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F*ther  作者: 采火
本編

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152/153

ただいま、お父さん

「お父さん、ただいま!!」

「おわっ!? ニカか!」


エンティーカの帰り、フィルに頼んで屋敷には直接帰らずに、アマリス村の畑の方まで足を伸ばしてみた。

すると、ちょうど農作業を終わろうとしたお父さんを見つけたので、とりあえず泥で服が汚れるのも省みず、走って抱きついた次第です。


「あー! お姉ちゃんだー!」

「ユートも、ただいま!」


ぴょんとお父さんに抱きつくのをやめて、スコップや熊手の入ったバケツを放り投げ出したユートと手を繋いでくるくる回りだす。


「お姉ちゃんだ、お姉ちゃんだー!」

「ふふふー、ただいまユートー」


あはは、目が回る。


「タレス殿、無事戻りました」

「フィルレイン殿。よく戻られた。全て、終わったということで良いのか?」

「ああ。ルギィの件は全て終わった」

「そうか、それなら良かった」


お父さんがほっとしたように胸を撫で下ろす。お父さん、心配してくれたのね。


「お父さん、私も頑張ったのよ、誉めて誉めて」

「そうか、ニカも頑張ったのか。よしよし」


ててて、とユートの手を引っ張って、お父さんのところに戻る。

お父さんが、よしよしと頭を撫でてくれた。きれいに結った髪がぐちゃぐちゃになるけど、気にしない。


「えへへ」


お父さんに誉めてもらったことが嬉しくてついつい、頬がゆるんでしまう。


「……ほんとにニカって猫被ってるよなぁ」


フィル、よく聞こえてるからね? あなたのスープに入る肉団子の数が減るわよ。

お父さんになでなでしてもらっていたら、ユートがずるいずるいと主張してくる。


「ぼくも畑のおしごとがんばったよ!」

「おー、ユートもえらいなぁ」


両手が私とユートの頭にとられてしまうけど、お父さんは楽しそうに頭を撫でてくれる。

気がすむまで頭を撫でてもらうと、お父さんはそうだと手を打った。


「フィルレイン殿。事の顛末を聞いてみたい。よかったらうちへ来ないか」

「話してやりたいのは山々だけど、あの兄弟に口止めされてるから」

「そうか……まぁ、気にはなるが、解決したのならもう問題はないのだろう? 」


お父さんは私を軽々と抱き上げて見せた。


「ニカ、久しぶりに母さんのご飯食べたいか?」

「食べたい!」

「ちょ、ニカ」


お母さんのご飯好きだし、久しぶりに食べたいわ。母の味って言うやつ? あれだけ毎日食べていたのに、ずいぶん食べてない気がして、ちょっと懐かしくて。


「ニカはこう言ってるが、フィルレイン殿はどうする」

「いやでも、肉団子……」

「肉団子?」


あ、そうた。今日のお夕飯のためにお肉調達してきたんだった。

でもでもでも、お母さんのご飯も捨てがたく……


「お父さん、今日のお夕飯のお買い物してきちゃったのはどうしよう」

「なんか買ってきたのか?」

「うん。パンと、お肉と、お野菜が少し」

「ふむ……まぁ、明日でも腐らんだろう」

「フィルー、それでもいい?」


抱き上げられたまま、私はくるりと首だけを巡らせてフィルの様子をうかがう。フィルははいはいと呆れたように手をひらひらさせた。


「ニカだけで行ってこい。俺はルギィと飯食うよ」

「あ、ルギィ……」

「たまには家政婦休暇ってことで。今日はそのまま実家に泊まれ」


フィルはそう言うけど、ほんとにそれでいいのかしら?


「ご飯どうするの?」

「簡単なものくらいできるって」


まぁ、肉団子だし……味に拘らなければスープにしちゃえばどうにでもなるけど。

なんかちょっと、もやってするなぁ。


「ほんとに、私いなくて大丈夫?」

「大丈夫たって」

「そう……それじゃ、お言葉に甘えて。お父さん、帰りましょ」


フィルが気を遣ってくれたから、私はもやっとする何かを抱えたまま、お父さんを促す。


「そうか……気が向いたらまた寄ってくれ」

「ありがとうございます」


にへらっとフィルが笑って、本当の帰路につくべく背を向ける。お父さんも、バケツを拾ったユートと手を繋ぎ、私を肩に乗せ、帰路につく。

片手で抱えるお父さんに、ひょっこりと上から顔を覗かせる。


「お父さん、重くない?」

「はは、何を言う。前にも言ったが、ニカ、お前は軽すぎる。もっともっと、大きくなれ」


お父さんは笑って言うけど、成長するのか微妙なところよねぇ。

グレイシアはもう十五歳の時には成長止まってたし。まわりの女の子も身長がぐんぐん伸びてる。私の成長、ちょっと遅すぎないかしら。


「でも、軽いとこうやって肩に乗せてもらえるから、私、このままでもいいわ」

「はは、ほんとうにニカは俺のこと好きだなぁ」

「ぼくもー! ぼくもお父さんすきー!」

「おっ、ユートもありがとう」


三人で笑いながら、お母さんの待つ家へと帰る。

これが元々の私の日常だったのに。今はフィルの元が日常になりつつあった。その矢先の今回の一連のこと。

例えるならそうね、なんだか、長い旅に行ってきた感じ。

実はもう旅はここで終わりで、フィルも明日には静かに姿を消すの。そういう、普通の女の子がちょっとした冒険をしに行くような、物語のような経験。

でもこれは物語じゃないから。

今日はちょっとした、休憩みたいなもの。

温かい家に帰り、お父さんとお母さんとユートと、温かいご飯を食べる。

これが私の日常。

私が、壊したくなくて、守りたくて、ずっとこのままでありたかった日常。

でも、それも十六歳までと期限を区切っていて。

……私の期限はもっとずっと、その先。そのはずだったのに。

今回の件で、私は引き返すことのできない選択を自ら選んだ。

もしかしたら、心の奥底では思っていたのかもしれない。

私がグレイシアだと、ひっくるめて誰かに知ってもらいたかったのかもしれない。

だからこんな無茶をして。

お父さんに触れようとして、やめる。あんまり触らない方がいいかもね。冷えた指先はいつこの身を蝕むか分からないから。

それにお父さんはもしかしたら私の死の謎を───


「ニカ、まだ言ってなかったな」


お父さんが、思考の海から私を引き上げる。

私はきょとんとして、子首をかしげた。

お父さんは目元を弛ませて、微笑む。


「おかえり、ニカ」


私はぱちくりと目を瞬かせた。

言葉の意味を咀嚼する。

私はたまらず、お父さんの首に腕を回す。


「おわっ!?」

「ただいま、お父さん!」


ユートがびっくりして、すぐに、お姉ちゃんだけずるいーと言い出すけれど、今は私だけ。

愛しい愛しい、お父さん。

私のぬくもりを忘れてしまう前に、もう一度。

あなたのぬくもりを忘れてしまう前に、もう一度。

きっと私が区切った期限が来る前に、私はあなたから離れてしまうだろうから。


ここまでをペルーダ編(仮)として第一部の幕引きをさせていただきます。

これからの更新に関して、小話をちょこちょこ挟んだ後、第二部の始動をしようと思います。

どうかこれからもお付き合いくださいませ。

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