裏庭に見えるのは
さーてまずは庭の確認から。本当は明日にしようかと思ってたけど、野菜を採るついでに外も色々確認しておこう。
髪を後ろで一つに括って、つけてたエプロンの埃を外で簡単に落としてから散策を始める。
「髪結ぶの?」
「中の掃除の時は忘れてただけ。長い髪は動くと邪魔なのよ」
それでも延ばすのをやめないのはお父さんのため。お父さんは長い髪の方が好きだからね。
「この庭にあるのはたいてい薬草やハーブのはずよ。種類と効用が分かってるなら自由に使えるだろうけど、分からないのある?」
「んー? ざっと見たところ無さそうだけど……」
「分からないのあったらその都度聞いて」
グレイシアの研究録にも大量にハーブ書いたからなー。研究に使うために幾つも育てた結果がこれだ。庭がハーブだらけ。ハーブだけじゃなくて、前庭の内側は薬草のプランターが幾つも置いてあるし。背の高いハーブでうまく隠れてるのが多いけど。
すたすたと前庭を過ぎて裏庭へ。こっちには小さい家庭菜園がある。表もそうだったけど、裏庭も手入れが行き届いていた。本当にルギィが世話してくれてたのね。
「んーと、今あるのはキャベツと……あれ? キャベツだけ?」
おかしいな、他にも沢山の種類を植えていたはずなんだけど。
目立つのはキャベツの花のようにひらひらとした葉の部分ばかりで、他の野菜が見あたらない。この時期はアスパラガスとかも植えてたはずなんだけどな。見事にキャベツだらけ。
「……こんなにキャベツいっぱいでもね」
まさか裏庭全域キャベツじゃないでしょうね?
「ねぇフィル。ルギィに他の野菜はどこに植えてあるのか聞いてくれる?」
「あー、それな。さっき伝え忘れた。ルギィ曰く、キャベツ以外の奴は育てるのに失敗した、らしい」
「はぁ!?」
待ってルギィ、あなた以前はキャベツ以外もきちんと育てられていたでしょう!?
「キャベツ以外の手入れをするのが面倒になって放置してたんだと」
「……無人の屋敷ですくすく育つキャベツ畑、シュールね。てゆーか、育てるのは良いんだけど、その後どうしてたのよ。精霊ってご飯食べないのに」
「野生動物にやってたと。そこらへん、ちゃんと考えて栽培し続けてたっぽいな」
さすがルギィ、頼りになるわあ……あはは。
「……俺的にはあの露出狂が家庭菜園してる姿の方がシュールなんだけどな」
ぼそりと呟くフィル。ずっと不思議に思ってたんだけど、ルギィってそんな露出激しかったっけ? あんまり露出していたイメージ無いんだけどな。
とりあえずキャベツを一玉採ってみる。ずっしりと重くて青々としているキャベツは、一見良質のように見える。
「ルギィ、キャベツ農家の才能があるわね」
思ったことを素直に口にしてみると、フィルが吹き出した。
「どうしたの?」
「あの露出狂が農家って……!」
「本当の事じゃない」
「いやいやいや」
お腹を抱えて笑うフィル。だからルギィが露出狂って何。
「ねぇ、ルギィって露出狂なの?」
「見たことねーの?」
「あるけど、今は見えないの」
さらりと言えば、フィルが動きを止める気配がした。
「……見えなくなったのか?」
「うん。色々事情があってね」
振り向けば、彼は不思議そうな顔をしている。しまった、つい言わなくていいことまで言ってしまった。どうしよう、どうやって誤魔化そう。下手に言うと、墓穴を掘りそうだし……。
とりあえず私は笑っておいた。
「きっと神様の悪戯よ。私としてはお友達がいなくなっちゃった程度だし、別に見えなくなっても変わらないわ。私はここにいるし、ルギィも確かに存在するもの」
言えば、フィルはぽんぽんと頭を撫でてきた。……え、何。
「あんたも苦労してきたんだな」
「何よ変態」
「あれ、まだそれ言う?」
頭を撫でられたことに照れて、そっぽを向くついでに減らず口をきいてしまう。お父さんに褒められるときよりもむず痒い気持ちになる。
「……よし、決めた。最初の課題」
「は?」
「数日待ってろよ。昨日、面白そうなの見つけたからやってみる」
「いったい何をするつもりなの」
戸惑う私に、フィルは笑いながらひたすら頭をぐしゃぐしゃにし続けた。もー、髪型くずれるじゃないの。




