愛らしい着飾り方
隣の部屋に移動をすると、メイドさんがもう一人、小物をごそごそと漁っていた。そばかすだらけの顔で真剣な表情を作りながら、熱心に小物をテーブルへと並べている。
「ロッティ、ドレスを持ってきましたよ」
「ほいな!」
ひょこっと顔をあげるメイドさん。よく身の回りをお世話をしに来てくれるメイドさんだけど、名前は知らなかったわ。ロッティさんていうのね。
「ありゃ? ニカ様?」
こちらに気づいたロッティさんがびっくりした表情をする。
「え、先輩、まだ小物の整理が終わってないんすけどぉ……?」
「先にサイズを図っていますので、気にせずに整理を続けてください」
「はいっ」
ピシッと返事をして再び黙々と作業を進めるロッティさん。えぇと、何をしているのかしら。
不思議思って作業を見ていると、アーシアさんが教えてくれた。
「ニカちゃんのドレスはこのお屋敷の奥さまの、幼い頃のものなのよ。ドレスは丁寧に保存がされていたのだけれど、小物は古くて壊れてしまっているものも多くて、使えるものを探してもらっているの」
「そんな、悪いですっ」
「悪いものですか。カリヤももう少し早く教えてくれていたら、もっと丁寧な準備ができたのですが……」
「いえ、十分です、ありがとうございます」
アーシアさんはクスッと笑う。田舎から出てきた私がドレスを持ってないことを見越しての先手。見事なものだわ。
アーシアさんに手を引かれて、ドレスを選びに行く。久しぶりのドレス。着飾ることは嫌いじゃないから、ちょっとだけ胸が踊るわ。
シルクの生地が手に吸い付く。光沢を持った布地に、繊細なレース。針仕事をしているから、この技術の高さがわかっちゃう。どれを選んでもいいのよね?
一つ一つをじっくりと観察して、ドレスを選ぶ。あ、このエンパイアラインのドレスかわいい。どれも丈が短いから、子供向けドレスだけど……子供向け……子供向け……。
いやまぁ、うん! 分かってたよ! 同じ年頃の女の子の中で一番ちっちゃいってこと! 成人前だから丈が短くて足が出ていても咎められないけど、来年は成人年齢だからね!
「……」
「気に入らない?」
「どれもかわいい、です」
可愛いけれど! 可愛いけれど! 内心ちょっと複雑だわっ! わざとじゃないって分かっているけれど!
「あ、せんぱーい。探していた小物が見つかりましたよーう」
「本当?」
アーシアさんがロッティさんの方を向いたので、私もそちらを振り向く。あら素敵。
レモン色のヘッドドレス。レモンバームの葉の飾りがアクセントになっているわ。
アレに合うドレスは……と、これね。
ひょっこりと一着、出して見る。
「あら。ニカちゃん、似合うわ」
それをアーシアさんが私に視線を戻して、微笑んだ。
「似合う?」
「ええ。あのヘッドドレス使う?」
「うん」
こくりと頷けば、アーシアさんがロッティさんから預かってくる。軽く私の頭に乗せた。
「うん。配色は良いわね。後はドレスが着られるかなんだけど、試着してみてもらってもいいかしら」
「はい」
選んだドレス、サイズが合うといいんだけどなぁ。ドレスって特注のものが多いしね。
「このヘッドドレスは、手先の器用な奥様がお作りになられた物なんです。手作りの小物は幾つもあったんですが、なかなか丈夫ではなくて、唯一残ったのがそのヘッドドレスだけだったんですよー」
「え、そんな大切なものだったんですか」
「お気になさらず、お気になさらずー。どうせ使わなければ宝石箱の足しにしかなりませんからぁ」
ロッティさんがそう言って笑うけど、そうなの、これはマッキー兄弟のお母さんの形見なのね。
死者が残したこの世への形。ふとしたことで、思い出というきらきらと輝きを帯びるもの。グレイシアはそんなきらきらを残せていたのかしら。




