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F*ther  作者: 采火
本編

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116/153

話の着地点どこですか

コポポと音を立ててお湯を注いでお茶を蒸らす。その間に茶器を準備して、通された応接間へと運ぶ。応接間といっても大きなテーブルにイスが四人分用意されてるだけのただのリビングだけれど。カリヤがいなくて良かったわね。カリヤがいたらたぶん、誰か一人立ちっぱなしになるはずだから。

カチャカチャと静かな空間で陶器が擦れる音だけが響く。フィルもサリヤも黙ってそれを見ていた。

すべて終わって私が席につくと、お師匠は静かにお茶を飲む。ほっと一息ついて、ふふと笑った。


「変わりませんね。味も作法も、教えた通りです」

「……」


簡単なもてなし方はお師匠から教わった。生活の上で必要になる作法はほとんどお師匠が、研究の合間にしつけてくれた。

今のお母さんだって教えてくれたけれど、根本にはやっぱりお師匠に教え込まれたものがあったから、お母さんも私に対して口煩く作法をしつけてはこなかったわ。

お茶の味に関しては、お師匠の住むこの家にある茶葉が特殊なブレンドになっているから。茶葉とお湯の割合、蒸らしの時間を少しでも間違えれば、お師匠を満足させられる味にはならない。

こんなことをさせればフィルとサリヤの怪訝はますます濃くなるばかりじゃないの。もう、お師匠は私をいったいどうしたいの。

じとーっと睨み付けてやれば、お師匠は涼しげな顔でさらりと言う。


「どうしてこんなことをさせるのか、と言いたいのは分かります。ですが、黙っている方が無理があるのですよ。どんなに慎重にいてもどこからか綻びは生まれるもの。そうは思いませんか?」

「……」


お師匠は黙っている方が無理だと言うけれど、私はそれでも隠しておきたいの。私がニカである限り、誰にも知られたくはないと思ってるんだから。


「風の子も、火の鳥の子もその綻びを頼りにしているのですから、貴女は隠す必要はないのです。隠すからこそ、後ろめたく感じ、余計な責任を負おうとしている。違いますか?」


……反論は、できない。隠そうとしているからこそ、生まれた責任も私が人知れず負わなければならない。そう思うのは、当然でしょう? それの何がいけないと言うの。

ふつふつと腹が立ってくる。お師匠はいつもいつも私に諭すように話しかけてくるけれど、これは私のことよ。私以上にどうすればいいのか、どうしたいのかが分かってる人なんていないでしょう。


「───まるで占い師みたいな言い方だなぁ」


席について早々に剣呑になる私とお師匠の間に割り込むようにして、サリヤは話を遮ってきた。危ない危ない、熱くなりすぎて手が出始めたら目も当てられないわ。何より、昔みたいに魔法の応酬できないのだし。

サリヤのお陰でちょっと冷静になれたわ。お礼は言わないけれど。


「ニカ・フラメルが隠したいのってグレイシアのことかな?」

「っ!?」


落ち着かせようとお茶を飲もうとした途端にこれだから、思わず噎せてしまった。いやもうほんと自然に会話に入れてくるからびっくりするじゃないのもう。私にだって心の準備と言うものがあるんだから!


「噎せる必要、無くなーい? だって二人の会話聞いていれば簡単に予想はできるしー? ね、フィルレイン」

「あー、まー、グレイシア関連でニカがおかしくなるのは最初っからだったしな。今更だと思う」


うっ、それ私が挙動不審ってことよね!? そ、そこまでひどくは……あ、いや、ひどいです、はい……。


「ニカ・フラメル。協定を破ってるならちょっといただけないんだけどー?」


私は目を反らす。だって、破ってはいないわよ、破っては。必要なことは全部話してるし、グレイシアが知らないことは教えられないもの。グレイシアが知らないという事実はわざわざ教えてはいないけど。


「……協定は破ってないわよ。必要なことは教えてる。フィルにも、答えられることはいつも答えてる」

「黙ってることは?」


フィルが言う。

……そんなの、沢山あるに決まっているでしょう。合ってすぐに、ぎくしゃくしたの嫌だから話したくないなら黙ってて良いっていって詮索かけるのやめたのフィルじゃない。


「恥ずかしがらずに話した方が特ですよ」

「……出会って二ヶ月経つかどうかの人に、こんな人生左右するような話できますか」

「おや、そうなのですか? 仲が良さげなので、付き合いが浅いのだとは思いませんでした」


まぁその、出会ってからすぐに同居だからね? 毎日顔合わせてればそれなりになるわよ。

ふむ、とお師匠が何やら考え込む素振りをする。

何、今度は何を企んでるの。


「……まぁ、貴女がごねる理由は分かりました。ですが、このままでは宜しくないなのですよ」


宜しくない……魔力の暴走とかのことかしら。

確かにこのままだと、またいつ暴走するか分かったもんじゃないわ。だけど、これを具体的にどうするかなんて思い付かないし、一体どんな状況になってるのか、私自身も理解していないもの。


「貴女は今、魔力を内側から引っ張るように……魔力の循環そのものに干渉することによって魔力の放出を留めています。封印自体をほどくことの難易度が高いのは勿論のこと、逆を言えばその封印があったからこそ自身ですら感知できないレベルにまで抑え込まれているのです。さらに言えば他者のかけた魔法が表にあれば、その魔力の違和感は魔法使いに簡単に気付かれるわけですから、ある意味幸いでしたね」

「……つまり?」


えと、お師匠の言っている事は分かるんだけれど、言いたいことが分からない。どういうことなの?


「子供になったからって頭まで退化しなくて良いんですよ」

「その言い方はあんまりです」


非難がましく言ってやれば、お師匠はやれやれといった体で首を竦めた。それから神妙な顔で、当然のことのように言う。


「簡潔に言います。現段階で貴女の魔力を解放させれば、まず間違いなく抑え込んだ魔力の反動以前の問題として、自分自身のその魔力の質に殺されます。他者にこの封印を解かれなかったことが幸いでしたね」


……そういうことね。


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