話し合おう
罠かもしれない。騙されているだけかもしれない。でも、アーシアさんの話を聞いた私には、魔法使いと騎士がこそこそとやっている事に対する興味しかない。何をやっているのか知りたいじゃない。危ない話だと思ったらそれこそ死ぬ気で逃亡すればいい。いっそ、窓から飛び降りても良いかな。
「アーシアさん、魔法使いの部屋はどこ?」
「ニカちゃん?」
「協力する。貴方が知りたがってること、私が聞き出してくるわ」
アーシアさんが目を丸くする。
「やめて! ニカちゃんがそんな事しなくてもいいのよ!?」
「もともと、あいつらは私に用があるんだから、今逃げてもまた捕まっちゃうかもしれない。それなら、今のうちに話つけるよ」
階段を登りに行こうとする私を、アーシアさんは引き止める。
「危ないわ! 今の彼らが何をするか、私にはもう分かんないの」
「それなら一緒にいてください。私を守ってください。私一人なら出来ても、アーシアさんの目の前では出来ないことだってあるでしょ? 何を言われようと私の側にいて、私を守ってください」
懇願するように、ぎゅっとメイド服の袖を引っ張る。この人はあの二人のために王都から来た。怒られてもめげずにやってきた。信用できるのかは分からないし、本当かどうかも分からない。それでもいいや。逃げるだけなのもつまらないし。
「案内してください」
もう一度、真っ直ぐにアーシアさんを見つめて、お願いする。アーシアさんは頬に手をついて、吐息をもらした。
「ニカちゃんは強いのね。私も腹を括った方が良いのかしら……」
その様子は諦念のようで。でも瞳にはゆるぎない強い意志が垣間見えて。だからこそ直感が信用できると告げてる。アーシアさんは、この屋敷において私の味方になってくれる。
「分かったわ、ニカちゃん。約束する。貴女を絶対にお家に返してあげるから、安心してサリヤと話して」
にっこりと笑うアーシアさんにほっとする。
なんでだろうね、私、アーシアさんが自分に似てると思ったの。話し方とか雰囲気とか既視感がある。でも私は、歪曲した自分よりも、真っ直ぐなアーシアさんが好ましいの。絶望してやさぐれて、時の経過をゆるゆると過ごしてる私にはなくて、アーシアさんなら持っているはずのもの。私はそれを大切にして欲しい。
アーシアさんは良い人。私なんかを気にかけてくれたお礼に、少しでも心痛を減らしてあげたいな。
「さ、行きましょう。階段で転ばないでね?」
茶目っ気たっぷりに笑うアーシアさん。背の低い私の手を引いて歩き出す。かっこいいなぁ。一度決めたら行動に迷いがなくて。私は迷って答えを決められなくて結局は自分を傷つけてばかり。
アーシアさんのように生きられたら、良かったのに。
「アーシアさんは、あいつらと幼なじみ?」
「そうよ。騎士のカリヤが弟で、魔法使いのサリヤが兄。双子の二人の世話係が私の母だったの。昔は仲が良かったんだけど、今ではこのザマよ。私は二人から何も教えてもらえないただのメイドなの」
悲しそうに笑う顔を見て、視線のやり場に困った。こういう、感傷に浸る人の雰囲気は少しだけ居心地が悪い。
もしかしてフィルもそうだったのかな。私とルギィのケンカの後の雰囲気が気まずいから、私が明らかに落ち込んでいたせいかもしれないけど、居心地が悪かったから仲良くしろって言ったのかな。
それだったらフィルには悪いことをしちゃったかも。誰も、雰囲気が悪いままでいたくないものね。私も、ルギィと気まずいままなのは嫌。
「ありがとう、アーシアさん」
「私こそ、ニカちゃんが申し出てくれたおかげで、状況が進展するんだもの。お礼を言いたいわ」
違うの、そうじゃなくて。
私がルギィと向き合うための背中を押してくれたから。あなたのひたむきな思いが、私にも伝わったから。
帰ったら、ルギィと腹を割って話し合う。そのための方法を探すわ。




