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F*ther  作者: 采火
本編

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140/153

要石と契約しているのは

目的地は確かに目と鼻の先だった。

幾ばくも歩かないうちに視界が開け、大きな岩で岩壁に戸をしたような行き止まりにたどり着いた。

広く見渡さないと、ただの亀裂にしか見えない僅かな隙間が、封印の綻びだと、フィルは言う。


「ほっとけば、たぶん勝手に封印がほどけてペルーダが目覚めるだろうけど……」

「理論的にはそうですね。ですが、山一つ使って封印堰にしているのです。そんなことをすれば山の生態系バランスが崩れますよ」

「ルギィ」


ふわっと影を差して、岸壁の上から舞い降りてきたルギィ。そんな所にいたのね。

ルギィは私の隣に立つと、フィルの方へ視線を向けた。


「封印堰は魔力の循環を聖域の中で行っています。その循環される魔力は、今まで外界に放出されることがなかったために、外界はもはやその魔力を無いものとして世界を適応させました。封印堰を解放するのなら、無理の無い魔力の循環をさせなくてはなりません」

「それを解かないといけないってことか」

「任せて。私がやるわ」


たぶん、この規模だとだいぶ私の魔力も持っていかれるけど……どれほどのものかと魔力を糸のように張り巡らして気配を感じ取ってみたのだけれど、以前フィルが言ってた通り、山の中抉ってるわねこれ。

たぶん、この岩の向こうは洞窟のようになっているんじゃないかしら。長い年月をかけて、土や灰をかぶり、木の根や蔦がそこを這った。当然封印堰は繭のようにその聖域という空間を包んでいただろうから……そこにいたずらに一点の穴を開けたら、みるみるうちに瓦解して、山が一つ消える。

外側にある封印堰を隠している幻術はジョージのものでは無いから、後からその事を案じたマッキー家のご先祖様がこうやって隠したとか、そんな感じでしょうね。

なのでまずは、幻術をあっさりと解いて見せたいところなのだけれど……


「幻術は大地系と炎系の合成魔術……大気の魔力から組み上げられてるのね」

「こんな山奥だし、人も入って来ないからかとてもゆるい魔法だねー」

「大気の魔力なら、魔力による磁場狂いで片付けられるしな。よくもまぁ、こんな芸当やってきたな」

「そのための三十年周期なんじゃない? 封印堰の封印の継続と一緒に幻術も更新していくの。この二つが揃っていたから、今まで荒らされることなく続いてきたんでしょうね」


とかなんとかお喋りしつつ、幻術をほどく魔法を構築する。私が見ている魔力の流れと、魔力の持つ法則、それから魔力の質を考えながら、頭のなかで魔法式を構築、魔方陣へと変換して、と。

なんとなく、手順を思い付いたところで肝心な部分に言及する。


「サリヤ。この幻術なんだけど……」

「分かってるー。トットでしょ? 幻術の要石になってるの」

「え、マジで?」

「どこかにある要石のせいで、幻術が解けないのよ。たぶんトットちゃんの魔力だと思うんだけれど……」


要石は魔法を維持する装置みたいなもの。これによって精霊から魔力の供給がされる。それこそ、精霊の魔力がつきるまで。

精霊の魔力で作った精霊石と同じようなものだけど、要石は精霊一人だけでは作れない。精霊石に魔法をかけて、人間が作るもの。何らかの魔法に組み込まれることでようやく真価を発揮するという、扱いが難しい上に、作ることすらそもそも難しいものなのよね。

要石は精霊と精霊石の間に契約を結ばせることによって魔力の供給が得られるものだから、そもそも精霊にその気がないと作れない。あのトットちゃんがよく作る気になったのか不思議なのよね。


「これだけ大ががりな幻術、大気の魔力だけでできないもの。どこかで追加の魔力の供給をしないと」

「トットがどうしてこのペルーダの話に関わっているのか、グレイシアの精霊が何やら言っていたから、聞き出しておいたんだよねー」


良い判断よサリヤ。実際のところ、今回みたいに幻術を広範囲にかけている場合は、要石を壊さないと蜥蜴の尻尾切りみたいに解呪と修復の繰り返しになってしまうのよね。

つまりは「場」に魔法をかける場合の基本なのよ。要石って。


「それじゃ、カリヤ。ちょっと貸してねー」

「ああ」


サリヤがカリヤからペンダントを受けとる。確かそれって精霊石よね?

サリヤがそのペンダント……精霊石を手のひらに乗せて、あの樫の杖で魔方陣を描く。

赤く発光する魔方陣が宙に浮かび上がる。


「さて、と。───縛りし者を許す魔法」


赤く発光する魔方陣が精霊石に吸い込まれるようにして消えていく。

精霊石が鳴動し、光の粒子が精霊石から飛び出した。

光の粒子は宙で集まり、影となり、やがて形をなす。

それは赤く燃える炎で作られた鳥だった。翼を羽ばたかせると火の粉が散る。これが、トットちゃんの本来の姿。

ぬいぐるみではない、ありのままの姿。


『サリヤのばーかばーか! わしをあんな石の中に閉じ込めたこと今すぐ後悔させてやるんじゃー!』


……せっかく目を奪われるほど綺麗な鳥なのに、中身が残念なのが、なんというか、不良品みたいで惜しまれるわね……。

フィルも同じことを思っているのか微妙な顔をしているし、カリヤに至っては慣れたものなのか無視を決め込んでいるし。

サリヤははいはいと適当に相づちを打つ。


「僕を責めるのも良いけど、やることやってからにしてねー」

『なんやお前のためにやることなんぞ……むぅ?』


そこでトットちゃんは気づいたように辺りを見渡す。


『なんじゃい、懐かしいとこおるな?』

「君を連れてきた意味くらい分かるでしょー」

『いやじゃー、分からんわー、可愛い女の子におさわりできたらもうちょい頭よくなると思うがのー?』

「この鳥……!」


ビキッとサリヤが青筋たてる。サリヤって割りと温厚そうなイメージあるけど、トットちゃん相手ではそうでもないのかしら。

黙って経緯を眺めていると、隣にいたルギィが声をあげた。


「安心の火鳥が聞いて呆れますね」

『わしは、わしの安心を獲得するために生きると決めたんや。良いやろそれくら……い、て、おまえさん、おったの?』


きょとん、とトットちゃんがこちらを向く。


「居ますよ、最初から」


涼しげにルギィが答えると、


『うぇぇぇぇ、それならそうと早く言えば良いに! サリヤの阿呆ー! ぼけぇー!』

「なんで僕に八つ当たりするのさ」


バッサバッサと火の粉を降り散らかしているトットちゃんにジト目で睨んでるサリヤ。うん、とりあえず、やることやって欲しいなトットちゃん。

ルギィがすいっと腕を出すと、トットちゃんはそこにとまった。あらま、仲良し?


「ニカ、お前、今何か失礼なこと考えているでしょう」

「いいえ?」


ただ仲良しだなって思っただけです。

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