明かりを灯す魔法
地下室への通路は二階へ上がる階段の裏にある。階段を隠すように被せてある蓋には、普段は入れないように鍵がかかってる。ルギィから受け取ったらしい鍵で開けて、その蓋を取るとあら不思議。梯子式の階段が。
「ランプ持って行った方がいい?」
「いや、いらない」
さっそく梯子を降り始めたフィルに聞いたら断られた。でもその中真っ暗だよね?
「よっ、と」
少しだけ下から聞こえたフィルの声に、地下室を覗いてみると、ぼんやりとした光がぼーっとフィルの顔を浮かび上がらせた。
「ランプ持って行ってたの?」
「違う違う。魔法だよ。明かりの魔法」
そういえばフィルは魔法使いだっけ。使うところを初めて見たかも。
「本当に魔法使いなのね」
「疑ってたのか?」
「ほんの少し」
だから魔法使ったところ見たことなかったんだって。不死だっていってたイメージの方が強いし。自称魔法使いとかざらにいるし。
とりあえず私も梯子を降りようかな。そこでふと下にいるフィルを見た。……うーん、この位置だとなぁ。
「どした? 早く降りて来いよ」
「……私が降りるまで絶対に上見ちゃ駄目よ」
「なんで?」
本気で意味が分かって無さそうだけど、とにかく上見ないでください。
私、スカートなのよ。下から見上げると丸見えじゃないの。
フィルがちゃんとこっちから目線をそらしてるのを確認して、梯子を降り始めると……
「早く降りて来いよー」
「だから見上げるなって言ってるでしょ!!」
言った側から見上げてきたフィルの顔面にダーイブ!
「とうっ」
「危なっ」
ドス、どたんっ!
フィルを下敷きに着地。
「危ねぇじゃねーか!」
「だからあれほど上を見るなって言ったのに……」
およよよ、と泣き崩れてみれば、
「俺はちゃんと見てたぞ。飛び降りてきた瞬間、面白そうににやりと笑っただろ」
「気のせいよ?」
けっして私につぶされたフィルを想像して笑ったわけじゃないわ。
それにしてもやっぱ光源一つじゃ心許ないよね。明かり付ける装置が確かこの辺にあったはずなんだけど……
「おいニカ」
「なーにー」
ちょっと待って、今探し物中。
「いやさ、先にどいてくれね?」
「んー」
見つからないわねー。
「ああもう退けって!!」
「きゃっ」
いきなり下敷きにしていたものが動いてよろめく。おっとっと。
「退けっつってんの」
「あ、あった」
起き上がったフィルが少しだけ私の座高を高くしてくれて、目当ての物の端っこに触れさせてくれた。ナイス、フィル。そしてもう一仕事お願いします。
「これに明かりの魔法使って」
「これにかけるのか?」
フィルの手を引っ張って、目当ての物に触れさせる。
「早く早く」
「はいはい」
フィルは立ち上がって、一度、光源を消した。真っ暗になる。
フィルが壁に近寄る気配がした。上から差し込む僅かな明かりが朧気にフィルの影を教えてくれている。
壁に触れる。フィルの指先からぼんやりとした緑の光の粒子が魔法陣を描いて、壁に吸い込まれていった。
ぽ、ぽ、ぽ。
部屋の中が手前から順に明るくなっていく。整然と並べられた棚や木箱。中央には広い長テーブルが一つ見えた。地上以上に埃がすごくて、塵が宙に舞っているのが分かるくらい。これはちょっと掃除しないと……て、ちょっと待った。
彼今、魔法の発動のための詠唱無かったわよね? あら? 私が聞き逃した?
不思議に思ってフィルを見るけど、彼は自分の指先が触れていた物を見て感心してた。
「ピクシーのレリーフ?」
光を纏うカンテラを持ったピクシーのレリーフ。それが部屋の壁に均等に配置されてる。実はこれ、梯子の隣のレリーフに光系の魔法をかけると他のレリーフが連動して光る仕組みになってる。一つの魔法を幾つかに共有させるのと、それを持続させるための仕組みが使われてる。もちろんグレイシアの発案です。魔法特許申請はしておりません。
「あ、こっちにも。同じのがある。どうなってんだこれ。一つにかけたら他のにも明かりが点いたんだけど」
物珍しそうにしてるとこ悪いんだけど、私レリーフよりあなたの魔法の発動について詳しく聞きたい……じゃなくて、目的果たさなくていいの?




