夕飯はあなたと
良質のキャベツを一玉丁寧に洗って、鍋でゆがいて柔らかくする。それを使って、あらかじめ下拵えしておいたマッシュポテトとか挽き肉とかを包んでロールキャベツに。
人参とか玉ねぎとかを刻んで味を付けたミネストローネの中へ投入。ロールキャベツもさらに投入。後は煮込むだけ。
「んー、もう一品欲しいかな? 私には十分だけど……」
ロールキャベツ入りミネストローネとパン。私は十分お腹いっぱいになる量だけど、フィルにはもしかしたら足りないかも。明日の朝の分も考えないとだから、使える材料も限られるしなー。
フィルってどれくらい食べるんだろう。すごく沢山食べるお父さんくらい食べるとなると、もう一品増やす必要がありそうなんだけど。
「飯できた?」
「できたけど、これで足りる? なんならもう一品増やすけど」
ちょうど良いところにフィルがやってきた。先にお風呂に入っていたフィルはほかほかと湯気を上げながらお皿に盛り付けたスープと籠に入ってるパンを見る。
「こっちの量が多いのがニカの?」
「そんなに食べれるわけないでしょ。何、私に太れとでも言いたいの?」
「わー、すみませんすみません口が滑りました! ので! その今までお鍋に入ってたらしきお玉持ってにじり寄ってくるのやめてくれ!」
分かればよろしい。
「で、もっと食べる?」
「十分。すこく美味しそうなミネストローネだな。このおっきいキャベツの中身は?」
「マッシュポテトとかお肉とか」
ふーん、と頷いてからフィルは首を傾げる。
「何で皿三つ?」
「え? ……あ、これルギィの分だ」
しまったついお皿三つ出してたみたい。
前はルギィと一緒に食べることが多かったから。でも今はどうなんだろう。三人でご飯してくれるかな。
「ルギィに食べるかどうか聞いてくれる?」
「あいつって食うの?」
「昔は食べてたわよ」
そう言えばフィルはへぇと頷いて、ルギィに声をかけてくれる。
「おーい、ルギィ。あんた飯食う……って、うわっ! ここにいたのかよ」
そう言ってフィルは後ろを振り向いた。何にも見えないけど、そこにルギィがいるのね。
「だから飯だって。……そう、お前の。どうすんの?」
フィルが尋ねた後、風がふわりと通り過ぎる。前髪が揺れて、風の向かう方を向くと、お皿が一つ浮いていた。
ゆらゆらとスープを揺らしながら、お皿が……というかあれってルギィが持っているのよね。ルギィはキッチンを出て行った。
黙ってそれを見送ると、フィルがひょいと残りの二つのお皿を手に取った。
「ルギィは部屋で食うとさ」
「何で一緒に食べないのよ」
「お前のためだと。見えない奴がスープを啜ってると落ち着かないだろって」
「そんなの、気にしなくていいのに」
ルギィは本当に変なところで気を遣う。前は割とびしばし物申す感じだったのに、今ではすっかり落ち着いてしまったのかな。
フィルがお皿を持ってテーブルに運んだので、私はパンを入れた籠とスプーン、ナイフ、フォークも掴んでいく。
ダイニング式の部屋なので、すぐそこのテーブルに並べておいてイスを引く。私がイスに座ったところで、フィルは手を合わせて、食事への感謝の祈りをする。私も手を合わせた。それからやっと食事を始める。
ふかふかだけど焼きたてではないパンはちょっと冷たい。長老さんに貰ったパンらしくて、長老さんの家の味がする。パンって結構、その家の癖がでるよね。長老さんの家のパンは甘くなくて、ふかふかだからバターだけでも十分おいしいかな。
ミネストローネの方は大絶讃のようで、
「うまっ! なにこのキャベツ! うまっうまっ」
「わかったから! 恥ずかしいから静かに食べなさいよ」
目をキラキラさせて食べる様子を見ると、子供みたい。確か二十二って言ってたよね?
私より七歳も年上なのに、まるで大きな弟でもできたみたいな気分。
 




