助けを求める声
あのフィルレインとかいう男。二度と会わないだろう、そう思ってたのに……
「おチビ助けてくれ……!」
まーさーかー、町どころか図書館からすら移動していないとは。なんか本を借りようとカウンターに来たら泣きつかれたんですけど、なんで?
「図書カードの発行ができないから貸し出せないって言われた……! かくなる上はおチビが借りて読まさせてくれ……!」
「えー……」
やだー。あんまり関わりたくないのに。
「あら、ニカちゃんのお知り合いなの? この人、住民登録されてないみたいなのだけれど……。そのせいで本が出してあげれなくて」
「いいですよ。この人明らかにこの町の人じゃないですし。私もついさっき知り合ったばかりの他人ですから」
カウンター当番をしているのはカトレヤさん。お母さんの友達で、昔から御世話になってる人。色々融通はきくけど、この変態のためにお願いするのはね?
「おチビ〜!」
「そこまで面倒見ないわよ」
「お願いだから〜!」
ゴネるな私より大人のくせに!
「あの、お客様。申し訳ありませんが、ニカちゃんの図書カードでも貸し出しは無理ですよ。閲覧は可能ですが、専門書の類の貸し出しには資格の取得が必須なので」
「資格?」
「普通の学術書程度なら学生証、魔法学書程度になると国家魔法使いの証明証が必要になります」
「あなた魔法使い?」
「……魔法は使えるけど国家魔法使いではない」
もぐりか。ざまぁ笑。
「カトレヤさん。この本借りまーす」
「はい、ちょっと待っててね」
ぶすくれたフィルレインをよそに、私が本と図書カードを出したら、カトレヤさんは貸し出し手続きを手早く済ませてくれる。持ってきていた手提げに入れてもらって、さて帰ろう。
「なー、おチビー、どうにかならね?」
「なりませんー。そろそろ帰るんだから着いてこないでよ」
「やーだー」
「ヤダじゃない!」
左手に手提げ、右手にユートを携えて、図書館を後にする。それでもフィルレインは後ろから着いてきた。
どうして着いてくるのよ、しつこすぎでしょう。しつこすぎて町のど真ん中で思わず声を荒げてしまう。
「ちょっともう本当にいい加減にしてよ! 私にグレイシアの事を聞いても何にも出ないって言ってるでしょ!?」
「だから教えてくれればすぐ消えるって」
こいつは……!
私は一度落ち着こうと目を瞑る。落ち着け、こいつが私の前世を知るわけがないのだから、グレイシアの事を聞いてくるのは仕方ないのだ。何かを探していると言っていたから、必死なのだろう。
それでも。
抑え込んでいた思い出を想起させられるような事は、されたくない。
ぎゅっと拳を握る。爪がてのひらに食い込む痛みが、私を支えてくれる……て、あれ?
「ユート?」
手を握っていたはずのユートがいない。
さぁっと青ざめる。どうしよう、目を離さないように気をつけてたのに、フィルレインに気を取られすぎてた……!
「? あ。あんたの弟はあっち」
フィルレインの指差す方を見れば、ユートはお店を覗いてて。ほっと胸をなで下ろす。良かった、近くにいて。
だ、だからといってほだされるわけではないからね!?
「とにかく、もう私にまとわりつかないで」
「冷てーの」
「本のことは教えてあげたでしょ」
そしてユートに帰ろう、と声をかける。ユートはいつものように元気に返事をして、こちらへ駆けてくる。
───その時、通りがざわめいた。
ざわざわとした中、突然、ハチャメチャなリズムを刻む蹄の音が正確に耳に届く。
「逃げろ逃げろー! 馬が暴走しとるぞー!」
「ユート!」
慌ててユートの方を見れば、念のために逃げる人々の中で転ぶ所で。痛みと驚きの涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、立ち上がろうとしてる。
通りは広い。ユートは通りを挟んで向こう側にいて、それをこちらへ渡ろうとしていたから、今は通りの真ん中にいる。まだ、馬はこないみたい。迎えにいこう。
「ほら、ユート、立って」
「お姉ちゃぁぁぁん」
「ほら、泣かないの」
手を引いて踵を返そうとするけど、遅かった。
この道路、直線ではなくて、緩やかなカーブになってる。建物の陰で、カーブの向こう側は見えにくくなってる。
だから私は憶測を見誤った。
建物の陰から飛び出してきた馬が、私達に襲いかかった。




