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F*ther  作者: 采火
本編

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宝箱のそこに隠した気持ち

こほんとフィルは咳払いをして改まった。別に今さら改まっても遅い気がするだけど……まぁいいけど。


「俺が言いたいのはな、ニカ。あんたはもうちょい周りを頼れってことだよ。大人びて一人でなんでもできると思ってるから大変なんだっつーの。もうちょっと人をうまく使えよ」


そんなこと言われても。


「……頼り方なんて分からないもの」


だって私は誰も頼れない、頼っちゃいけない。変に弱味を見せて、真実を打ち明け、自分に不利益を持ち込みたくない。

お父さんに、知られたくない。


「……お父さんに知られないように必死に隠してきたのよ。それが呆気なく無に帰して、どうすればいいのか分からないのよ」


ここ最近の私は何かがおかしかった。矛盾していた。知られたくないから隠そうとしていたのに、隠していることが露見していた。

お父さんも何かおかしいと感づいていてもおかしくない。というかどうして何にも気づかれないと思っていられるの。

でも、私が抱えるのはそれ以上の不安。

もう二度とお父さんの前に姿を現せられないという不安。

だって、魔力を取り戻した私をみれば、さといお父さんはすぐに気づくでしょう。このチョーカーやブレスレットの意味に。グレイシアと全く同じデザインなんだから。


「……恨むはフィルのデザイン力ね」

「そんなの言われなかったんだから設計図通りに作るだろっ」


フィルが弁明するように言うけれど知りませーん。

でもこうなったから、私は気持ちの踏ん切りもついたのよ。


「……フィルには言っておくわね。私はもう、アマリス村には戻らない。この際だから、フラメルの家にはもう帰らない」

「……俺、あんたを連れ帰れって約束してるんだけど」

「知らないわよ。まぁでもルギィがあなたの味方をする以上、お父さんがあの家の権利を主張する意味はなくなるわ。だからせいぜいルギィに恩を売っておきなさい」

「うへー」


フィルは嫌そうな顔をするけれど、そうしないとあなた自分の研究室持てないんでしょ。国家資格もらうのも有りだと思うけれど、あなたの場合その体だからあんまりよろしけないわけだし。

フィルとルギィなら仲良く二人で暮らしていけるんじゃないかしら。喧嘩も多そうだけれど。

頭の中でフィルがあの屋敷に一人残ることを想像する。なんだかんだアマリス村の人とも溶け込むのよきっと。ユートに気に入られてるから、お父さんもきっと邪険にはできない。私にも甘いけど、ユートにも甘いからあの人。根っからの親馬鹿なのよね。昔から子供好きだったし。

つらつら考えていると、フィルが唐突に話題を転換してきた。


「なぁニカ。あんたは……まだタレス殿が好きなのか?」


とくんと胸が飛び上がる。そんなの。


「……親が好きなのは子として当たり前でしょ」


魔法式を書く手を止めそうになって、でも書き進める。かりかりと地面を削って、ふと気づく。


「……ちょっと待って、なんでフィルがそれ知ってるの?」

「何が?」

「グレイシアがお父さんを好きだったことよ」


ちょっと顔が赤くなる。うう、今が夜でよかった。というか、私はこの手の話題、フィルに出してないよね?? あれ?? 口に出していないつもりでも私喋っちゃってた??

ちょっと軽く混乱していると、フィルはなんてことの無いように言ってくる。


「ルギィに聞いたんだよ。タレス殿がグレイシアの屋敷に執着する理由。そしたら恋仲だったって聞いてさ。ニカがグレイシアなんだってはっきりしてからずっともやもやしてた。あんたはどう受け止めているんだろうって」


……そっか。フィルは気づいていたんだ。

グレイシアはお父さんのことを今でも好きよ。でもそれはニカには許されない気持ちだから。許してはならない気持ちだから。


「……フィルはどうして、そんなにするどいのよ」


フィルがそんな風だから、私は自分の気持ちを隠しても意味がなくなってしまう。フィルになら言ってもいいのかしら。彼なら、私の本当を聞いてくれるかしら。

……私は誰かにずっと言いたかった。あの人の隣には本当なら私がいるのよって。でもそれだけは言えなかった。言ったらニカ・フラメルの存在事態を否定することになったから。ニカの存在を否定することは、お父さんの人生を否定すること。苦しかった。板挟みだった。

私の瞳からぽつりと滴が落ちる。小降りだったのがだんだんと大降りになって、堰を切ったかのようにあふれでた。


「隠さなきゃって……秘密にしないとって……!」

「あー……ごめん。ごめんて、ニカ」

「フィルのばかぁ……っ!」


つらいなんて思わなかったことなんてない、ずっとずっと傷ついてきた。あの人の隣にいるのはグレイシアじゃないってことを嫌でも見せつけられてきたのはこのニカ(わたし)なのよ。

泣きじゃくる私の肩を抱くようにして、フィルは宥めてくる。書き込んだ魔法式は涙で泥になる。ぐちゃぐちゃになった顔を、私はフィルの肩に押し付けた。

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