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F*ther  作者: 采火
本編

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147/153

おねむの時間

朝早く出ていったのに、戻ってきたのは月が上る頃。思っていたより負担が体にかかっていたからか、足が思うように動かなかった。私とフィルの足が遅いのに合わせて、サリヤとカリヤも山を降りてくれた。ルギィはいつの間にかいなくなっていたけど、たぶん呼べば来るでしょう。

疲れきった私たちを出迎えてくれたのは、トットちゃんを逆さ釣りにして窓から吊り下げていたアーシアさんだった。二階から吊るしているので結構な高さ……。しかも重り代わりか、大きめの石にトットちゃんがくくりつけられている。

わー、アーシアさんバイオレンスー。


「あの馬鹿トット、何したんだよー……」


サリヤが眉間の皺を指でほぐしつつぼやくけど、こればかりは本人たちに聞かないことにはねぇ。

私たちに気づいたアーシアさんが窓から手を振って、部屋の中に消えていく。宿屋の玄関をくぐって、割り当てられた部屋へ行く途中の廊下でアーシアさんが出迎える。


「お帰りなさい、皆さん」

「ただいま、アーシアさん!」


ぱふっと私はアーシアさんに抱きついた。ちょっと驚いた顔をしたアーシアさんも、私を抱き締め返してくれる。

それから順にサリヤ、カリヤ、フィルを見渡して……


「……フィルレインさんだけ服が」

「あはは、まぁ、色々あって……俺に限らず他の奴も疲れてるし、話はまた後で良いか?」

「分かりました。それなら、お食事の支度をしますね。この時間はもう食堂も終わってますが、厨房を貸していただけるようにお願いをしておきましたので。あと温泉は遅くまで入れるようなので、汗と埃を流してきてください。ニカちゃんも体をよく温めて、ね」

「はーい」


そういうわけで私たちは一度部屋に着替えを取りに、アーシアさんはご飯を作ってくれるために厨房へと向かう。

あ、トットちゃんのこと聞きそびれたけど、ほっといて大丈夫なのかしら。

部屋に戻ると、窓が空いていて夜風が部屋に入り込む。山の頂上より涼しい。

荷物をごそごそ漁っていると、窓の外でわぁぎゃぁわめく声が聞こえる。


『ふぉーーー! おにゃのこ!! おにゃのこの匂いが!! 健全なおにゃのこの匂いがするぞいーー! ふんがーーー!!』


あ、ロープはベッドの足にくくりつけられてたのね。ロープの先でトットちゃんが暴れているらしく、ゆらゆらとわずかだけど左右に揺れてる。

すごい台詞聞いちゃったけど、貞操の危機を感じたので無視しておきましょう。アーシアさんの判断は正しかったのです。

そんな感じで部屋を出て、温泉に入りに行くけれど、寝落ちしてしまう前にさっさと上がる。温泉につかっていたら一気に疲れがきて、うっかり寝てしまうところだったから。危ない危ない。

温泉から上がると、服を着るときにフィルから貰ったあのアクセサリーたちも一緒に身につけていく。簡単に調べてみたけど、壊れてはいなかったから、あれくらいの無茶をしなければ十分、私の魔力を抑制してくれる。

それから食堂へ向かえば、もう皆揃っていて、アーシアさん手作りのご飯を食べ始めていた。


「待っててくれてもいいじゃない」


むぅ、と少しすねてみるけど、とりあえずフィルの隣に座る。フィルがちらりとこっちを見てほい、と空いていたコップに水を注いでくれる。そしてまたもぐもぐと温かいご飯を口に運んでいく。

私は水を飲んで、ちらりと周囲の様子を伺った。

ここの宿の食堂は酒場の役割は果たしていないからか、この時間はちらほらと談話している人がいるくらいでほとんどがらんとしているわね。

そんな中、美味しそうな香りを匂わせているテーブルを見る。アーシアさんが私のために取り皿に料理を盛ってくれて、スプーンも用意してくれた。

まず目に入ったのが、薄切りにされたお肉と均等になるように角切りにされた玉ねぎとピーマン、ニンジンとトマト、それをオリーブ油で炒めて煮付けた、温かいラタトゥイユ。

それからトマトとキュウリを酢や油で混ぜ合わせたあっさりと涼しいサラダ。

パンは荷物の中に入れていたちょっと固めの奴。

疲れた体にはパンが少し喉を通りづらいけど、あっさりとしたサラダのおかげで、食べることは苦にならなかった。ラタトゥイユもトマトの水分が抜けてスープみたいになってるしね。

夢中になって食べて、お腹いっぱいになりはじめると、私の体がもう寝るべきだと主張してきた。うとうととスプーン片手に船をこいでしまう……


「あ、こら、ニカ寝るな」

「んー……」

「今回の功労者、彼女だからねー。魔力の消費量もすごかったしー。正直、倒れないでここまで来た彼女の精神力に感嘆してるよー」


もぐもぐとスプーンをかじる。なんか私誉められたっぽい? ふふん、私まだ食べれます。


「お話はまた明日にした方が良さそうですね」

「そう、だな」

「終わったら話してくれるって言っていたの、私忘れていませんので」

「はいはいー。分かってるって」


もぐもぐ。


「あー、こらニカ、スプーンをかじるな」

「うー」


あー、私のご飯とらないでー。


「おし、スプーン外れた。メイドさん、悪いけどこいつ寝かしてやってくれね?」

「いいですけど、私後片付けが……」

「僕とカリヤがやっておくよー。正直僕ら、この二人に比べたらそんなに疲れてないし」

「そう……それならお願いします。さ、ニカちゃん行きましょう」

「はーい……」


うぅ、やっぱり眠気に抗えないわ……アーシアさんの申し出通り、寝に行きます……。

私はふらふらとアーシアさんの手に引かれて部屋に戻ろうとする。

あ、そうだ、忘れるところだった。

私はくるりとテーブルの方を向いてぺこりと頭を下げた。


「おやすみなさい」


それからアーシアさんの腕に寄りかかるようにして部屋に戻る。おやすみの挨拶は大切だってお母さんが言ってた。

その後ろでぼそぼそとフィル達が何やら話してる。


「ねぇ、フィルレイン。ニカ・フラメルどうしたの? なんか悪いものでも食べた? 子供っぽすぎて気持ち悪いんだけど?」

「マジトーンで言ってやるな。つーか、タレス殿の前……父親の目の前だとあんな感じだぞ?」

「なんだ、ただ寝ぼけてるだけなのか?」

「たぶん、眠すぎて俺らに対しての外面の態度維持できてないんじゃね?」

「フィルレインの前でもあんな風になるのはないってことー?」

「残念ながら、いたずら好きなところ以外は子供っぽいところなんてあんまり見たことないな」


なんか色々と言われているみたいだけど、あんまり聞こえない。でも、なんとなく腹が立ったので、明日の朝覚えていたらきっちり恨みを果たすことにしましょう。

今はとりあえず、疲れた体を休ませないことには……ね……。

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