私の家族
所狭しと並べられた香ばしいお料理と、可愛いお花の差してある花瓶。華やかに彩られた机の上はすっかりパーティー模様。
私は薄荷色に染められたワンピースを身に纏った。仕立てたばかりのこれは、今年一年間の私の晴れ着だ。お祭事があればこれを着るの。今日はその一回目。
「ニカ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、お母さん」
村のお祭り用に誂えたワンピースはあまり凝っていなくて、まっさら。他の子も似たようなもので、アクセサリーの類を身につけることでやっとドレスと言えるようになる。
そんな素朴なドレスの私に、お母さんが次々とアクセサリーを付けてくれた。耳には小粒のイヤリング、真白で細かい糸のショールを大きなダリアを模したコサージュで留めて、長い髪を飾り紐と一緒に編み込んでもらう。
そうすればほら、十五歳の私とこんにちわ。
「お、ニカが可愛くなってるなぁ」
「お姉ちゃん美人ー!」
朝の仕事から帰ってきたお父さんと、その仕事に着いて行っていた弟のユート。二人が居間へとやってくる。
可愛いと言われてほっぺが赤くなるのが自分でも分かっちゃう。うむむむ、恥ずかしい……。ゆるゆると弛む頬を直せない。
「お父さん、ユート、ありがと」
きゅっとお父さんに抱きつく。十歳の弟が左腕にくっついていたので、私は右側を陣取った。
「あらあら、本当にニカはお父さん大好きねぇ」
それは当然、前世の恋人ですから。口には出さないけれど。
すりすりと腕に頬を寄せれば、お父さんはよしよしと頭を撫でてくれた。左腕にユートを付けたままで。
「お父さんすごぉい!!」
「あっはっはっ」
豪快に笑うお父さん。うんうん、私が好きだったのはそんなあなたです。
うりゃっと私もお父さんの腕にしがみつく。と、ぶんっと持ち上げられた。
「きゃー!」
「だいかーいてーん!」
ぐるぐるぐるー、と遠心力で振り回されるぅぅぅぅ!
「こら! せっかくニカを着付けたのに可愛いのが台無しになっちゃうでしょ。さ、早くニカはご近所巡りに行ってらっしゃい。ちゃんと十五歳のニカ・フラメルを御披露目してくるのよ」
言われて、はい! と挙手をした。
「お父さんと一緒に行きたいです!」
しょぼんと怒られたお父さんにますますしがみついて、ここですかさずファザコン発揮! 娘ですから甘え放題なのよ?
「え、俺もか!?」
「娘の頼みなんだから聞いてあげなさいよ。それにもうニカも年頃なんだから、本当ならとっくに父離れしてるのよ? 喜びなさいよ。ユート君はお母さんとお留守番ねー」
「えー、お留守番ー?」
むー、と唇を尖らせるユートの口を摘んでやる。ふふふ、鳥みたい。
「おねーひゃん、いひゃい」
「あはは、変な顔」
ひとしきり笑ってから手を離してやると、ユートはいっちょ前に腹を立てているようで。
「お姉ちゃんの意地悪! 不細工!」
「……ユート君、お姉ちゃんの事嫌いになった…?」
ちょっとしゃがんで上目遣いに切なそうな表情で。お姉ちゃんは知ってるいんだよ、ユートがシスコンだってことをね!
そういえば、ほら。ユートはわたわたとし始めて、前言を撤回してくれる。
「嘘! お姉ちゃん大好きだから泣かないで!」
「うん、ありがとう」
よしよし、と頭を撫でてやる。
本当にこの家族は仲良いなぁ。私がまずファザコンでしょ、ユートがシスコンでしょ、んでもって夫婦仲はもう嫉妬しちゃうぐらいに仲良いでしょ。
こんな環境だからこそ線引きした期限は守らないと、と思う。
残りの猶予は今年一年のみ。うん、お母さん、来年になったら父離れするからね。お父さんと存分にいちゃついてくれてオッケーよ。
ピカピカに磨いてあったブーツを履いて、ガチャリとドアを開ける。
「行ってきまーす」
お父さんの大きな手と自分の手を繋げて、お日様の元へ踏み出した。