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F*ther  作者: 采火
本編

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122/153

光の鎖が彩る魔力解放

お師匠が杖を掲げた。ふわふわと顔を隠す薄布が揺れて、紅を引いた唇が小さく動いた。


「いきますよ」


言葉と同時に、お師匠の魔法陣から魔力の光が、水路を流れるようにして魔法陣の上に注がれていく。白いお師匠の魔力がサリヤの魔法陣を一度染め上げると、お師匠の合図でサリヤが魔力を流し込み、赤い魔力も注がれ始める。そして二色の光が私の方へじわじわと迫り始めた。


「───絡め捕らえる鎖よ」


お師匠の発する呪文と連動して魔法陣が輝く。

私の左右に配置された魔方陣が一際大きく輝くと、陣の中から鎖が噴き出して、私の手首を絡めとった。

「───捕らえるは心淵(しんえん)に潜むもの」


私の前後の魔法陣が輝くと同時に私の胸に目掛けて鎖が噴き出す。軽い衝撃に思わず目を瞑る。

私の中で何かが蠢いた。私にも知覚できるほどに、何かがとぐろを巻いている。


「───炎に溶かされ姿をお見せ」


サリヤの魔力が手首の鎖を伝わって全身を巡る。全身だけじゃなくて、精神にも。火傷をしそうなほどに熱く、私を焼こうとするから、耐えられず声をあげた。


「───凍えるものは温かに、温かに」


炎が私の身体中をまさぐって隈無く蒸発させようとしてくる。全身が火照って、体からしゅうしゅうと水分が抜けていく。


「火鳥の子! もっと質を上げなさい、ニカの魔力に直接流せ込めません。魔力を具象化させては、ニカが死にます」

「そんな無茶なー! 形を持たない魔力を放出させるなんて意識してやるのは無理ですってー!」

「意識的にできないなら、無意識になりなさい」

「…………うわぁー」


サリヤのなんとも言えない呻き声が聞こえたと思ったら、私の体を焼いていた魔力が和らぐ。ぽかぽかと体の内から温める熱になる。


「───心淵から心表へ」


胸に刺さった鎖が縮み、体が引っ張られる。手首の鎖が体を押し止めている。


「───交わるべきでないものはこちらへ」


導く師匠の声に誘われるように次々と魔法陣が連鎖して輝いた。その都度、鎖の強度は増していく。それどころか、私自身にも魔力の流れが知覚でき始める。私の冷たい魔力がサリヤの魔力とせめぎあい、その奥深くでとぐろを巻いた魔力が、外に出ようとする私の魔力を吸収する。


「───氷の華が開花する」


どんどん膨れ上がる私の魔力。サリヤの魔力によって打ち消され、封印している魔力が抑え込もうとする。それももう、限界。


「───編んで絡まりほどけぬものを救う魔法」


最後の言葉とともに、私の魔力がサリヤの魔力を超え、封印していた魔力すらも超えた。辺り一面に霜が下りて、霜が重なり結晶となった。そして弛んだ余所者の魔力をお師匠の鎖が、引きずり出す。


「───っぅ、あ」


ひゅっと喉の奥に細く息が通る。潜んでいたものがどくんと波打った。まだ、出ようとしない。

お師匠が声を張り上げた。


「ニカ、魔力を使い果たしなさい! 封印が根付いている部分を外に押し出すのです!」


気を抜けば、意識を手放しそうになる。それでもぐっとこらえた。

重たい右手で宙に魔法陣を描く。もちろん、魔力を乗せて。ここまで表に出た魔力なら、導くのは簡単。

できるだけ魔力の消費を。私自身がコントロールして。抑えられた魔力すらも使う魔法を。


「───氷の造形の魔法」


私はまず一つ、魔法を使う。氷でできた小振りの杖を作り出す魔法。私の手によくなじむそれは、グレイシアが使っていたものと全く同じ。

その杖を使って、より複雑な魔法陣を描く。きらきらと氷の粒が散った。

杖を振るうために腕を動かせば光の鎖は弛んだ。私は魔法陣を描くことに集中する。


「……サリヤ、あとは、たのんだ、わ」

「は?」


魔法陣を描くことにすら魔力を使う。魔力で編む魔法陣。複雑であればあるほど、そこに費やされる魔力は膨大。

魔力という液体を型も無しに形作るのは難しいと、魔法を使う者なら一番最初に習う。

別に魔法陣を魔力で編んではいけないというわけではないけれど、魔法使いはそんな非効率的なことを好まない。蓄積魔力の多い魔法使いとかは杖を持つことを嫌う。邪魔になるだけだと。でも、普通はそんな手間を省くために、自身がよく使う魔法を杖に刻み持ち歩く。そもそもそんな蓄積魔力があるのが珍しい。

私がわざわざ杖を作ったのには理由がある。杖がなくても魔法陣は描けるけれど、それ以外の理由。

それは、杖に魔法を刻むため。

杖に刻んだ魔法は───融合。

また一つ、魔法陣を描き終わる。


「───氷の造形の魔法」


魔力が枯渇するくらいになると、造形にも力をいれなければ。私が作ったのは氷の人形。冷ややかで、美しい、生前のグレイシアにそっくりな、等身大の人形。たなびかない髪と、何も映さない瞳、そして冷たい体。

サリヤが息を飲んだ気配がした。でも、まだ。まだこれだけじゃない。


「───手足を動かす人形の魔法」


操り人形の魔法をつくる。杖がキィンと鳴って、操り人形の魔法は、造形の魔法陣に重なった。

そして最後。


「───我が身を守る意志は剣の魔法」


一番複雑な魔法陣が、先二つの魔法陣に重なった。どくどくと魔力が人形に流れていく。また杖が、キィンと鳴った。

そして最後。杖の魔法を解放する。


「───三重に束ねた結晶の魔法……!」


人形の瞳に光が宿る。重なった三つの魔方陣が光の粒子を散らして砕け散った。

グレイシアと瓜二つな氷の造形は、人間のような動きで滑らかに動き出す。霜の降りている土をサクサクと踏んで、人形は歩き出した。

お師匠が叫ぶ。


「馬鹿娘! 人形の制御をなさい!」

「…………む、り」

「は!? 制御ないのー!?」


かすれていく意識の中、唯一感じ取れたのは、私の魔力を相殺していたサリヤの魔力の風向きが変わったこと。熱をはらんだ風は、私ではなく、人形の方へと向いた。

私がやるのは魔力を全てさらけ出すと言うことだけ。

ずるりと、奥深くに根付いていた何かが、私の中から引きずり出された。

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