メイドの憂鬱
一見して、魔法使いだと分かる特徴は二つある。一つ、相性の良い属性をあらわす色を纏うためのローブ。二つ、魔法陣を刻んだ魔具。
ローブはその名の通りローブだ。中には微妙な色合いを表現するために、光を通す薄い布を数枚重ねて着るような凝った魔法使いだっている。魔法使いとしての通り名は、基本、その身に纏うローブの色から判断される。
魔具の形は様々。基本的には杖を持つ事が多いけれど、儀式用の装飾剣や常に身に纏えるアクセサリーにも魔法陣が刻まれる。魔法陣を刻む事で、魔法を予備動作なしでの発動を可能とするから、必然的に頻繁に使う魔法を刻む人が多い。どんな魔法を溜めておくか、幾つ溜めておくかで人によって変わるから、刻む魔法陣の構成は十人十色。
私がサリヤと呼ばれた、騎士様そっくりの顔を魔法使いと断定したのは、火山の表面のような焦げた赤茶色のローブを着て、自分の身長並の杖を持っていたから。これで魔法使いじゃなかったら、何なの、コスプレなの、と突っ込みたくなるほどの典型的魔法使いスタイルで。
「カリヤ、遅いよー、待ちくたびれたよー」
「サリヤ、お前は部屋から出るなとあれほど」
「カリヤが速く連れてきてくれれば良いんだよ。で、その子が例の子?」
堅苦しい騎士とは打って変わって何とも間延びした言い方で魔法使いは喋る。それにしても顔が似てるけど、こいつら兄弟? 性格違いすぎでしょ。
メイドさんの後ろでこそこそと様子をうかがう。本当にもう次から次へと厄介な……
「アーシア、その子部屋まで連れておいで。君に懐いたようだし。カリヤは罰としてお茶くみ係ね~」
言い置いて、魔法使いは階段から姿を消した。何、これだけ? 何をしに来たの一体。
誰か説明求む。さすがにこの状況理解するのは難しいんだけど。
「そういうわけなので、カリヤ。お茶をよろしくお願いします」
「だが、」
「良いから早く行ってくださいまし? また罰が増えますよ。今度は何でしょうねぇ。お茶汲み程度なら良いでしょうが、この間のように……」
「よし分かった茶だな。すぐに持ってこよう」
途端に踵を返す騎士。あれ何。一体過去に何があったの。騎士を黙らせるような罰って。壮絶気になる。というか、メイドさん強いね。騎士を片手であしらっちゃったわ。
じっ……とメイドさんを見つめていたら、メイドさんは私に目線をあわせてきた。
「貴女、お名前は?」
一応ここは敵陣地と考えて良いのだから本名を名乗る事に抵抗はあったけど、メイドさんに敬意を表して、素直に名乗って上げましょう。
「……ニカ」
「そうニカちゃん。言い名前ね。ニカちゃんはお家帰りたい?」
ん?
とりあえず、こくりと頷いておく。
「そう。じゃ、お帰りなさい。来た道は分かるわね? さ、今の内に」
メイドさんは私の身体を半回転させて、もと来た道の方へ背中を押してくれる。え、え? なんで?
「ちょっと、ちょっと待って、メイドさんっ」
「アーシアって呼んで?」
「あ、アーシアさんっ! そんな事したらあなたが」
「子供は心配しなくていいの。私がどうにかしておいてあげるから」
悪戯っ子のように微笑んだアーシアさんの優しさが身にしみる。どうして私を連れて行かないで外に行かせようとするの。あなたには何の利益もないのに。
困惑のハテナが絶えず頭に浮かび上がってくる。
「アーシアさん、本当にどうして」
「私はね、幾ら主人だろうが幼なじみだろうが知り合いを幼女誘拐犯に仕立て上げたくはないの。見聞があまりにも悪すぎるし。それに最近の彼らはどこか焦ってる」
誰でも幼女誘拐は嫌だけど。される側としても当然嫌だけど。
それに、魔法使いが焦り? 彼ら、ということは騎士も?
「急にエンティーカの役人になりたいとか、上奏して受け入れられたと思ったら数日で出立したこととか、ついて行こうとすると怒られたこととか。サリヤはずっと調べ物ばかりで部屋から出てこないし、逆にカリヤはずっと外に出っぱなしだしで、二人して何かやってるみたいだけど教えてくれないし。今の私には彼らが何を考えているのか分からないの。その状態で彼らが幼女誘拐とか。怒っていいですよね? いいですよね?」
理由、というよりも完全に愚痴ですねコレ。でも、アーシアさんが魔法使いと騎士に対して親愛を持ってることは分かった。幼馴染みってことでいいんだよね? 大切だからこそ、彼らが大切なことを見失わない今、私を逃がそうとしてくれているのね。
これは正当な善意だ。




