お兄ちゃんっぽくないじゃん?
じっと何かを見定めるかのように、フィルの顔を見ていたお師匠が、深くため息をつく。
「貴方もまた、ひどく残酷な宿命を背負っているのですね」
お師匠はそれだけ言って、フィルの手を握ると私の手に重ねさせた。え、何ですか。
「……風の子。今一度、自分を見直す良き機会です。貴方も明日いらっしゃい。まとめて四人とも、相手してあげましょう」
さ、おゆきなさいとフィルへと私を押し付けたお師匠は、立ち上がると颯爽とホールへと戻っていく。取り残された私達も移動しようと、私は立ち上がろうとした。寒くて敵わないわ。
そうしたらフィルが一昨日と同じように、自分のコートを脱いで私へと被せてくる。いらないって言おうと思ったけど、フィルが厳しい表情をしてたから、言えなかった。
「あんたさぁ、いい加減にしろよ」
ちょっと怒ってる声でフィルは言う。
「隠し事をするのはあんたの勝手だ。だけど心配をかけさせるような隠し事はすんな。何かあったとき、タレス殿に顔向けできなくなるぞ」
叱られてるんだ。
私のことを叱れるような人って本当に貴重。アマリスの皆は私を叱るってことを殆どしたことがないし、私も叱られるようなことをしたことがない。家族にさえ、日常生活で叱られたこともないわ。そんな無茶をしたことがないから。
だから私も、真剣に答えてみる。
「フィル、言い訳させて」
「なんだ」
「予測不能回避不可能なんですけど」
「そーれーでーもーなー」
むにむにとほっぺをつままれる。あひゃひゃ、いひゃい。
「あんたには学がある。学があっても実践しなけりゃ価値なんてなくなる。少しはどうにかしてくれよ。あんたは自分のことに無頓着な時があるから、心配でたまらない」
そう言って、フィルは私を抱き上げる。この感覚にもそろそろ慣れてきたわ。
学があるならそれ使えって……私だってなんの条件で魔力が暴走してくるなんて分からないんだもの。対策なんて無理よ。しかも自分じゃ把握できてないし……もしかしてフィルってば私のこと、何でもできる人だと思ってる?
フィルが俺たちは一足先に帰ると言って、ホールに戻ろうとした。馬車はどうするの?
「……一ついいか」
「どうしたのー、カリヤ」
行きの御者だったカリヤが声をあげたから、彼も同じことを思ったのかしら。
「あの盲目の魔法使い、四人でと言ったか。私も入っているのか」
そっちですか!
カリヤもそうだけど、マッキー兄弟ってなかなかに自由度が高すぎるわ……。
「都合が悪い?」
「ああ。明日は騎士団の演習日だ。団長にたまには顔を出せと言われている」
「あー、そっか……ならカリヤはそっち優先させて良いよ」
「だが、そうするとお前の護衛が……」
「大丈夫、護衛なんか要らないしー。もういくつだと思ってんのさー。いいかげんお兄ちゃんを信じなさーい」
うーわー。
「サリヤがお兄ちゃん面してる……」
「なんか……意外」
フィルと二人でぼそりと言えば、サリヤがこっちに向かってはぁ?って顔をした。なにその顔。馬鹿にしてるの?
「僕はいつでもカリヤの兄として行動してるじゃん」
だけどそれを否定して私とフィルは二人して首をぶんぶん振ってみた。
「サリヤって子供っぽいから」
「というか、カリヤにお守りされてるだろ?」
「ひっどーい」
口を尖らせたサリヤ。カリヤが苦笑しつつ、話を変える。
「そういうわけだ、もぐり。くれぐれもサリヤに何かがあったら承知しないからな」
「……ブラコンめ」
「あ゛あ゛?」
ぼそっと呟いたフィルに、カリヤがすんごい眼光で睨んだ。私も思ったから、それ。
「それじゃ、明日は三人だー」
はい、これでおーしまい。とサリヤが場を締める。それじゃ帰るかとフィルは今度こそ踵を返した。その後ろからサリヤが、自分達はもう少し残っていくとのことを言って別れる。もちろん私はフィルに抱き上げたままホールを突っ切る形になった、恥ずかしい。
……それで、馬車はどうするの?




