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F*ther  作者: 采火
本編

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139/153

まだまだ歩けるよ

ヴェニス山脈に連なる一つの山の中腹に、ペルーダの封印の入り口があるという。私たちは整備された山道を外れて、道なき道を歩いていた。

山に入って三時間。だいぶ歩いたなぁと思って、額に浮かぶ汗をぬぐうと、前を歩くフィルがこちらを向いた。


「大丈夫か?」

「へーき」

「うぇー、僕疲れたんだけどー。ちょっと休まないー?」

「それも良いが、もう少しで入り口に辿り着く。こんな足場の悪いところよりも、あそこで休んだ方が良い」


そっか、そういえばカリヤも場所を知っていたんだっけ。

つらつら考えつつも、足を進める。フィルもマッキー兄弟も歩幅が大きいから、着いていくのが大変ね。

せかせか歩いていると、足を木の根に引っかけた。


「ひぁっ?」

「あ」


あ、じゃないわよサリヤ!! 助けてくれたっていいんじゃないっ!?

危うく転びそうになったけど、手を伸ばして木の幹を支えにバランスを整えた。危なかった。めちゃくちゃ危なかった。

腐葉土が積もった山道は、あちこちから木の根が顔を出していた。カリヤが通ったと思われるわずかな痕跡はもう無くて、冗談無しに道の無い山を突き進んでいる。


「大丈夫か、ニカっ」

「へ、へーき……」


びっくりしたから心臓がドッドッと早鐘を打ってる。ここで足をくじいたりなんかしたら、ペルーダどころの話じゃないわ。


「大丈夫だから、進みましょう」

「大丈夫じゃねーだろ。あんた一人だけ息切れしてるし」

「えっ?」


言われてサリヤとカリヤを見るけど、本当だわ。カリヤはともかく、サリヤも息切れひとつ起こしてないし。


「歩くの早かったか?」

「だ、大丈夫よ」

「大丈夫だったらそんな疲れてねーだろ。現にサリヤ見てみろ。めちゃくちゃ元気そうだぞ?」

「えー。これでも疲れてるんだけどなー」

「おい、もぐり。サリヤはそこの娘を気づか……」

「おーっと、あしがすべったあ」

「!?」


サリヤはあからさまな棒読みと共に、ガッと片足を滑らせてカリヤの足元をすくう。不意打ちを食らったカリヤは、さすがの騎士サマ。すくわれた足をすぐに地盤のしっかりしている場所に乗せて、手で近くの枝をつかむ。盛大に転ぶのを、うまく交わして見せた。


「もうすぐなら、ペース落としても大丈夫でしょー。ゆっくり行こうよー」

「お、おう……?」


何事もなかったようにサリヤが仕切り直したから、フィルが一瞬たじろいだけど、やっぱり進むらしい。まぁ、私もその方が良いけど。

歩くのを再開したフィルが前から話しかけてくる。


「ニカ、あんた俺と先に飛んでいくか? もうそんな距離もないし、そこの兄弟がゆっくり来る分多く休めるぞ」

「えーずるいー」

「貴様……!」


後ろからブーイング来てるし。え、何、あなた達、フィルにお姫様だっこしてもらって上まで行きたいの?


「遠慮しておくわ。あれ、慣れてないとほんと怖いから。こんな木の覆い繁ってる場所で飛んだら、木が邪魔でうまく飛べないでしょう」

「んー……ニカ一人ならなんとかなると思うんだけどな。ニカ小さいし。軽いし。コントロールしやすい」

「小さくて悪かったわね」


これでも気にしてるのよ! 皆とっくに私より背が高かったり、大人っぽくなってるの! 幼児体型で悪かったわねっ!

言いたいことは沢山あるけど、疲れるので一言だけ言ってやった。それはもー、不満たっぷりに。

そしたら、フィルがあっと声を上げて足を止めた。


「ニカ」

「今度は何よ」

「あんまり疲れ過ぎるのもいけないから、あれ使え。石猫」

「えー……」

「最初から気づけば良かったな。ごめん」

「いや、あの」


本気? 石猫使うの?

一応、フィルに石猫は調整してもらっているから、使えなくはないけれど。

首から下げたルギィの精霊石の入った袋に石猫も入ってる。フィル曰く、袋の中に居る間はスリープ状態らしいから、勝手に動き回ったりしないって。ちょっと可哀想だけど、その方が安全だしね。

でも、あれ使うってことは耳とか尻尾とかが付属品としてついてしまうのは変わってない。無くせって言ったのに。言ったのに。


「……いざという時にしか使わないわよ」

「今だろ?」


私は首を振った。冗談。恥ずかしいっていうのも理由の一つだけど、私はちゃんとこの子の使い道を考えてるの。


「まだよ。封印を解いてから、ペルーダを助けるまでタイムラグがある。その時の、もしもの足留めのためにあなた達が居るのよ。私、あなた達みたいにひょいひょい動けないんだから、そこで使うわ」

「あー……」


フィルは納得してくれたみたいで、頬を掻いた。


「ま、それが建設的か。でも無理はするなよ? ここで無理しても、まだ本命が残ってんだから」

「分かってるわよ」


頷いて、歩き出す。

こんなところで弱音なんて吐いていられない。

私がやらないといけないことは、まだこれからなんだから。

サリヤが休もうとか、ゆっくり行こうって言ったのも、私への気遣いだって気づいてるし。カリヤだって、何気に私が転んでも受け止められる位置にいるし。たぶん、私がさっき足を踏み外したからだと思うけど。

皆に気遣われてしまっているのが少し情けないけど、だからこそ、私は皆の負担になら無いように。

これから始まることは、私よりよっぽど、皆の方が大変だから。

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