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F*ther  作者: 采火
本編

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138/153

痴話喧嘩ですか?

翌日、朝から目指せ封印堰、と張り切って支度を整えて宿の玄関口を出ると、そこには修羅場が繰り広げられていた。

……何してんのよ。


「そんなに言うのでしたら、最初から私を連れてこなければ良かったじゃないですか」

「だからぁー、アーシアのお役目はここで待ってることなんだって」

「待つのでしたらエンティーカでもできます」


サリヤとアーシアさんが口論を交わしている。そのすぐそばで、カリヤが辟易した顔で二人の口論に口を出そうとしては、なにも言えずにおろおろしていた。

すすす、とこの光景を傍観していたフィルの隣に移動すると、フィルはやれやれといった体で首をすくめた。


「どーしたの、これ」

「メイドさんが、自分がどうして連れてこられたのかって理由を聞いたら、サリヤがはぐらかしてさ。はっきりすっきり言えば良いものを、頑なにサリヤが待ってろとしか言わないから、メイドさんキレた」

「なるほどねぇ」


昨日からアーシアさんの様子がおかしかったから、いつ爆発するかと思ったんだけど……よりによってこのタイミングか。


「理由があるのならはっきり言って。宿をとったのなら、見張る荷物なんてほとんどない。本当は荷物番なんていらないでしょう」

「いるんだってば」

「サリヤはいつもそうじゃない! 私にばかり内緒にして、カリヤと二人で私をのけ者にする」


アーシアさんの声が響く。

あー、これは……


「止めても良いけど、アーシアさんは納得しないわよ。長年のストレスが積もりに積もってるみたいだし。どうする?」

「いや、止められるなら止めてくれ。悪目立ちしてるから」


言われてみれば、朝の散歩に出ている観光客がこちらをチラ見しながら通っていく。そうねぇ、これじゃただの痴話喧嘩よねぇ。

フィルにも言われたことだし、やるしかないわね。たぶん、フィルが何も口出さないのは、一度挑んで失敗したからとかじゃないかしら。

まぁ、時間も惜しいし。


「アーシアさんっ」

「きゃあっ!? に、ニカちゃん……?」


私は横からアーシアさんに思いっきり抱きつきにいってみた。細い腰に腕を回して、アーシアさんを見上げる。アーシアさんは驚いたように目をぱちくりさせた。


「アーシアさん、耳貸して。彼らがアーシアさんに内緒にしてること、教えてあげるから」

「え?」


アーシアさんに回していた腕をほどけば、アーシアさんは少し屈んでくれる。私はこれ見よがしに内緒話しますよ、といった風にアーシアさんの耳と私の口の間に、手のひらの壁を作った。


「あのね……」

「うああああ、待て、待ってくれ、待つんだ、ニカ・フラメル! どこから話すつもりだ!?」


話をしようと口を開いたときに、真っ先に声を荒げたのはサリヤではなく、カリヤ。

さっきまでおろおろしていた彼が急に声を荒げたから、アーシアさんが面食らう。


「どこから話すも何も……アーシアさんに関わること全部?」

「い、言うなっ! どこから話すつもりかは知らんが、不要な事まで言ったら貴様のその口、二度と開かなくしてやるぞ!?」


こちらへ迫って来たから、私はささっとアーシアさんの後ろに隠れた。きゃー、こわーい。

茶化して言ってやるけど、私はすぐに真顔になった。

あのね、カリヤ。あなた、私たちにそんな余裕ないの分かってる?


「じゃあ、今言わなかったらいつ言うの? 人の人生なんてとても儚い。それにね、この喧嘩が長引いて、あなたたちのモチベーションに関わるなんて、言語道断。考え事をする余裕なんて、私たちには無いのよ」

「……そ、れは」

「サリヤも聞いてる? アーシアさんに甘えて、何も話さないままでいるのは卑怯もののすることよ。理由を尋ねられたら説明するのは、大人の常識」


アーシアさんに秘密にされている理由はきっと、カリヤの思いやりと、サリヤの打算。兄弟二人とも互いを尊重しているからこそ、アーシアさんに皺寄せが来た形なのよね。

なんて美しい兄弟愛ナノカシラー。


「……ニカ・フラメル、人を小馬鹿にしたようなその顔やめてほしいんだけど」

「ような、じゃなくて、間違いなく小馬鹿にしてるのよ」


サリヤの言葉にちょっとはしたないけど、はんっと鼻をならして言い返してやる。

その直後、かちんっと血管の切れた音はカリヤですね。うん、まあ、血管ではなくカタナの鯉口か切られた音ですが。


「すとーっぷ、すとーっぷ、カリヤまてまてまて!!」

「もぐりは黙っていろ。ニカ・フラメル、黙っていれば貴様……!」

「あーら、本音も言えない騎士さまが何を偉そうに」


一応フィルが、間に入ってカタナを構えようとするカリヤを止めるけれど、まぁ、大丈夫よ。彼はカタナを抜けないわ。

私はひたりとカリヤを、サリヤを、順に見やった。


「私は、私を必要とされたから、蓋をした過去を開いてまでここに来たのよ。あなた達が私情によそ見するのなら、帰って頂戴。邪魔になるだけよ」


そこまで言って、ようやくカリヤは殺気を向けるのをやめた。サリヤも、やれやれといった体で肩をすくめる。


「分かってるよ。でも、僕はうっかりニカ・フラメルが失敗したときのために、トットに言われて彼女を連れてきただけだから。君が失敗しなければ、アーシアには何もさせなくて済むし」


サリヤはそういうことだから、とアーシアさんに向き直る。


「なんとなく察してはいるけど、正しく説明できるのはトットだけなんだよねぇ。アーシアに余計な心配させたくないからってカリヤが言うもんだから、黙っていたわけだけど、逆に余計な心配かけちゃったみたいだからそこは反省してる。どうする? そんなに気になるなら、トットを出すけど」

「……そういうことなら、今は待ってます。ここで不要な時間を取らせたこと、配慮が足りなかったわ。終わった後、ちゃんと説明してね、サリヤ、カリヤ。ほんとうなら、私も無関係でいられないんでしょう?」


ため息をついて、切なそうに笑うアーシアさん。

これで一件落着ということでいいかしら。

というか、


「トットちゃん来てるの?」

「カリヤの持ってる精霊石の中に今はいるよ。あれ、ぬいぐるみのままだと、いつ逃げ出すか分かったもんじゃないし。うるさいし。今回は大事なときだから、余計なことしないように精霊石に放り込んだんだよー。封印堰目前になったら出すつもり」


トットちゃんも関係者みたいなことをルギィが言っていたから、姿が見えないの不思議だったのよね。

ちなみにそのルギィは昨夜の内に一足先に封印堰の入り口に言っているみたい。仮留めの魔法がそろそろ尽きるみたいで、ルギィがその場で時間稼ぎをするみたい。

前みたいに、倒れたら許さないと言ったら、笑って同じ轍は二度も踏みませんからとかなんとか言っていたから、大丈夫だと思うけど。

とにかく、一段落したのなら。


「さ、行きましょう」


神話に眠る、魔獣の元へ。

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