リコリス騎士団長
ただひたすらエルヴィーラだけとは会わないようにこそこそと周囲を警戒しながらホールを歩き回る。
サリヤが色々な人に声をかけては何やら話し込んでいる後ろで、私とフィルはモグモグと立食形式でテーブルに置かれている美味しそうな料理を持ってきては口に頬張る。カリヤがお前らも情報収集に行けって目線を送ってくるけど、ねぇ?
「あ、ニカ。この香草の包み焼きうめぇ」
「ほんと? とってー」
ほいほい、とフィルがトングで料理を私の持つ皿に置いてくれる。自分で取っても良いけど、ドレスに引っかけたら怖いからね。
エルヴィーラがいないことチラチラ気にしつつ、もそもそと口に一欠片放り込んでる間も、フィルはフォークを加えてトングで私の皿にまで色々放り込んでくる。……うん、さすがに多いわ。
「フィル、入れすぎー」
「ニカはそれくらい食わなくちゃなー。大きくなれねーぞ」
「ドレスじゃなかったら蹴っ飛ばしてたわよ?」
それも思いっきり脛をね!
もそもそ食べながらサリヤのお供もしつつ、周囲の警戒。疲れるー。楽しむどころか逆にストレスよね、これ。主に自主的ストレスを被ってます。
「あ、ニカ、危な……」
「きゃっ」
考え事しつつ、お皿をつつきつつ歩いていたから、横から来た人とすれ違い様に肩がぶつかった。
「あ、ごめんなさ……」
「うぉいうぉい、何ぶつかってれんらぁ?」
うわ、酒くさ。
口にも顔にも出さないで思う。厄介な奴とぶつかっちゃったかも……
「おめーは、騎士様を知らねーのかぁ?あぁん?」
「えと、その、あの」
ちょっ、顔寄せないで!酒臭いから!!
フィルに助けを求めようとチラッと見たら、手に持った皿をどこにおけば良いのかとあたふたしてる。あぁもう! 肝心なときに役に立たないわね!!
「うぉいうぉい、騎士様に無礼にもぶつかった罰を与えないとなぁ?」
「え、いや、ちょっと……!」
その酒まみれの手が私に触れるか否かその間髪、すっとその間に誰かが静かに割り込んだ。
「待て。お前、飲み過ぎだ。帰れ」
知っているような、知らないような、声。深紅のマントをなびかせて、私と男の間に割りこんだ人。
淡々と言葉を発したその人の顔を見て、酔っぱらいはぎょっとした顔になった。
「う、ぇ」
「言っただろう。次酒関連で粗相をしたら謹慎処分にすると。まだ物事の分別がついているうちに帰れ」
「……」
酔っぱらいがすごすご引き下がってくわ。ふらふらとした千鳥足でパーティ会場から退席していく。
「あ……あれっ…………ありがとう」
私を庇ったその人の名前を呼ぼうとしたけれど、考え直す。私に彼の名前を呼ぶ資格はないから。
「礼はいらない。主催者として、参加者に気を配るのは当然だ」
昔も物事には淡々として取り組む人だったけれど、今も変わらない。年を重ねて、貫禄が増している。
「団長。申し訳ありません、挨拶がまだで」
「あぁ、カリヤ。こんなに人がいるのだから、仕方がない」
こちらを向いて、ふっと表情を和らげる。
前髪をあげて、少し長めの後ろ髪を細く一本にまとめてある。アレンと目許がそっくりで、やっぱり親子なんだって思ったわ。
「お前がいるということは、こちらが……」
すっと私に視線を映す。それから目許をゆるめて、微笑んだ。
「タレスの娘か。うちのアレンがお世話になったようだ」
「……ニカ・フラメル、です」
「アレックス・リコリスだ。末子と同じ年だと聞いていたが、少し、小さいな」
「……」
小さいって!! こう、小さいってストレートに言われるの初めてよ!?
アレックスったら、私をアレンみたいなお子様として扱うなんて失礼しちゃう!




