貴方の心にお届けします、カントリー商会
フィルの服でしょ、研究用の宝石でしょ、後雑貨でしょ。色々とまわらないといけないけど、その前にまずは……
「カントリー商会ね」
エンティーカで一番の商会、と言いたいところだけど、実は国内最大規模の商会の支店。エンティーカどころか国一番の商会。なんでこんな所に来たかというと。
「ありゃ、タレスの娘じゃねーの。今日はどうしたん? 配達目録の追加?」
「こんにちわ、スーデンさん。今日は新規登録に来たんです」
受付でぷかぷかと煙草をふかしているおっちゃんはちょっと驚いた顔をした。スーデンさんはお父さんの知り合いで、家族ぐるみでお付き合いさせてもらってる。なかなか気さくな人。
「新規? とうとうニカちゃん結婚したんかっ!? しかも新居!? ニカちゃんもとうとう新妻の仲間入りか……!」
「違います違います。私まだ成人してません」
時々早とちりしがちなのはご愛敬。たとえそれがとんでもなく突飛なことでもね。
スーデンさんの働くカントリー商会は、近隣の村に数日に一度、新鮮な野菜や肉を届けに来てくれる便利な配達サービスを受け持ってくれてる。アマリス村にも来てくれるから、食材などはわざわざエンティーカまで来なくとも登録さえすればアマリス村で簡単に手に入れられる。すごく便利。
今日、ここに来たのはそれの登録。登録さえすれば後は楽だしね。まぁ、次の配達日までの食材は別途、用意しなきゃだけど。確かアマリス村は二日置きだったっけ。近いから割とこまめに来てくれる。まー、そもそもアマリス村からエンティーカまで二時間くらいだしね。
そんなカントリー商会の受付であるスーデンさんはちょっぴり残念そうな顔をして煙草をふかす。
「なんでぇ、結婚ならお祝品あげようと思ったのに」
「ありがとうございます。でもこの間、十五歳の誕生日は迎えたので、誕生日プレゼントは欲しいです」
「よしよし、飴ちゃんあげよう」
ぽいっとポケットから出してきた飴玉を私とフィルに投げ寄越す。いや、この飴玉、スーデンさんの禁煙用ストックだよね? また禁煙に失敗したのか。さっきからめっちゃ煙草吸ってるけどいいのかしら。
「で、新規登録だっけか。どこのお宅? アマリス?」
「はい。アマリス村の四番宅です」
「あれ、四番宅ってグレイシアの屋敷じゃねーか。あそこって今、無人の筈だろ?」
スーデンさんはグレイシアの事を知ってる。お父さんと仲が良かったし、その頃から商会で働いていたから。私もちょくちょく顔を覗かせてたしね。
だからスーデンさんが訝しがるのも無理はない。だってあそこに住むにはお父さんのお眼鏡に適う人じゃないと駄目だと知っているもの。
「新しく住む人が決まったんです。で、私は今、そこに奉公に出てるの」
「へぇ、あのタレスがよく許可したなぁ。でも奉公に出てるならニカちゃんじゃ登録無理だぞ? 住人本人の登録と住民登録票がないと」
そこは大丈夫です。本人連れてきているし、昨日の内に住民登録手続きは済ませてるらしいし。
「これがその本人様よ。住民登録票の証明書もある」
「本当だな」
フィルにあらかじめ借りていた住民登録票をスーデンさんに見せれば、スーデンさんはフィルと住民登録票を交互に見て納得した素振りを見せる。
「フィルレイン殿、申し訳ないが必要な書類にちょっと書き込んでくれ。ニカちゃんはこっちに配達して欲しいもの書いて」
「ありがと」
ペンと用紙を貰って、フィルと並んでカウンターで必要事項を書き込んでいく。その間にもスーデンさんはぷかりぷかりと煙草をふかしてて。
「いやー、てっきりニカちゃんが男前な奴連れてるから結婚したのかと思ったんだが。まだ一年早かったか。おたくら婚約はすんの?」
はい!? ちょ、びっくりすぎて文字が歪んだんですけど!!
フィルを見れば、フィルもぽかーんとしていて。何その間抜けな表情。さっさと否定しなさいよ。
ちょっとちょっと、スーデンさん、何でそんなぶっ飛んだ思考回路してんの? どこをどう見たら私たちが婚約しそうな様子に見えるのよ!?
 




