アマリス村の誕生祝い
上機嫌でお父さんの右腕にくっついてトコトコと歩く。十五になった割には私の身長は伸び悩んでて、今では同じ年の子の中では一番のチビになってしまった。お父さんの顔も見上げてやっと見えるくらいで、大きな歩幅に合わせて歩くのは大変だった。
「あ、すまんすまん」
気付いてくれて、ちょっと歩調を緩めてくれる。それから少し思案してみせる素振りを見せて。
「よっと」
「あわわわっ」
ひょいと身体を持ち上げられて右肩の上に乗せられた。高ーい……じゃなくて。
「お父さん、重くない?」
「重くないぞー。ニカはもっと沢山食べて肉を付けないとな。お母さんみたいな良い身体にならないと男ができないぞ」
「やかまし」
ぺちっと頭を叩いてやる。最近増えてきた白髪が、お父さんと私の年の差を否が応でも見せつけてきて悲しくなる。
「ニカちゃん、おめかしして、まぁ」
「おばさん、こんにちわ。今日で私、十五になるの」
「あらもう? ちょっと待っててね」
このアマリス村はお祭り好きで、慶事の類は沢山ある。これもそう。成人を過ぎるまでは、誕生日を迎えると村中に挨拶をして回る。そうして子供の成長を村中で祝うのだ。
「はい、これ。誕生日おめでとう」
小さな飴の入った小瓶をおばさんがくれる。村中を回った後には両腕で抱えきれないお祝いの贈り物を貰えるから、子供達は皆この日を楽しみにしてる。
「ありがとう、おばさん。これからも宜しくね」
「いえいえ、ニカちゃんも今年一年健やかに過ごすのよ」
健やかに。その一言がどんなに嬉しいか、健やかに過ごせる幸せがどれほどのものか、きっと私以上に知っている人はいない。
私はもう一度ありがとうって言うと、お父さんはまた歩き出す。
次々と村人に会ってはお菓子や装飾品を貰い、おめでとうとお祝いの言葉を言ってもらって、村中を回りきった頃にはすっかり私の両腕には抱えきれなくなってしまった。
私では抱えきれない贈り物を、お父さんが全部引き受けてくれる。そうして右肩には私、左腕には贈り物を抱いて、お父さんは村を闊歩する。
「やっぱりお父さんを連れてきて正解だったわ」
「お父さんは荷物持ちか!?」
告げられた用途に愕然とするお父さん。一緒にいたいと思うたび、家族なのに、お父さんと居るために理由を付けたがるのは、私が過去に捕らわれているせいもあるのかもしれない。
太陽もとっくに真上を過ぎて、影法師が僅かに東へ傾く頃、私達は家に戻ろうとした。
その途中。
「ニカ!」
誰かに呼び止められた。
お父さんが振り向いてくれたので、私も自動的に振り向くことになる。
視線の遙か先には麦わら帽子のような茶髪の男の子が、手に色とりどりの野摘みの花を持って立っていた。
私はお父さんに肩から下ろして貰うと、男の子に近づく。
「アレン。何よ、こんな時までからかいに来たの?」
呼びかけたのにアレンは目を泳がせて、こちらに視線を合わせようとしない。
アレンはこの村では裕福な家の子で、しばしば町の学校へと通っている。なまじ頭が良いせいで大人をも論破してしまうからか、村の子供達の中で一番の悪童と言われていた。
そんなアレンと相性の悪いのがこの私で、アレンとの口論に私は一度も負けたことがない。
「私も暇じゃないのよ。用がないなら呼び止めないで」
それだけ言いおくと、私はお父さんの所へ戻ろうとした。と、腕を引かれる。
「何よ」
「こ、これ! お前に婚約を申し込む!」
ぐいっと野摘みの花束を押し付けられた。なんと。
「気でも狂った?」
「狂ってねぇ! 俺にも事情があるんだよ馬鹿!」
事情って言ってもねぇ。私はこの花束を受け取る気なんてさらさらないのよね。
「心から好いてもいないのに、あんたの勝手な事情とやらで婚約するつもりはないわ。出直しなさい」
ピシャリと言ってやると、後ろでお父さんが頷いた気配がした。