表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
F*ther  作者: 采火
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/153

気づきたくはなかったこと

「それで、えーと、どこまで話していたのかしら」

「私が、屋敷に入れなかった理由ですよ」


馬車に乗り込んだ私たちは、ヴェニス山脈を目指すべく、進み出した。カリヤとサリヤとアーシアさんの三人がぎゅうぎゅう詰めになりながら御者台で、私とルギィとフィルが馬車の中。サリヤとアーシアさんには申し訳ないけど、込み入った話をするので、一時的に御者台に座ってもらった。

向かいに座ったフィルが、私の隣にいるルギィに話しかける。


「結界が張られてたって言ってたよな」

「そうです」


ルギィは頷く。

だから私は至極当然な疑問を口に出した。


「いったい誰が」

「さぁ。でも確かなことをいうならば、あの属性はそうそうあるものではないということですよ」

「属性?」


不思議な言い方のルギィに、私は聞き返す。

魔力の属性は風火地水光闇が基本になるけれど、これだけじゃない。私みたいに氷を属性とする場合もあるし、他にも風属性に含まれる雷や地属性に含まれる木、火属性に含まれる熱とか、基本に完璧に分類はされないことが多い。人間には難しい多属性の現れだっていう説が一般的。

逆に精霊は、基本の六属性にしか分類されない上に、もし二つ以上の属性を持つならば、ルギィのようにはっきりと分類分けされてしまう。それほどまでに、精霊と人間の魔力の質は全く違うという訳なのだけれど……


「珍しい属性って?」

「闇属性です。しかもあれは単純な属性ではない。人間のような繊細な魔力質でもなく、精霊のような純粋な魔力質でもない。あれは、とても雑な魔力でした」


ルギィが、眉を寄せて厳しい顔をする。私もフィルも、つられて神妙な表情になる。

人間でも精霊でもない魔力ねぇ……それこそ魔獣のようなものでもない限り、この二つのカテゴリーに分類されると思うんだけれど……。

ふと私は、ルギィの言葉が引っ掛かった。


「雑なって、どういうこと?」

「雑なんですよ。あらゆる魔力を詰め込んで作り上げられた魔力です。その魔力の色は黒く、一見して闇の属性に見えましたが、あれはそんな単純なものではなかった。幾つもの色の絵の具を混ぜると限りなく黒に近くなっていく。そんな雑さです」


あらゆる魔力を詰め込んだ黒の色。それは確かに、希少な闇属性のなかでも、さらに希少でしょうね。聞いたこともないわ。


「そんなもの、生まれつき持ってる奴なんて限られてくるぞ?」


フィルが眉を潜めて言うけれど、その考え方は間違ってる。


「…… 生まれつきとは限りません。人間が幾つもの種類の魔力を扱うなんて事は、その身に余る」

「かといって、そんな精霊がいたらそれはもはや精霊とは言えないわ。混ざって闇になっているなら、純粋であるべき精霊の魔力質から遠く離れているもの」

「そういうことです」


ルギィはため息をつく。

人間か、精霊が、よくわからない代物にルギィは足止めされて、グレイシアの死に目に会えなかったってことね。


「直接術者と会わなかったの?」

「残念ながら」


つまり、術者の顔も気配も、ルギィは知らないってことかぁ。

グレイシアの死にそいつが絡んでくるなら、私が生まれ変わったことも、もしかして偶然ではないのかもしれない。こんな奇跡、待っていても恵まれるものじゃないでしょう。必然だとしたら、合点もいく。

けれど、何一つ分からないということだけが不気味。目的も、その力も、誰の仕業なのかさえ。


「……ニカに言いたくないんだけどさ」

「何よ」

「ルギィなら気づいてるんだと思うんだけどさ」

「……ええ、はい」


フィルとルギィが二人で視線を交わす。フィルの言葉に、ルギィは声を落として頷いた。

なになに、私だけ仲間はずれ?


「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「俺が言っていいのか?」

「第三者の視点も、時には大事です」

「うまく避けやがって」


フィルが大きくため息をついた。ルギィはそ知らぬ顔をしているし。

なんなの、私に早く教えなさいよ。

私のことなのに、私が一番わかっていないなんて滑稽なこと許さないわよ。ちゃんと話してよ。


「フィル、変な遠慮しないでズバッて言って頂戴。私だけ馬鹿みたいに理解していないなんて、胸の奥がモヤモヤして気分が悪いわ」

「あー……ほんとに? 分かってねぇの?」

「分かる分からない以前に、そっちが先に話を吹っ掛けたんじゃない。ちゃんと言葉にしてよ。二人だけ分かったような顔して腹立たしいわ」


唇を尖らせて言えば、フィルは観念したように、がしがしと後頭部を手で荒く掻いた。仕方ねーなーと言って、ルギィに一度目配せしてから、口を開く。


「───ルギィを弾いた結界の中にいたのはグレイシアとタレス殿だけ。そりゃ、中にいたタレス殿を疑うだろって話だよ」

「お父さんを?」


なんでお父さんを疑うの?


「私とあの人は最後の瞬間まで一緒にいたのよ。どうしてそんな事言うのよ」

「あんた、本当にタレス殿に対しては盲目だよな。……グレイシアにとっては最後の瞬間であっても、タレス殿にとっては違うってことだよ。グレイシアが死んだその瞬間、タレス殿が何か細工をしたってことを疑うのが普通だろ」


私は息を止める。

一瞬、何を言われたのかわからなかった。でも、言葉の意味をゆっくりと咀嚼して、考える。たしかに、フィルが言ったことは間違ってない。数ある星の一つの可能性。

お父さんが、グレイシアに何かをしたと。

そんな可能性があったことを。

今、言われて、気づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ