驚き呆れて
「痛ってぇー」
「大丈夫? 頭打ってない? 記憶なくしてくれてる?」
「いや、どれも平気だけど……って、最後の何だよっ!? なんでそんな残念そうなんだよっ」
「いいえー?」
私のこの恰好を今すぐにでも記憶の彼方へ捨ててこいとか全然思ってないし?
ていうか何でこんな所にアレンがいるのよ。どこから入ってきたのかしら。たぶん玄関からでしょうけど。あそこは来客用にある程度結界が弱まって……て、あー!!
「玄関ーっ!!」
いきなり叫んだらアレンがぎょっとしたけど、そんなことより玄関よ玄関っ!
あそこから外へ抜け出されたらそれこそ大変じゃないのっ!!
「フィルに知らせなくちゃっ」
ああもうこんな恰好じゃなかったらすぐにでも外に出られるのにぃ! 外なんて出られたら探しに行けないじゃないのっ!
慌てて裏にまわろうとすると、死角から出てきたフィルとぶつかった。
「きゃう」
「おわっ。って、ニカか。さっき叫び声聞こえたけど、何かあったのか?」
そうなのよそうなのよ!
「ちょっとルギィ連れてきなさい! 結界の出入り聞いてきて!!」
「は?」
「魔力感知が効かないのってルギィが屋敷の周りに張ってる結界のせいで、あの猫が結界の外に出てるからじゃないの!?」
「あ、その手があったか。でも今、ルギィ外に出てて……あ、帰ってきた」
困り顔になった後ふいに顔を上げて、フィルが屋敷の屋根の方を見上げる。それから、少しだけ身を屈めた。ん? どうするつもりなの?
よっ、と軽いかけ声と一緒に足下へ淡い緑の輝きが瞬時に描かれる。カシャンとガラスが崩れるような儚く澄んだ音を鳴らして輝きが消えた後、フィルの体がふよふよと浮いた。……嘘でしょ。
「飛行魔法っ?」
「俺初めて見たっ」
私もよ!? びっくりしすぎて思わず声が裏返っちゃったじゃないの!
飛行魔法なんて、風の精霊レベルの魔力質とすっごい量の魔力を持ってないと無理なのに。どちらも天性の才能に左右される魔法を使えるって事は、フィルって私が思っている以上にすごい魔法使いなのかしら。いやまぁ不死って事だけでも規格外だけどさ。
そのまま滑らかな軌道を描いて屋根の上へ。
私もアレンも開いた口がふさがらない。
「ニカ、あいつは……?」
「ええっと……お父さんが見込んだこの家の主で私のご主人様」
「魔法使いっぽいけど」
「正真正銘の魔法使いよ。もぐりのだけど」
「うっそだ! 役人でもあんな魔法使えねぇじゃんっ」
「現に使ったんだから認めなさいよ」
うん、私も内心驚いてるけどね。
二人そろって屋根の上の様子を伺ってるんだけど、これは首が疲れる。早々に視線をアレンに向けると、アレンもこちらを向いていた。
「なぁ、さっきから気になってるんだけどそれ何だよ」
「それ?」
「コレ」
「ふぁっ!?」
ちょっ、やだっ、耳触らないでっ! ネコ耳から伝わる触覚にまだ慣れてないんだからっ!!
「ちょっと離しなさいよっ!!」
「誰の趣味? あの魔法使い? ニカにコスプレさせるとかひどい趣味じゃんっ。お前、騙されてんだよっ」
「これは事故よ事故っ! 今解呪用の魔具探してるのっ! 暇ならあなたも手伝ってよアレン」
「はぁ? 何で俺まで」
「何か用があってここまで来たんでしょ。でもお生憎様、この騒動が終わるまで相手してあげる暇が無いの。嫌なら出直してきて頂戴」
ひらひらと手を振ってあしらえば、ぐぐぐっとアレンは黙り込む。
「……分かったよ、探す」
よしよし、人手も増えたことだしこれで早く見つかるわね。
とかなんとか一人でこっそりとガッツポーズとっていると、上からフィルが降ってきた。着地の一瞬だけ、風がふわっとなびいてきてフィルの着地の助けになる。
「フィル、どう?」
「えーとな。場所は見つかった、と思う」
「思う?」
「あー、まぁ、うん」
何だか煮え切らない返事ねぇ。アレンもいるから間違っててもまた探しに行けばいいだけなのに。
「早く言いなさいよ」
「あ〜……怒らね?」
「もう今更怒らないわよ」
呆れた。怒る怒らないとか、もう終わってる話じゃないの。いいからさっさと言いなさいよ、こっちはもうこの装備外したくてしょうがないんだから。
「……してる」
「はっきり言う」
「……ニカのネコ耳尻尾に変化してる」
ああ、なんだすぐそこにあるじゃない……え? 私のネコ耳尻尾?
「──作り主最初に気づきなさいよバカフィルーっ!!」
「ほらやっぱり怒ったじゃねーか!!」
怒ったんじゃないわよ、呆れたのっ!!




