誰か違和感持ってよ
あーもう本当に最悪。鬼畜な騎士に誘拐されるわ、行きたくもない役人の屋敷に連れ込まれるわ、買い物する時間なくなりそうだわ、フィルに絶対後でお説教くらいそうだわ、なんなのもう。帰りたいんですけど切実に。
「……貴様のそれは生来のものなのか?」
「あら、ごめんなさい?」
ほほほと笑ってやる。私の胸中垂れ流し攻撃は嫌味を含んでるのであんまり反省はしてないけどね。
未だに肩に担がれたこの状況で逃げるのは諦めた。仕方ないので降ろしてもらった後に逃げる算段でいこうかな。
「お帰りなさい、カリヤ」
「あいつは」
「二階の執務室にいますよ」
「分かった」
「お茶は?」
「頼む」
肩に女の子を担いで闊歩する騎士様にメイドさんが親し気に話しかける。赤髪の癖毛がふわふわと揺れているのが目についた。明るい茶髪のような色ではなく、言葉通りの赤髪。珍しいわねぇ……じゃなくて。
他にもメイドさんはあちこちにいるけど、何で皆さん疑問に思わないの。誰か止めてよこの人攫い。
「その……そちらのお嬢様は」
ナイス、勇気ある赤髪のメイドさん! そのままこの人攫いの行動を諫めてください!
「客だ」
何でそんなばっさり切り捨てるのぉぉぉ!! 客って答えたらそれ以上突っ込めないじゃないっ! もう本当にどうしよう。このままじゃ帰れないじゃないの。
───だけどそうだ、まだこの手があるっ。
「ではお茶は三人分お持ちしますね」
「ああ、頼む」
ふふふ、そんな簡単に連れて行かせないわよ! 私ももう十五歳だからこういうのは恥ずかしいから控えようと思ってたんだけど、私って見た目より幼く見えるからいいよね?
「ふぇぇえん、このおにーさんこわいよぅ」
「……カリヤ?」
メイドさんの声が疑わしげになる。よっしゃっ、これは通用するっ!
「おうち、かえりたいよぅ」
「おい、貴様っ! 嘘泣き止めろ!」
止めません笑。
「ふぇぇえん」
「一応確認しますがお客様ですよね? 本当にお客様なんですよね?」
メイドさんの声がだんだん低くなる。あはは、私を解放しないからだよ人攫い騎士め。
「……失礼ですが、きちんと同意の上で連れてこられたのですよね?」
「…………………。」
どうやら騎士様は嘘はつけない人種のようで。頷けばいいものを妙に正直なのね。あ、何だか察したメイドさんがこちらにまわってきてくれた。
「こちらへ」
「だが、」
「サリヤにチクりますよ」
「いや、その、あいつから連れてこいと言われ」
「その結果が幼女誘拐ですか?」
「……あんまりいじめてくれるな」
「あら、わたくしは騎士である貴方にに騎士道ならぬ人道を説いていますのよ? いじめとは心外な」
にこやかな笑顔のメイドさんすごい。この鬼畜俺様主義っぽい騎士を黙らせるなんて。騎士様、あなた何か弱味でも握られてるの? すっごい尻にしかれてるっぽいんだけど。夫婦漫才っぽい。
メイドさんが騎士の後ろでぷらーんと脱力しきってる私の身体を引っ張って、騎士から救出してくれる。ありがとうございます、頭に血が上ってちょっとばかり鬱血していたので本当に助かったわ。
すすすっとメイドさんの後ろに隠れてみる。
「カリヤ、怯えていらっしゃるようなのですが」
「騙されるな、そいつは表で俺をロリコン呼ばわりするほど図太い神経の持ち主だ」
「こんな可愛い子に対してその言いようはなんです」
可愛いって。きゃっ、褒められて嬉しいわっ。
メイドさんの後ろからちらちら様子をうかがう。騎士の注意はメイドさんに向かってるから、今のうちに逃げ出そうかな。
そーっとそーっとメイドさんから離れようとするけど、その時、声がかかった。
「アーシア、カリヤをいじめちゃダメだよ。その女の子は僕が連れて来てって頼んだ子だから」
能天気な声の主を探して視線をうろつかせると、その声は階段の上からだった。
「やっほー、勇気あるお嬢さん。かわいそうなカリヤの代わりに、僕が表でのやりとりの証人になってあげよう。だからアーシアを誑し込まないでね?」
「……サリヤ、部屋で待ってろと言っただろうが」
騎士は眉をひそめる。
カリヤと呼ばれる騎士と、全く同じ顔の魔法使いが、階段の上から私たちを見て笑っていた。




