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F*ther  作者: 采火
本編

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132/153

彼女が遺したものは

呼び出したルギィを連れて、マッキーたちの所へと戻れば、彼らも仕事が一段落したようで、ちょうど馬車に乗り込もうとしていたところだった。


「あら、早いじゃない」

「やー、優秀な部下がいてさー。僕らが留守の間も、やれる仕事やっといてくれたみたいなんだよねー。これもう僕必要なくない?」

「そんな優秀な奴がいるのか?」


フィルが不思議そうに言うから、私が口を開く。


「サリヤ達が来るまで、グレイシアの補佐官がこの町の政務をこなしていたのよ。グレイシアは研究に明け暮れていたから、政務を仕切っていたのはその補佐官の方」


元々、魔法使いは抑止力のために役人として派遣されているわけだから、お役所仕事の教育はいまいちなのよね。だからそれを補うために補佐官がつけられる。

国としては、グレイシアの死後、その補佐官がとても優秀だったし、魔法使いが治めなくてはならないほど荒んだ町でもなかったから、今まで、魔法使いの派遣を見送らせていたってところかしら。今まで、町の運営が滞りなく進んでいたのはその補佐官が人知れず仕事をしていたから。


「さすが、ニカ・フラメル……って言いたいけど、この町の人なら誰でも知ってるはずだと思うんだけどなー?」

「俺、旅人だし。生まれも育ちもここじゃないし」


そっか、とサリヤは納得した。それから、馬車に乗り込む前に、私とフィルの後ろに視線を送る。


「やぁ、風を纏い水辺に遊ぶ精霊。よろしく」

「よろしくもなにも、私は馴れ合う気などありません。ニカが貴方たちを頼る間、供にいるだけです」


つんっとそっぽを向いて刺々しい言い方をするルギィに、ずっと思っていたことを聞いてみる。


「そういえば、どうしてルギィはマッキー家から離れて私と契約したの?」


マッキー家の力が廃れたから離れたのも分かるけれど、どうしてグレイシアを選んだのか。それが不思議だった。


「……私がグレイシアと契約した経緯は、貴女がよく知っていると思いますが」

「それはそうだけれど、あなた、肝心なことを何一つ私に教えなかったじゃない」


ルギィが何一つ、グレイシアに明かさなかったまま契約をし続けた理由を、私は知りたいの。

じっとルギィを見つめていると、観念したようにルギィはため息をついた。フィルもサリヤも、御者台のカリヤも、ルギィを見る。注目の最中、ルギィは口を開いた。


「……生きたいと、必死になっていたグレイシアに、我が友の命を救って欲しいとどうして言えましょう。彼女は自分の事だけで手一杯だったのに、悩みの種を増やしてやりたくはなかった。そうこうしているうちに、グレイシアの命は尽きてしまった。それだけの話です」

「その後のことは考えなかったの?」

「その後?」


私の問いに、フィルが聞き返す。ルギィは唇を引き結んだ。


「グレイシアの代わりに封印できる人を探すべきだったのに、ルギィはそれをしないで、あの屋敷に留まり続けたじゃない」


グレイシアが死んだのなら、ルギィは契約が切れて自由な身になる。なのに、代わりの人を探すことなく、あの屋敷に留まり続けたのには、理由があると思うのが当然じゃない?

それを追求しているの、と強い意思を持ってもう一度ルギィを見た。そうしたら、ルギィは神妙な顔をしていた。。


「私も本当ならそうしてました。でも、私とグレイシアの契約が、切れなかったのです」

「契約が切れなかった?」


フィルもサリヤも眉を潜める。私だって、怪訝な顔になる。


「普通、契約者が死んだら切れるんだろ?」

「そうです。でもグレイシアが亡くなった時には切れなかったのです。不思議に思ってずるずるとあの屋敷に居着いていたら、ある日突然、契約が切れた」

「いつ?」


サリヤが尋ねる。

ルギィは神妙な表情になって、言葉を続ける。


「……タレスの子が生まれたとき。ニカ、貴女が生まれた瞬間にグレイシアとの契約は切れました。そして赤ん坊の貴女を見て確信した。貴女はグレイシアであると。気配も魂の形も、全て同じ。ただ、魔力だけが空っぽだったので、私はこれはどういうことなのかと、この不思議がとけるまで、あの屋敷に留まることを決めたのです」


ルギィが目を伏せる。


「私の中で、グレイシアは生きていた。契約が続いていたのだから。……私は、彼女の死に目に合わなかったから、グレイシアが死んだと聞いても、取り合わなかった。不思議な感覚でした。確かに自分は彼女が生きている気配を感じ取っているのに、人形のように動かなくなった彼女を見た時は」


……本当の事を言うと、私は、グレイシアが死んだ時のことをきちんと思い出せない。霧がかかったように曖昧で、はっきりと自分が死んだことを知覚した瞬間なんて無かった。

泣きじゃくるお父さんの腕の中にいたことは覚えている。泣かないで、とその涙を拭ってあげたことも覚えてる。でも、その後、瞼をいつ落としたのか、覚えていない。

言われてみれば、あの日、ルギィはグレイシアの死の間際にいなかった。

それは何故?


「ルギィ、どうしてあなたはあの時、あの場にいなかったの」

「……いたくても、いられなかったのですよ。誰かが、あの屋敷に、私を弾く魔法をかけたのです」

「それはどういう……」

「話はそこまでだ」


カリヤが声をあげて主張する。

私は、ルギィに問いかけようとした言葉を飲み込んだ。声をあげたカリヤを見る。


「話が長くなりそうならば、道中にしてくれ。ここからヴェニス山脈まで遠いんだ」

「……そうね」


エンティーカからヴェニス山脈までは、馬車で二日はかかる。何が起こるか分からないから、体力の温存も考えて、三日。鈍行だから、時間はたっぷりある。

その間、ルギィと話をする時間なんていくらでも取れるわ。

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