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F*ther  作者: 采火
本編

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11/153

助けを求める声

 あのフィルレインとかいう男。二度と会わないだろう、そう思ってたのに……


「おチビ助けてくれ……!」


 まーさーかー、町どころか図書館からすら移動していないとは。なんか本を借りようとカウンターに来たら泣きつかれたんですけど、なんで?


「図書カードの発行ができないから貸し出せないって言われた……! かくなる上はおチビが借りて読まさせてくれ……!」

「えー……」


 やだー。あんまり関わりたくないのに。


「あら、ニカちゃんのお知り合いなの? この人、住民登録されてないみたいなのだけれど……。そのせいで本が出してあげれなくて」

「いいですよ。この人明らかにこの町の人じゃないですし。私もついさっき知り合ったばかりの他人ですから」


 カウンター当番をしているのはカトレヤさん。お母さんの友達で、昔から御世話になってる人。色々融通はきくけど、この変態のためにお願いするのはね?


「おチビ〜!」

「そこまで面倒見ないわよ」

「お願いだから〜!」


 ゴネるな私より大人のくせに!


「あの、お客様。申し訳ありませんが、ニカちゃんの図書カードでも貸し出しは無理ですよ。閲覧は可能ですが、専門書の類の貸し出しには資格の取得が必須なので」

「資格?」

「普通の学術書程度なら学生証、魔法学書程度になると国家魔法使いの証明証が必要になります」

「あなた魔法使い?」

「……魔法は使えるけど国家魔法使いではない」


 もぐりか。ざまぁ笑。


「カトレヤさん。この本借りまーす」

「はい、ちょっと待っててね」


 ぶすくれたフィルレインをよそに、私が本と図書カードを出したら、カトレヤさんは貸し出し手続きを手早く済ませてくれる。持ってきていた手提げに入れてもらって、さて帰ろう。


「なー、おチビー、どうにかならね?」

「なりませんー。そろそろ帰るんだから着いてこないでよ」

「やーだー」

「ヤダじゃない!」


 左手に手提げ、右手にユートを携えて、図書館を後にする。それでもフィルレインは後ろから着いてきた。

 どうして着いてくるのよ、しつこすぎでしょう。しつこすぎて町のど真ん中で思わず声を荒げてしまう。


「ちょっともう本当にいい加減にしてよ! 私にグレイシアの事を聞いても何にも出ないって言ってるでしょ!?」

「だから教えてくれればすぐ消えるって」


 こいつは……!

 私は一度落ち着こうと目を瞑る。落ち着け、こいつが私の前世を知るわけがないのだから、グレイシアの事を聞いてくるのは仕方ないのだ。何かを探していると言っていたから、必死なのだろう。

 それでも。

 抑え込んでいた思い出を想起させられるような事は、されたくない。

 ぎゅっと拳を握る。爪がてのひらに食い込む痛みが、私を支えてくれる……て、あれ?


「ユート?」


 手を握っていたはずのユートがいない。

 さぁっと青ざめる。どうしよう、目を離さないように気をつけてたのに、フィルレインに気を取られすぎてた……!


「? あ。あんたの弟はあっち」


 フィルレインの指差す方を見れば、ユートはお店を覗いてて。ほっと胸をなで下ろす。良かった、近くにいて。

 だ、だからといってほだされるわけではないからね!?


「とにかく、もう私にまとわりつかないで」

「冷てーの」

「本のことは教えてあげたでしょ」


 そしてユートに帰ろう、と声をかける。ユートはいつものように元気に返事をして、こちらへ駆けてくる。


 ───その時、通りがざわめいた。

 ざわざわとした中、突然、ハチャメチャなリズムを刻む蹄の音が正確に耳に届く。


「逃げろ逃げろー! 馬が暴走しとるぞー!」

「ユート!」


 慌ててユートの方を見れば、念のために逃げる人々の中で転ぶ所で。痛みと驚きの涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、立ち上がろうとしてる。

 通りは広い。ユートは通りを挟んで向こう側にいて、それをこちらへ渡ろうとしていたから、今は通りの真ん中にいる。まだ、馬はこないみたい。迎えにいこう。


「ほら、ユート、立って」

「お姉ちゃぁぁぁん」

「ほら、泣かないの」


 手を引いて踵を返そうとするけど、遅かった。

 この道路、直線ではなくて、緩やかなカーブになってる。建物の陰で、カーブの向こう側は見えにくくなってる。

 だから私は憶測を見誤った。


 建物の陰から飛び出してきた馬が、私達に襲いかかった。


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