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F*ther  作者: 采火
本編

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131/153

答えの放流

泣きじゃくった夜から数えてそう経たないうちに、エンティーカの町へと戻ってきた。サリヤとカリヤはこちらの屋敷と役人としての仕事の様子を見てくると言っていたので、馬車から下ろしてもらって別れる。

フィルに一度アマリス村に戻るかと聞かれたけれど、私は断った。だって今、私があの村に戻ってしまったら決意が揺らぎそうだったから。フィルは何か言いたげにしていたけれど、気づかないフリをした。

でもルギィを連れてこなくちゃいけないことを思い出したから、サリヤとカリヤの仕事が終わるまでルギィを呼び出して待つことに決めた。


「呼び出すってどうするつもりだ?」

「見てなさいって」


私はエンティーカの町を横断している大きな川へと移動しつつ、フィルに得意気に話した。

町で一番大きな橋まで来ると、土手を滑ってその下に潜り込んだ。

この川に流れ込む水はアマリスを流れる川の水流を組んでいる。そしてアマリスを流れる川の水流はグレイシアの屋敷のある小山が起点になっている。庭にある妖精のレリーフのある小さな噴水。あれは起点の水流から分流させてる。つまり。


「エンティーカを流れる川は屋敷にまで通じてるのよ」


そしてそれを利用した特殊な連絡手段もある。といっても、エンティーカに来いと呼び出しをかけるくらいのものだけれど。

私は川を前にして空中に指を踊らせた。さらさらと冷たい魔力を集中させて魔方陣を書く。


「───自由に形作る造形の魔法・魚よ上れ山へと還れ言葉を繋げ」


出来上がった魔方陣に言葉を与えれば、カッと輝いて集束、小さな氷の魚が出来上がった。ピチピチと川原で跳ねている。氷でできてるから実際はピチピチじゃなくて石にぶつかってカツンカツンって落としてるけど。


「……」

「よいしょ」

「放流した!!?」


それまで成り行きを見ていたフィルが、突然大きな声を出した。当然よ。魚だもん。


「魚なんだから放流するのは当たり前でしょ」

「魔法なんだからそんなリアリティ出さなくてもよくね……?」


んー、そうなんだけど、こればっかりは私の魔法の得意不得意に関係しちゃうのよねぇ。

グレイシアは生前、天才と言われていたけれど、実際は一人の人間。得意不得意があるのは当然なのよね。

そんな私が得意なのは「造形」。氷で形を作ること。ある程度簡単なものの形だけならば、魔方陣すら必要としないで作れるの。まぁこれは私の魔力質が高いからこそできるんだけれど。

そんな私は魔法式を造形に加えることでただ形あるものから、力あるものにすることができるの。今の魚だって、ただの魚じゃないの。アマリス村の水流まで自動で遡ってグレイシアの屋敷の庭までたどり着ける空間認識の魔法を組み込んだ上に、その水泳速度を魔力放出速度レベルまで引き上げて、尚且つ次に空気に触れたときルギィへの信号へと変わる変換魔法も組み込んだ。結構高レベルの魔法なんだから。

つまり、何が言いたいかと言うと。


「見た目なんかに惑わされちゃ駄目よ」

「それあんたが言うのか」


なにそれ、私が見た目詐欺しているとでも?


「フィルだって見た目詐欺してるくせに」

「ひっでー、言いがかりだー」

「弱そうな見た目してるわりにはしぶといじゃないの」

「今のマジで傷つく言い方だなっ!?」

「事実じゃない」


私は本当のことしか言いませんー。

ぎゃあぎゃあと二人、橋の下で騒ぐ。そんなやりとりをして、時間を潰す。

二人とも言い合いすぎて喉が渇き始めたから、やめようかとどちらともなく言って、やめた。土手を上った所に、絞りたてジュースの出店があるのでそこでジュースを買って、土手に座った。


「ルギィはいつ来るんだ?」

「そうねぇ……もうすぐ?」

「微妙な答えだなー」


えー。でもそんな遅くはないはずよ? だって魔法の速度は物理速度で縛られないし。なんで私がわざわざ川の中に突っ込んだと思うの。私の魔力と相性の良い水の精霊の後押しがあるからに決まってるじゃない。

二人でちびちびとジュースを飲んでいると、ふわりと風が頬をくすぐった。不自然に舞い上がる草と土埃。


「来た」


言うやいなや、瞬きのうちにふわふわの金髪をなびかせて舞い降りる精霊。足首を越える長いローブの裾をはためかせ、地上に降り立つ。


「ルギィ」


呼び掛ければ、彼は不適に笑った。

川原に降り立ったルギィはさくさくと土手を上ってくる。彼の足元でわずかに風が動いて、ローブの裾が土に触れないようになってる。まったく、妙なところで魔力を使って。

ルギィは私たちの目の前まで来ると、腰を下げて、目線を座っている私に合わせた。


「目と鼻の先なのに私を呼びつけるなんて言い度胸ですね、ニカ」

「どうせ暇してたんじゃないの」

「そうですね、貴女からの連絡にすぐ気づくくらいには暇でした」


そう言って、ルギィは目を細める。


「───ニカ、貴女に私の願いが叶えられますか」


何百年、何千年、過ぎ行く時のなかで、ルギィが忘れたことのない願い。

私はそれに応えなきゃ。私が記憶を持って生まれた意味は何か、ずっと考えてきた。それがこの因果を絶つためというのなら。


「私以外に誰ができるというのよ」


これ以上ふさわしい人間なんていないじゃない。

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