のようで、むすっとした表情のまま私を睨んでる。仕方ないじゃないの、本当の事なんだから。




